上場企業の役員に対し中長期的な企業価値向上への貢献が求められる中、役員の自社株保有率は投資家の大きな関心事の一つとなっている。これを受け、役員の持株比率の引上げを検討する上場企業が急増している。
ただ、日本ではこれまで現物株式を役員に直接「報酬」として付与することが困難とされてきたため(2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」参照)、株式報酬と言ってもストック・オプションなど“擬似的”なものが中心であり、それゆえ、役員への株式付与に関するプラクティスも成熟していないのが現状だ。欧米企業では一般的に定められている「持株ガイドライン」も大部分の日本企業においては未整備か、不十分なものとなっている。こうした中、企業からは「どれくらいの株数を役員に付与すればいいのか」との疑問も聞かれる。
そこで、欧米企業の状況を見てみよう。
まず米国だが、ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏によると、米国においては、歴史的に株式報酬のボリュームが大きかったこともあり、ほとんどの上場企業が持株ガイドラインを策定・運用しており、そのうち8割程度が「基本報酬の倍数」をもって保有株数を決定しているという。具体的には、CEOで「基本報酬の5倍前後」というケースがよく見られるとのことだ(残りの企業は「一定の株式数」としている)。
ちなみに、「持株ガイドライン」というと、一見“定められた水準まで株式を保有するためのルール”に見えるが、実は米国の場合はそうではない。米国企業の持株ガイドラインは、役員が株式を売却したい場合に、「どこまで売れるか(=持株ガイドラインに定められた水準を下回らない範囲で売却が可能な株式数)」を示すものであり、「役員による適切な株式売却を支える制度」という側面が強いという(小川氏)。役員による在任期間中の株式売却がまだ一般的でない日本企業にとっては、かなり異質なものに感じることだろう。
欧州の状況も米国と大きく変わるものではない。ウイリス・タワーズワトソンの直近の調査によると、FTSEのEurotop100構成企業の約6割が持株ガイドラインを導入していることを開示しているが、国によって導入割合には差があり、イギリス企業では100%、フランス企業・スイス企業では7割程度と、株式報酬が既に浸透している国では高い割合となっているのに対し、歴史的に現金による長期インセンティブが中心であったドイツでは3割程度にとどまっている。役員の保有株数は、米国の状況と同様、多くの企業が「基本報酬の倍数」で決定しているが、その水準は「2倍~3倍程度」と、米国より控えめとなっている(小川氏)。
これまで緩やかな形で運用されてきた日本企業の持株ガイドラインだが(例えば「取締役相互の申し合わせによって持株数を決める」「目標保有株数達成までの具体的な期間は定めない」など)、役員に直接株式を保有させる報酬パッケージが増えていくにしたがって、今後ガイドラインの見直し議論が盛り上がっていくことになろう。具体的には、基本報酬に対してどの程度の割合が妥当なのか、その割合は全役員一律とするのか(あるいは傾斜をつけるのか)、就任時までにその水準を有している必要があるのか(あるいは、就任からX年という形で期間を定めるのか)、定められた期限までに規定の保有水準を満たせない場合のペナルティの有無--などがテーマとなりそうだ。
<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

