2016/11/14 フィンテックは事業会社にとってビジネスチャンスになりえるか?

AI(Artificial Intelligence=人工知能)やIoT(Internet of Things=物のインターネット)と並び、イノベーションを生み出す新技術の代名詞となっている「フィンテック」だが、事業会社の役員の多くは「ウチには関係ない」と感じているのではないだろうか。

IoT : 住宅、車、家電、家具、建築物、衣服などあらゆる物体をインターネットにつなげることで、生活の利便性を高める技術のこと。
フィンテック : ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)の2つを併せた造語であり、ITを駆使して新たな金融サービスを提供するもの。これまで大手金融機関が独占していた業務をベンチャー企業や個人が行うことができるため、金融業界の秩序を破壊するのみならず、社会構造さえも変革する可能性がある。

近年、Apple、Google、Amazon、Facebook なといった“グローバルIT巨人”に加え、楽天やLine、カカクコムなど国内異業種からの金融事業参入が相次いでいるが、こうした中、今年夏には、広告や人材派遣などの事業を幅広く手がけるリクルートがフィンテックを活用して金融事業に参入すると発表し、注目を集めたところだ。同社のこれまでの広告事業では、自社メディアを通じてコンシューマー側と加盟店側をマッチングすることで広告収入を得てきた。ただ、ホットペッパーを例にとると、「食べログ、ぐるなびなど競合メディアとの競争が激しくなっているうえに、市場全体が飽和してきているため、新規加盟店数(法人顧客数)を増加させるのは容易ではない」(アクセンチュアで戦略コンサルタントを務める唐澤鵬翔 氏)というのが現状となっている。

こうした現状に対し、リクルートが2013年に打ち出したソリューションが・・・

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2016/11/14 フィンテックは事業会社にとってビジネスチャンスになりえるか?(会員限定)

AI(Artificial Intelligence=人工知能)やIoT(Internet of Things=物のインターネット)と並び、イノベーションを生み出す新技術の代名詞となっている「フィンテック」だが、事業会社の役員の多くは「ウチには関係ない」と感じているのではないだろうか。

IoT : 住宅、車、家電、家具、建築物、衣服などあらゆる物体をインターネットにつなげることで、生活の利便性を高める技術のこと。
フィンテック : ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)の2つを併せた造語であり、ITを駆使して新たな金融サービスを提供するもの。これまで大手金融機関が独占していた業務をベンチャー企業や個人が行うことができるため、金融業界の秩序を破壊するのみならず、社会構造さえも変革する可能性がある。

近年、Apple、Google、Amazon、Facebook なといった“グローバルIT巨人”に加え、楽天やLine、カカクコムなど国内異業種からの金融事業参入が相次いでいるが、こうした中、今年夏には、広告や人材派遣などの事業を幅広く手がけるリクルートがフィンテックを活用して金融事業に参入すると発表し、注目を集めたところだ。同社のこれまでの広告事業では、自社メディアを通じてコンシューマー側と加盟店側をマッチングすることで広告収入を得てきた。ただ、ホットペッパーを例にとると、「食べログ、ぐるなびなど競合メディアとの競争が激しくなっているうえに、市場全体が飽和してきているため、新規加盟店数(法人顧客数)を増加させるのは容易ではない」(アクセンチュアで戦略コンサルタントを務める唐澤鵬翔 氏)というのが現状となっている。

こうした現状に対し、リクルートが2013年に打ち出したソリューションが「エアレジ」という携帯アプリだ。エアレジは「モバイルPOS」とも言われ、コンビニやスーパーのPOSシステムと同様の機能を持つ。モバイルPOSは「決済領域」のフィンテックであり、この領域の大きなトレンドになっている。一般的なPOSシステムを導入するには数十万円の費用がかかるため、飲食店にとっては大きな負担となっていたが、リクルートはエアレジを“無料”で配っている。飲食店は、多額のコストをかけて大型のPOSシステムを導入しなくても、アイフォンやアイパッドにエアレジをインストールすれば同様の機能を享受できるわけだ。

POS : 商品の販売時点において、売れた商品名・価格・数量・日時などの情報を収集・管理する手法。収集する項目はシステムや企業によって異なる。スーパーやコンビニなどでは、購入者の年齢層、性別、天気なども収集しているという。「POS」とは「Point Of Sale」の略である。

一方、各店がエアレジに入力したPOSデータはリクルートに集約される。すなわち、リクルートは各店の売上状況、例えば「どの店で、どの時間帯に、どれくらい売れているか」といったマーケティングデータを把握することができる。また、併せて予約管理や待ち時間解消等の業務支援サービスも提供しているため、加盟店のビジネスの状況を容易に把握することが可能だ。

これらのデータを活用すれば、「この領域、この地域では今こういうものがこれくらいの値段で売れている。貴店の価格は周辺類似店と比較して高過ぎるので、これだけディスカウントすると来客数がもっと増えます」といったマーケティング支援をすることも可能になる。広告掲載のみにとどまらず、こうした支援により飲食店のビジネスが好転すれば、その結果として広告掲載も増え、メディアの価値も高まるという好循環が生まれることになる。

もっとも、リクルートはフィンテックを使ってメディアの価値を上げようとしているだけではない。上述のとおり、収集したマーケティングデータを活用し、来年から貸金業に乗り出そうとしている(既に貸金業の免許を取得)。リクルートがターゲットとするのは、本来は優良店ながら一時的に資金がショートしているようなところだ。リクルートはエアレジを通じて店の売上状況はもちろん、リアルな商流データを持っているだけに、貸倒れリスクを高い精度で判定することができる。従来、こういったリスクは評価が難しく、既存の金融機関が参入を躊躇していた領域であったが、リクルートのような事業者の出現によって、業界の構図が大きく変化する可能性がある。

翻って、事業会社がフィンテックを活用できるかどうかは、「①コアビジネスでどこまで顧客を理解し、顧客に関するデータを取得できているか、②フィンテックによって自社コアビジネスにどれだけポジティブなインパクトを与えられるか、に大きく左右される」(唐澤氏)ことになる。リクルートの場合、①加盟店の決済情報や商流情報を取得し、②マーケティング支援や資金繰り支援により自社プラットフォームへのスティッキネス(粘着度)を増し、結果としてコアビジネスの広告・手数料を増やすことにつなげていると言えるが、「このような“リクルート・モデル”が応用できる事業を展開する企業であれば、業界を問わずフィンテックを活用することは十分にあり得る」と唐澤氏は話す。また、金融機関も危機感を持っており、より多くの顧客データを保有し、顧客を深いレベルで理解している異業種との提携に積極的になっている。先般、みずほ銀行と合弁会社を設立したソフトバンクのように(リリースはこちら)、自社単独での事業展開だけでなく、パートナーシップの活用も検討の余地がある。

このように、一見金融とは関係の薄い業界の企業であっても、フィンテックを自社の事業の活性化に活用できないか、一度は議論しておきたいところだ。

<取材にご協力いただいたアクセンチュア 唐澤鵬翔氏の連絡先>
アクセンチュア
戦略コンサルティング本部 唐澤鵬翔
03-3588-3000
hosho.karasaawa@accenture.com

2016/11/11 ISSが「監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化」を見送った理由

2016年11月8日のニュース「相談役・顧問制度に関するISSの新ポリシーの意図は?」でお伝えしたとおり、ISSは2017年版の新ポリシー案に、新たに相談役・顧問制度を規定する定款変更議案に対しては原則として反対推奨する旨を盛り込んだが、その一方で、「監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化」を見送っている。これは何故だろうか?・・・

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2016/11/11 ISSが「監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化」を見送った理由(会員限定)

2016年11月8日のニュース「相談役・顧問制度に関するISSの新ポリシーの意図は?」でお伝えしたとおり、ISSは2017年版の新ポリシー案に、新たに相談役・顧問制度を規定する定款変更議案に対しては原則として反対推奨する旨を盛り込んだが、その一方で、「監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化」を見送っている。これは何故だろうか?

一時、ISSは監査等委員会設置会社に対して「4人」の社外取締役を置くことを求め、この条件を満たせない場合には経営トップの選任議案に反対する方針を示していた。その根拠は、ISSは監査役会設置会社に対して2人の社外取締役を置くことを要求しているところ、同時に会社法も2人の社外監査役を置くこと義務付けているため、監査等委員会設置会社においても同数(4人)の「社外役員」が必要である、というもの。

もっとも、東証に上場している監査等委員会設置会社(約650社)のうち、社外取締役が4人以上いるところは2割強に止まっている。TOPIX500採用銘柄に限っても、監査等委員会設置会社約70社のうち3分の1は社外取締役が4人に達していない(下表参照)。ISSは、監査等委員会設置会社に対して「4人」の社外取締役を置くことを求めるのは現状では実態との乖離が大き過ぎると判断し、新ポリシーに盛り込むことを見送ったと推測できる。

<TOPIX500採用銘柄のうち、社外取締役が4人に達していない主な企業>

コード 企業名 取締役会の人数 社外取締役
の人数
社外取締役
のうち独立
社外取締役
の人数
6465 ホシザキ 14 2 2
8113 ユニ・チャーム 11 2 2
8515 アイフル 11 2 2
3349 コスモス薬品 10 2 2
9602 東宝 18 3 2
2587 サントリー食品インターナショナル 11 3 2
2127 日本M&Aセンター 9 3 2
5949 ユニプレス 8 3 2
6005 三浦工業 16 3 3
9504 中国電力 15 3 3
8609 岡三証券グループ 15 3 3
5929 三和ホールディングス 11 3 3
1820 西松建設 11 3 3
7974 任天堂 9 3 3
4324 電通 9 3 3
2670 エービーシー・マート 9 3 3
8418 山口フィナンシャルグループ 9 3 3

ただし、機関投資家の中には、来年の株主総会においてISSの当初方針(4人の社外取締役の設置)と同様または類似の議決権行使基準を設けたうえで、これを満たせない監査等委員会設置会社の経営トップ選任議案に反対票を投じる可能性はある。機関投資家においては、スチュワードシップ責任を踏まえ「ISSポリシーよりも厳しいスタンスで議決権行使を実施した」と運用委託元であるアセットオーナー(年金基金等)に説明するインセンティブは確実に存在しているだけに、監査等委員会設置会社においては、機関投資家のスタンスを継続的に確認する必要がある。

2016/11/10 フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言

金融庁が昨年(2015年)9月から開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は11月8日に、「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書案を示した(「案」が取れた意見書は近日中に公表予定)。フォローアップ会議による意見書は、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況と今後の会議の運営方針」「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」に続き今回が3つ目となる。

今回の意見書は、運用機関とアセットオーナー(年金基金や保険会社など)に求められる取組みを提言するものとなっているが、最大の目玉は、・・・

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2016/11/10 フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言(会員限定)

金融庁が昨年(2015年)9月から開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は11月8日に、「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書案を示した(「案」が取れた意見書は近日中に公表予定)。フォローアップ会議による意見書は、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況と今後の会議の運営方針」「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」に続き今回が3つ目となる。

今回の意見書は、運用機関とアセットオーナー(年金基金や保険会社など)に求められる取組みを提言するものとなっているが、最大の目玉は、個別の議決権行使結果を一般に公表することを求めている点だ(3ページ「2.議決権行使結果の公表の充実」参照)。また、「必要と考える場合には、運用機関等が議決権行使の理由を対外的に明確に説明する」ことも議決権行使の透明性の向上に資するとしている。

スチュワードシップ・コードでも「機関投資家は、議決権の行使結果を、議案の主な種類ごとに整理・ 集計して公表すべきである」としているものの(原則5-3)、実際のところ、同コードが求める集計結果の公表をせずにエクスプレインを選択した機関投資家は、小規模の機関投資家を中心として全体の4割程度にのぼる。フォローアップ会議の提言は、こうした現状を踏まえたものとなっている。

また、証券会社等の金融機関の「子会社」であることなどが少なくない日本の運用会社においてはしばしば「利益相反」の発生が懸念されてきたが(詳細は新用語・難解用語辞典「フィデューシャリー・デューティー」参照)、これを踏まえ意見書は、「運用会社は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じうる局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避したり、その影響を実効的に排除するなど、最終受益者の利益を確保するための措置について具体的方針を定め、公表すべき」とした(2ページ「(2) 利益相反管理」参照)。スチュワードシップ・コードでも利益相反管理の方針の策定・公表が求められているものの(原則2)、運用会社が公表している方針には具体的な記載が不足しているとの認識がフォローアップ会議側にはある。

このほか意見書では、運用会社に対し、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会の設置など、「ガバナンス体制の整備」を求める一方(2ページ「(1) 運用機関のガバナンスの強化」参照)、アセットオーナーに対しては、運用機関の選定や運用委託契約の締結に際し、議決権行使を含むスチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を明示すべきとした(5ページ「2.アセットオーナーが運用機関に求める事項の明示」参照)。

個別の議決権行使結果の公表をはじめ、機関投資家がスチュワードシップ・コードを厳格にコンプライするようになれば、それは対話の強化などの形となって企業にも影響を及ぼすことになりそうだ。

2016/11/09 役員持株会を活用した株式報酬の留意点とリスク

コーポレートガバナンス・コードが役員報酬と中長期的な業績との連動性を求めていること(原則4-2、補充原則4-2①)などを踏まえ、多くの企業が役員報酬制度の見直しに動いている。こうした中、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)などと並び検討の俎上に載せられているのが役員持株会を活用した株式報酬だ。

上場企業の中でも特に中堅以下の企業においては、役員持株会の活用を検討しているところが少なくない。これまでも役員持株会を任意で設ける企業はあったが、今後は「社内規定」を設け、報酬パッケージとして「役位別の最低拠出額」を定めることで、中長期的な業績と連動した役員報酬制度に代えようというわけだ。

企業が役員持株会を活用する最大の理由は、・・・

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2016/11/09 役員持株会を活用した株式報酬の留意点とリスク(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードが役員報酬と中長期的な業績との連動性を求めていること(原則4-2、補充原則4-2①)などを踏まえ、多くの企業が役員報酬制度の見直しに動いている。こうした中、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)などと並び検討の俎上に載せられているのが役員持株会を活用した株式報酬だ。

上場企業の中でも特に中堅以下の企業においては、役員持株会の活用を検討しているところが少なくない。これまでも役員持株会を任意で設ける企業はあったが、今後は「社内規定」を設け、報酬パッケージとして「役位別の最低拠出額」を定めることで、中長期的な業績と連動した役員報酬制度に代えようというわけだ。

企業が役員持株会を活用する最大の理由は、「手間がかからない」ということにある。株式報酬型ストックオプションやリストリクテッド・ストックを付与するためには、報酬枠を確保するための議案を株主総会に上げる必要があるが、元々役員持株会がある企業であれば、手取りの役員報酬の中から役員持株会に毎月定額を拠出するだけで済み、株主総会を経る必要もない。実際、コーポレートガバナンス・コードの導入後にこの方式を採用し、その旨を有価証券報告書で開示している上場企業は少なからず見られた。ただ、役員持株会で購入した株式は、インサイダー取引規制に抵触しない限り、役員の意思によっていつでも売却が可能。そうなると、コーポレートガバナンス・コードが求める「中長期的な業績との連動性」に疑問符が付く。そこで、「在任期間中は売却不可」といった社内規定を設け、この点も有価証券報告書で開示しているところもある。

このように、やり方によっては役員の長期インセンティブ(Long Term(長期)インセンティブ。しばしば「LTI」と略される)としての活用も可能な役員持株会だが、最大のネックとなりうるのが、インサイダー取引規制の適用を受けないための金額制限だ。インサイダー取引規制上、従業員持株会や役員持株会が一定の計画に従い毎月行う定時定額の買付け(各役員・従業員の1回あたりの拠出額が100万円未満)はインサイダー取引規制の適用対象外となっている。すなわち、インサイダー取引規制の適用を回避するためには、役員持株会による年間の株式買付け額を「1,200万円未満」に抑える必要があるが、ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏は、「上場企業の中でも規模の大きいところになると、年間1,200万円というLTIのボリュームが、総報酬における中長期的な報酬の割合として見た場合に十分と言えるのかという議論は当然ある」と話す。

そこで考えられるのが、「知る前契約・知る前計画」に基づき株式を売買する方法だ。インサイダー取引規制では、未公表の重要事実を知った上場会社の役職員等が株式を売買することは禁止されているが、未公表の重要事実を知る前に、売買の予定など必要な記載をした契約・計画を作成するなどの手続きを踏んでおくことで、インサイダー取引規制の適用を回避することができる(後になって未公表の重要事実を知ることとなっても、予定通りの売買が可能)。理屈の上では、この「知る前契約・知る前計画」を活用すれば、インサイダー取引規制が適用されるか否かのボーダーラインとなる「年間1200万円」の天井を気にせずに、株式買付けを行うことができるようにも見えるが、これらの事例はまだ確認できていないのが実情だ。その背景には、「日本企業はインサイダー規制に対してかなりセンシティブ」(小川氏)だということがある。金融庁や東証は、知る前契約・計画について、「未公表の重要事実を持っていたとしても契約もしくは計画の締結をすることが可能」としているが、一部の法律専門家は「実際の売買の時点まで当該重要事実が解消されていない場合も想定し、契約もしくは計画の締結自体をインサイダーフリーの状況で行わなければならない」との見解を示している。

こうした中、企業の間には「他社の様子見」といった空気もある。逆に言うと、知名度のある企業が先陣を切るか、証券会社がサービスの一環として企業に展開できるような状態になれば、一気に利用が広がる可能性もあろう。

なお、役員持株会を通じた株式の購入は、源泉所得税控除後の役員報酬の手取額が購入資金となるのに対し、譲渡制限付株式は源泉所得税控除前の額面報酬額がそのまま役員の保有株数になる。それゆえ、役員持株会を活用した株式購入は、譲渡制限付株式などと比べてコスト効率が悪いという指摘もある点には留意したい。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

2016/11/08 相談役・顧問制度に関するISSの新ポリシーの意図は?

議決権行使助言会社最大手のISSはこのほど2017年版の新ポリシー案「日本向け議決権行使助言方針の改定」を公表し(2016年10月27日公表)、11月9日までオープンコメントを募集している。新ポリシーは、オープンコメントを経て正式決定され、2017年2月開催の株主総会から適用される。今回の変更内容で注目されるのが、「相談役・顧問制度を規定する定款変更への対応」だ。具体的には、ISSは、新たに同制度を規定する定款変更議案に対しては原則として反対推奨するという。ただし、相談役や顧問を取締役の役職として規定する場合は反対推奨しない。これは、株主はその取締役の選任議案に対して反対票を投じることができるためである(その取締役の選任議案に反対すれば済む)。

では、新ポリシーはどの程度企業に影響を与えるのだろうか。・・・

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2016/11/08 相談役・顧問制度に関するISSの新ポリシーの意図は?(会員限定)

議決権行使助言会社最大手のISSはこのほど2017年版の新ポリシー案「日本向け議決権行使助言方針の改定」を公表し(2016年10月27日公表)、11月9日までオープンコメントを募集している。新ポリシーは、オープンコメントを経て正式決定され、2017年2月開催の株主総会から適用される。今回の変更内容で注目されるのが、「相談役・顧問制度を規定する定款変更への対応」だ。具体的には、ISSは、新たに同制度を規定する定款変更議案に対しては原則として反対推奨するという。ただし、相談役や顧問を取締役の役職として規定する場合は反対推奨しない。これは、株主はその取締役の選任議案に対して反対票を投じることができるためである(その取締役の選任議案に反対すれば済む)。

では、新ポリシーはどの程度企業に影響を与えるのだろうか。相談役・顧問制度として多くの上場企業が定款に「第◯条 取締役会はその決議により、相談役および顧問各若干名を置くことができる」といった規定を置いている。ISSの調査によると、2016年6月に株主総会を開催した上場会社では28%に達するという。ただ、新ポリシーはあくまで「新たに」規定する定款変更議案に対するものであるため、実務における影響はかなり限定的と考えざるを得ない。

こうした中、あえてISSが相談役・顧問制度に関する新ポリシーを出した意図は、以下のような「投資家の懸念」をメッセージとして伝えることにあるという。

・元トップなどが経営に影響力を及ぼしても、株主は責任を問うことができない
・相談役・顧問に対する報酬(フリンジベネフィットを含む)が開示されない
・社外取締役候補となり得る役員経験者が退任後も会社に残ることになるため、「社外取締役候補者プール」が充実しにくい

相談役・顧問制度を有する上場企業においては、「投資家の懸念」を念頭に、その見直しについて議論してみる必要がありそうだ。
<定款に相談役・顧問制度(一方のみを含む)を定めている主な企業>

証券コード 社名
1925 大和ハウス工業
2212 山崎製パン
2678 アスクル
4528 小野薬品工業
5714 DOWAホールディングス
6479 ミネベア
7269 スズキ
7974 任天堂
2678 アスクル
8015 豊田通商
8028 ユニー・ファミリーマートホール
9020 東日本旅客鉄道
9042 阪急阪神ホールディングス
9433 KDDI
9613 エヌ・ティ・ティ・データ