2016/11/21 役員による自社株保有、どれくらいの株数が妥当?(会員限定)

上場企業の役員に対し中長期的な企業価値向上への貢献が求められる中、役員の自社株保有率は投資家の大きな関心事の一つとなっている。これを受け、役員の持株比率の引上げを検討する上場企業が急増している。

ただ、日本ではこれまで現物株式を役員に直接「報酬」として付与することが困難とされてきたため(2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」参照)、株式報酬と言ってもストック・オプションなど“擬似的”なものが中心であり、それゆえ、役員への株式付与に関するプラクティスも成熟していないのが現状だ。欧米企業では一般的に定められている「持株ガイドライン」も大部分の日本企業においては未整備か、不十分なものとなっている。こうした中、企業からは「どれくらいの株数を役員に付与すればいいのか」との疑問も聞かれる。

そこで、欧米企業の状況を見てみよう。

まず米国だが、ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏によると、米国においては、歴史的に株式報酬のボリュームが大きかったこともあり、ほとんどの上場企業が持株ガイドラインを策定・運用しており、そのうち8割程度が「基本報酬の倍数」をもって保有株数を決定しているという。具体的には、CEOで「基本報酬の5倍前後」というケースがよく見られるとのことだ(残りの企業は「一定の株式数」としている)。

ちなみに、「持株ガイドライン」というと、一見“定められた水準まで株式を保有するためのルール”に見えるが、実は米国の場合はそうではない。米国企業の持株ガイドラインは、役員が株式を売却したい場合に、「どこまで売れるか(=持株ガイドラインに定められた水準を下回らない範囲で売却が可能な株式数)」を示すものであり、「役員による適切な株式売却を支える制度」という側面が強いという(小川氏)。役員による在任期間中の株式売却がまだ一般的でない日本企業にとっては、かなり異質なものに感じることだろう。

欧州の状況も米国と大きく変わるものではない。ウイリス・タワーズワトソンの直近の調査によると、FTSEのEurotop100構成企業の約6割が持株ガイドラインを導入していることを開示しているが、国によって導入割合には差があり、イギリス企業では100%、フランス企業・スイス企業では7割程度と、株式報酬が既に浸透している国では高い割合となっているのに対し、歴史的に現金による長期インセンティブが中心であったドイツでは3割程度にとどまっている。役員の保有株数は、米国の状況と同様、多くの企業が「基本報酬の倍数」で決定しているが、その水準は「2倍~3倍程度」と、米国より控えめとなっている(小川氏)。

これまで緩やかな形で運用されてきた日本企業の持株ガイドラインだが(例えば「取締役相互の申し合わせによって持株数を決める」「目標保有株数達成までの具体的な期間は定めない」など)、役員に直接株式を保有させる報酬パッケージが増えていくにしたがって、今後ガイドラインの見直し議論が盛り上がっていくことになろう。具体的には、基本報酬に対してどの程度の割合が妥当なのか、その割合は全役員一律とするのか(あるいは傾斜をつけるのか)、就任時までにその水準を有している必要があるのか(あるいは、就任からX年という形で期間を定めるのか)、定められた期限までに規定の保有水準を満たせない場合のペナルティの有無--などがテーマとなりそうだ。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

2016/11/19 役員報酬データバンク募集締め切りのお知らせ

役員報酬データバンクの募集は応募多数につき、2016年11月18日をもって一旦締め切らせていただきました。

今後、また同様の調査を実施する可能性がございます。その際には本コーナーでお知らせさせていただきます。

ご参加いただいた会員の皆様には深く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

2016/11/18 英CGコード、来年にも「経営幹部の男女比の開示」求める方向

近年、女性活躍推進に向け、上場企業へのプレッシャーは高まる一方となっている。これまでの動きをおさらいすると、東証が2013年4月18日付けで「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、同報告書で役員・管理職への女性登用状況や登用促進に向けた取組みを記載することを要請、さらに2015年3月末決算期からは開示府令の改正により有価証券報告書に役員の女性比率を記載することが義務付けられた。また、コーポレートガバナンス・コードに「女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保」が盛り込まれ(原則2-4)、さらに、2016年4月1日からは、採用者や管理職に占める女性の割合などの数値目標を盛り込んだ「一般事業主行動計画」の策定や公表を企業に求める女性活躍推進法が施行されている。こうした中、女性の幹部登用などを進める上場企業は増えているが、コーポレートガバナンス・コードの策定において日本が手本とした英国では、さらにハードルを上げつつある。

2015年中の実現を目指してきた「FTSE100の構成企業の取締役会に占める女性比率25%」という目標を前倒しで達成した英国だが(2015年7月29日のニュース「取締役会の女性比率25%達成の英国、次は賃金格差の公表義務付け」参照)、昨年2015年には、政府の要請を受け、英製薬大手グラクソ・スミス・クラインのハンプトン会長をトップとする独立委員会が女性活躍推進に向けた新たな提言を発表、FTSE100の構成企業を対象に、新たに「2020年中に経営幹部の女性占率33%以上」という目標を打ち出している。英国では、社外取締役を中心に構成され経営監視機能を担う取締役会における女性比率は増えているものの、CEOやCOOなど常勤で経営に携わる経営幹部の女性比率は伸び悩んでおり、「33%以上」を達成している企業はFTSE100企業でさえ20%にとどまる。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

提言の中でさらに注目されるのが、コーポレートガバナンス・コードの見直しだ。具体的には、・・・

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2016/11/18 英CGコード、来年にも「経営幹部の男女比の開示」求める方向(会員限定)

近年、女性活躍推進に向け、上場企業へのプレッシャーは高まる一方となっている。これまでの動きをおさらいすると、東証が2013年4月18日付けで「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、同報告書で役員・管理職への女性登用状況や登用促進に向けた取組みを記載することを要請、さらに2015年3月末決算期からは開示府令の改正により有価証券報告書に役員の女性比率を記載することが義務付けられた。また、コーポレートガバナンス・コードに「女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保」が盛り込まれ(原則2-4)、さらに、2016年4月1日からは、採用者や管理職に占める女性の割合などの数値目標を盛り込んだ「一般事業主行動計画」の策定や公表を企業に求める女性活躍推進法が施行されている。こうした中、女性の幹部登用などを進める上場企業は増えているが、コーポレートガバナンス・コードの策定において日本が手本とした英国では、さらにハードルを上げつつある。

2015年中の実現を目指してきた「FTSE100の構成企業の取締役会に占める女性比率25%」という目標を前倒しで達成した英国だが(2015年7月29日のニュース「取締役会の女性比率25%達成の英国、次は賃金格差の公表義務付け」参照)、昨年2015年には、政府の要請を受け、英製薬大手グラクソ・スミス・クラインのハンプトン会長をトップとする独立委員会が女性活躍推進に向けた新たな提言を発表、FTSE100の構成企業を対象に、新たに「2020年中に経営幹部の女性占率33%以上」という目標を打ち出している。英国では、社外取締役を中心に構成され経営監視機能を担う取締役会における女性比率は増えているものの、CEOやCOOなど常勤で経営に携わる経営幹部の女性比率は伸び悩んでおり、「33%以上」を達成している企業はFTSE100企業でさえ20%にとどまる。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

提言の中でさらに注目されるのが、コーポレートガバナンス・コードの見直しだ。具体的には、FTSE350企業に対し、「経営幹部層における男女比率」をアニュアルレポート等で開示することをコーポレートガバナンス・コードで求める案が浮上している。英国のメイ首相はコーポレート・ガバナンスの強化に積極的姿勢を示していることもあり、来年にもコーポレートガバナンス・コードの見直しが行われる可能性が高まっている。

また、投資家に対する提言も目を引く。英国の機関投資家の中には、議決権行使基準に「女性の活用状況」を掲げているところもあるが(例えば、英大手保険リーガル&ジェネラル傘下のLGIMは、「FTSE100企業については『取締役会における女性占有率が25%未満の場合』、FTSE250企業については『女性取締役が0名の場合』、取締役会議長の再任議案に反対票を投じる」ことを議決権行使基準に明記している)、提言では、こうした機関投資家をもっと増やすべく「女性登用が遅れている企業に対しては、取締役会議長の再任議案に反対票を投じる」など明確な指針を設けることを機関投資家に求めている。

英国においては、EU離脱に伴う移民制限により優秀な人材の確保が難しくなる可能性がある中で女性活用の必要性が以前より高まっているという事情もあるが、企業における女活躍推進への取組みが次のステージに入ったことは間違いない。コーポレートガバナンス・コードの見直しをはじめとする影響が日本にも及ぶことになるのか、注目されるところだ。

2016/11/17 不振事業、不振子会社の切り離しが容易に

不振事業や不振子会社に足を引っ張られる形で株価が低迷するコングロマリット・ディスカウントに悩む上場企業は少なくないが、その切り離しが容易になりそうだ。・・・

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2016/11/17 不振事業、不振子会社の切り離しが容易に(会員限定)

不振事業や不振子会社に足を引っ張られる形で株価が低迷するコングロマリット・ディスカウントに悩む上場企業は少なくないが、その切り離しが容易になりそうだ。

コングロマリット・ディスカウントを解消する手法として「スピンオフ」がある。スピンオフは、事業ポートフォリオ再構築の一環として、特定の事業や子会社を、親会社の支配から分離・独立させる手法として用いられる。具体的には、特定の事業を別子会社として切り出したり、既存の子会社を分離したりしたうえで、親会社の株主にこれらの会社の株式を現物配当(株式分配)することになる。ただ、通常、このような株式分配が行われた場合、親会社においては別会社に移転した資産や子会社株式の含み益に課税され、株主においても配当課税が行われる。そこで、事業ポートフォリオの見直しを中立的に行える環境を整備する観点から、平成29年度税制改正では、一定の要件を満たすスピンオフについては課税を繰り延べる「スピンオフ税制」が創設されることが、当フォーラムの取材で判明した。

スピンオフ : 親会社の特定の事業を別会社として切り出したり、子会社を分離・独立させる手法。

ただし、課税を受けないためには、一定の条件を満たす必要がある。具体的には、(1)不振事業や不振子会社の事業を切離し後も継続することや、(2)不振事業に従事していた社員や不振子会社の社員を、切り離された会社で引き続き雇用すること、(3)不振事業の担当役員や不振子会社の役員が、切り離された会社の経営に参画すること――などが求められる可能性がある。要するに、切り離し前の状態と切り離し後の状態に一定の“継続性”が求められるということだ。切り離し後にすぐに会社を潰してしまうような“切捨て”に近いスピンオフは税の優遇の対象にはなりえないとういことだろう。

また、切り離しに伴う対価として「株式以外の資産」を交付することもNGとなる。「株式以外の資産」として真っ先に思い浮かぶのは現金だが、現金を支払えば「売却」の要素が強くなり、理論上、税金をかけないわけにはいかなくなるからだ。

スピンオフ税制は来年(2017年)4月1日以降に実施される可能性が高い。不振事業や不振子会社に頭を悩ませる企業はその利用を検討すべきだろう。

2016/11/16 「物言わぬ株主」時代の終わりを告げるスチュワードシップ・コードの改訂

2016年11月10日のニュース「フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言」でお伝えしたとおり、金融庁が開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は11月8日に「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書案を公表したが、近く「案」がとれた正式な意見書が公表される。この意見書を受けてスチュワードシップ・コードも改訂され、機関投資家は「個別投資先ごと」かつ「議案ごと」に議決権の行使結果を公表することが原則()とされる見込みだ。

 法令ではなくスチュワードシップ・コードによる規制なので、コンプライ(遵守)せずに、エクスプレイン(遵守しない理由の説明)することも可能だが、実際には大手機関投資家を中心に多くの機関投資家のコンプライが見込まれる。

現行のスチュワードシップ・コードでは、機関投資家は議決権の行使結果を「議案の主な種類ごとに整理・集計して公表」するのが原則とされており(下記参照)、当該コードをコンプライしている機関投資家は、例えば「当社は、役員選任議案を決議した投資先500社のうち450社の議案に賛成票を投じ、50社の議案に反対票を投じた」といった開示を行っている。

スチュワードシップ・コード5-3
機関投資家は、議決権の行使結果を、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである。

もっとも、スチュワードシップ・コードは「個別投資先ごと」の議決権行使結果の公表までは求めていないため、例えば「A社の取締役B氏の選任議案に反対した」といった情報は、機関投資家(アセット・マネージャー)が年金基金などのアセット・オーナーの求めに応じて説明することはあっても、一般には開示されていないのが通常だ。

アセット・オーナー : 年金基金、投資信託、保険会社等

現行スチュワードシップ・コードが求める「議案の主な種類ごとに整理・集計した結果」は、当該機関投資家に資金の運用を委託しているアセット・オーナーや最終受益者が、当該機関投資家の議決権行使に関する“総合的な”スタンスを知るためには必要な情報の1つとは言えるだろう。しかし、それだけでは、特定の企業の役員選任議案や剰余金処分議案などについて当該機関投資家がどのように議決権を行使したのかが分からず、最終受益者への説明責任を果たせていないとの批判があった。そこでフォローアップ会議で出てきたのが、上述した「スチュワードシップ・コードを改訂し、機関投資家に個別投資先ごと、かつ議案ごとの議決権行使結果の公表を求める」という案だ。フォローアップ会議では、「個別具体的な開示はアセット・マネージャーがアセット・オーナーに対して行えば十分」との意見も出たものの、インベストメント・チェーンを通じたフィデューシャリー・デューティーの履行のためには最終受益者への情報開示が欠かせないことから、結局この案は退けられている。

最終受益者 : アセット・オーナーに資金を拠出している者
インベストメント・チェーン : 資金の拠出者(最終受益者)から、資金を事業活動に使う企業に至るまでの経路および各機能(アセット・オーナー(受益者) 、アセット・マネージャー(運用会社)、企業など)のつながり。

また、機関投資家に対し個別投資先ごとの議決権行使結果の公表を求めることには、「最終受益者への説明責任の確保」のみならず、アセット・マネージャーにかけられた「利益相反の疑念の払拭」という狙いもある(利益相反の具体例はこちらを参照)。多くのアセット・マネージャーは、利益相反を回避するための「利益相反防止に関する方針」を策定済だが、国内系アセット・マネージャーの多くが金融機関の系列下にあるため、アセット・オーナーや最終受益者としては、アセット・マネージャーとしての独立性が十分ではないのではないかという疑念を抱いているのが実情。そこで、機関投資家に個別投資先ごとの議決権行使結果の公表を求めることで透明性を高め、議決権行使の独立性をサポートしようというわけだ。

今回のスチュワードシップ・コードの改訂が上場企業に与える影響としては、・・・

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2016/11/16 「物言わぬ株主」時代の終わりを告げるスチュワードシップ・コードの改訂(会員限定)

2016年11月10日のニュース「フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言」でお伝えしたとおり、金融庁が開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は11月8日に「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書案を公表したが、近く「案」がとれた正式な意見書が公表される。この意見書を受けてスチュワードシップ・コードも改訂され、機関投資家は「個別投資先ごと」かつ「議案ごと」に議決権の行使結果を公表することが原則()とされる見込みだ。

 法令ではなくスチュワードシップ・コードによる規制なので、コンプライ(遵守)せずに、エクスプレイン(遵守しない理由の説明)することも可能だが、実際には大手機関投資家を中心に多くの機関投資家のコンプライが見込まれる。

現行のスチュワードシップ・コードでは、機関投資家は議決権の行使結果を「議案の主な種類ごとに整理・集計して公表」するのが原則とされており(下記参照)、当該コードをコンプライしている機関投資家は、例えば「当社は、役員選任議案を決議した投資先500社のうち450社の議案に賛成票を投じ、50社の議案に反対票を投じた」といった開示を行っている。

スチュワードシップ・コード5-3
機関投資家は、議決権の行使結果を、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである。

もっとも、スチュワードシップ・コードは「個別投資先ごと」の議決権行使結果の公表までは求めていないため、例えば「A社の取締役B氏の選任議案に反対した」といった情報は、機関投資家(アセット・マネージャー)が年金基金などのアセット・オーナーの求めに応じて説明することはあっても、一般には開示されていないのが通常だ。

アセット・オーナー : 年金基金、投資信託、保険会社等

現行スチュワードシップ・コードが求める「議案の主な種類ごとに整理・集計した結果」は、当該機関投資家に資金の運用を委託しているアセット・オーナーや最終受益者が、当該機関投資家の議決権行使に関する“総合的な”スタンスを知るためには必要な情報の1つとは言えるだろう。しかし、それだけでは、特定の企業の役員選任議案や剰余金処分議案などについて当該機関投資家がどのように議決権を行使したのかが分からず、最終受益者への説明責任を果たせていないとの批判があった。そこでフォローアップ会議で出てきたのが、上述した「スチュワードシップ・コードを改訂し、機関投資家に個別投資先ごと、かつ議案ごとの議決権行使結果の公表を求める」という案だ。フォローアップ会議では、「個別具体的な開示はアセット・マネージャーがアセット・オーナーに対して行えば十分」との意見も出たものの、インベストメント・チェーンを通じたフィデューシャリー・デューティーの履行のためには最終受益者への情報開示が欠かせないことから、結局この案は退けられている。

最終受益者 : アセット・オーナーに資金を拠出している者
インベストメント・チェーン : 資金の拠出者(最終受益者)から、資金を事業活動に使う企業に至るまでの経路および各機能(アセット・オーナー(受益者) 、アセット・マネージャー(運用会社)、企業など)のつながり。

また、機関投資家に対し個別投資先ごとの議決権行使結果の公表を求めることには、「最終受益者への説明責任の確保」のみならず、アセット・マネージャーにかけられた「利益相反の疑念の払拭」という狙いもある(利益相反の具体例はこちらを参照)。多くのアセット・マネージャーは、利益相反を回避するための「利益相反防止に関する方針」を策定済だが、国内系アセット・マネージャーの多くが金融機関の系列下にあるため、アセット・オーナーや最終受益者としては、アセット・マネージャーとしての独立性が十分ではないのではないかという疑念を抱いているのが実情。そこで、機関投資家に個別投資先ごとの議決権行使結果の公表を求めることで透明性を高め、議決権行使の独立性をサポートしようというわけだ。

今回のスチュワードシップ・コードの改訂が上場企業に与える影響としては、会社提案の株主総会議案への反対票の増加が挙げられる。

その理由を説明しよう。

機関投資家が個別投資先ごと、かつ議案ごとに議決権の行使結果を公表するようになれば、アセット・オーナーはアセット・マネージャーごとの議決権行使結果を横並びで容易に分析できるようになり、その分析結果をアセット・マネージャーの選別に用いることになる。例えば、ある上場企業の買収防衛策の内容に難があるとして、多くの機関投資家が当該買収防衛策導入議案に対して反対票を投じているにもかかわらず、この買収防衛策の導入により利益を得る証券会社の子会社のアセット・マネージャーだけが賛成票を投じたとすると、当該アセット・マネージャーは「利益相反」の疑いをかけられるであろう。疑いをかけられたアセット・マネージャーが、アセット・オーナーとの対話において、いかに利益相反防止の指針や仕組みの充実や判断の適切性を訴えたところで、他のアセット・マネージャーとは明らかに違う動きについて合理的に説明できなければ、疑いを晴らすのは困難となる。アセット・オーナーは利益相反の疑いがあるアセット・マネージャーから投資資金を引き上げ、運用委託先を別のアセット・マネージャーに変更することを検討するであろう。逆に、利益相反の疑いのあるアセット・マネージャーに運用を委託し続ければ、今度はアセット・オーナーが最終受益者や株主オンブズマンのような団体から指弾される恐れがある。今回のスチュワードシップ・コードの改訂により、最終受益者のためにならない会社提案の株主総会議案に対しても機関投資家が「物言わぬ株主」であり続けた時代は終わりを告げ、一転して、機関投資家が競って反対票を投じる時代が到来することになるだろう。

機関投資家がこういった行動をとるのは、当然ながら買収防衛策導入議案に限られるものではない。ROE低迷時や不祥事発覚時に開催する株主総会における取締役再任議案への賛成率も低下するであろう。スチュワードシップ・コード改訂は、上場企業に対し、従来以上に機関投資家を意識した経営を迫ることになりそうだ。

2016/11/15 (新用語・難解用語)仕訳テスト

上場企業で粉飾決算が発覚すれば、株価が下落するのはもちろんのこと、最悪の場合、上場廃止に至ることもあるだけに、その予防・発見は重要な経営課題と言える。ところが、粉飾決算を企業が自ら発見した(あるいは未然に防いだ)というケースは必ずしも多くない。大部分の粉飾決算は監査法人によって発見されることになるが、この場合、企業の自浄作用に対する疑念を生むことにもなりかねない。そこで、内部監査担当の取締役や監査役にぜひ参考にして欲しいのが、監査法人が粉飾決算を発見する手法の一つとして活用しているのが「仕訳テスト」だ。

「仕訳テスト」とは、・・・

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2016/11/15 (新用語・難解用語)仕訳テスト(会員限定)

上場企業で粉飾決算が発覚すれば、株価が下落するのはもちろんのこと、最悪の場合、上場廃止に至ることもあるだけに、その予防・発見は重要な経営課題と言える。ところが、粉飾決算を企業が自ら発見した(あるいは未然に防いだ)というケースは必ずしも多くない。大部分の粉飾決算は監査法人によって発見されることになるが、この場合、企業の自浄作用に対する疑念を生むことにもなりかねない。そこで、内部監査担当の取締役や監査役にぜひ参考にして欲しいのが、監査法人が粉飾決算を発見する手法の一つとして活用しているのが「仕訳テスト」だ。

「仕訳テスト」とは、監査人が、財務諸表のもととなるすべての仕訳(会計記録)の中から「不自然と思われる仕訳のパターン」に合致するものを抽出し、内容をレビューすることにより「不正の有無」を識別する監査手続きのこと。粉飾決算の多くは不適切な仕訳を不正に計上することにより行われる()。また、不正は内部統制の水準を高めれば防止・発見できる“誤謬”と異なり、内部統制の網をかいくぐって行われるケースが少なくなく、また経営者が内部統制を無効化する場合もあるだけに、防止・発見できる可能性が誤謬よりも低いと言える。こうした中、仕訳が不正なものかどうかの識別を目的として行う仕訳テストは、会計監査手続きの中では重要な手続きとして位置付けられている。

内部統制を無効化 : 内部統制を構築した経営者が、自ら内部統制の裏をかいたり、内部統制を一時的に機能停止させたりして、整備済みの内部統制を運用面で無効なものとすること。

 もっとも、粉飾決算には、例えば固定資産の減損損失の不計上のように「仕訳を計上しない」方法で行われるものもある。仕訳テストは一定のパターンの仕訳を抽出してレビューを行うものである以上、「仕訳を計上しない」方法で行われた不正を仕訳テストで発見するのは不可能である。すなわち、仕訳テストは下図の赤線部分を発見することを目的に行われることになる。
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仕訳テストでは、企業活動を記録した膨大な量の仕訳データの中から特定のパターンに一致する仕訳を抽出するため、その成否は「どのような仕訳を“不自然”と位置付けるか」次第ということになる。「不自然と思われる仕訳」のパターンとしては、例えば下記のようなものが考えられる。
(1) 入力日が休日となっている仕訳(休日出勤時に入力)
(2) 入力日が取引日からかい離している仕訳(4月の売上を6月に計上)
(3) 期末または決算締切り後に入力された仕訳のうち定例的に行われていない仕訳
(4) めったに使用されない勘定や部門コードを利用した仕訳
(5) 通常の入力者以外の者が入力担当者となっている仕訳
(6) 通常の承認者以外の者が承認者となっている仕訳
(7) 取締役が入力担当者となっている仕訳
(8) 摘要欄が空欄の仕訳
(9) 金額がゾロ目の仕訳(100,000,000円や99,999,999円など)

実際には、こういった条件だけで「不自然と思われる仕訳」を抽出すると、数多くの仕訳がヒットする(それらの仕訳の99.99%以上は問題のない仕訳である)のが通常であるため、より重要度の高い仕訳を抽出するため、別のロジックを追加して、検討対象となる仕訳をさらに絞っていく必要がある。例えば、自動仕訳は手動で入力される仕訳よりも異常性は低いと判断して除外することが可能であるし、発生源入力を採用している企業でば、取締役が出張旅費や交際費を立替支出した場合に精算を取締役自身が行えば、システム上の仕訳入力担当者は取締役本人になるため、そのような仕訳は金額次第で検討対象から除外してもよい。

自動仕訳 : 連携するシステムから自動で生成される仕訳。例えば、販売管理システムとの連携により出荷データをもとにバッチ処理(一括処理)で自動起票される売上の自動仕訳などが該当する。
発生源入力 : 交通費や経費が発生する都度、費用を発生させた者が必要事項をシステムに入力することで、経費申請と会計入力を同時に行うこと

こういった仕訳テストは、監査法人による会計監査で多用されている(仕訳テストが不正発覚の契機となった長野計器の事例を参照)ものの、内部監査や監査役監査で利用されるほど一般的な広がりを見せていないのが現状となっている。内部監査担当の取締役や監査役は、会計監査で有効性が認められている仕訳テストを「内部監査」や「監査役監査」でも利用することを是非とも検討すべきだろう。仕訳テストの利用により、粉飾決算のみならず、着服・横領等の従業員不正の発見にもつながる。また、仕訳テストの試行を繰り返すことで、内部監査室のスタッフや監査役の会計監査スキルが向上するとともに、「業務処理システムにログインする際に必要となる入力者コードの使い回し」など内部統制の運用エラーが発覚するといった効果も期待できる。

現在のところ、仕訳テストにより抽出した仕訳データをレビューして不正の有無を判断するのは監査人の知識と経験に頼らざるを得ないが、ディープラーニング機能を持ったAI(人工知能)を会計監査に活用する時代が到来すれば、AIに仕訳のチェックをさせることで、異常項目の抽出精度の向上、不自然な仕訳のリアルタイム検出が可能となる。現行の仕訳テストは、それまでの過渡的な手続きと言えそうだ。

ディープラーニング : 人間の神経細胞を模したネットワーク構造により機械自体が経験則に基づき学習する仕組み