近年、スマートフォンやIoT(Internet of Things=モノのインターネット)の普及により、人やあらゆるモノがインターネットにつながることで、大量かつ多様なデータを収集することが可能になった。具体的には、官民が保有するパーソナルデータ、国や地方公共団体が保有する公共データ(地図・海図、交通量、気象情報など)、医療・健康情報(レセプトデータ、特定健診データ、ヘルスケア情報など)、民間のビジネスを通じて蓄積される業務システムデータ(法人間取引データ、経理データ、ログデータ等)、センサーデータ(機器やインフラのデータ等。富士通の例はこちら)などだ。こうした多種多様なデータを「つなげる」ことで、新たな価値が生まれる。例えば、センサーデータの一つである機器データの収集によりメンテナンスサービスをより的確で効率的なものとしたり、検診データを福利厚生サービスの充実化に活かすことなどが挙げられる。
IoT : 住宅、車、家電、家具、建築物、衣服などあらゆる物体をインターネットにつなげることで、生活の利便性を高める技術のこと。
センサーデータ : 機器の周辺環境(温度・湿度など)に関するデータをセンサーを通じて収集することで、機器の故障を避け、長持ちさせる環境を探り、メンテナンスに役立てるもの。例えば、頻繁に故障するポンプにセンサーを取り付け、温度やバルブの開閉などのデータを取得し、予測メンテナンスに役立てた例がある。
このように、データの利活用はこれからの時代のイノベーション創出と競争力強化において重要なファクターであるとともに、企業にビジネスチャンスをもたらす。ただ、データの利活用にあたってボトルネックとなるのが、法的リスクだ。例えば、データが著作物であれば、不用意な利活用は著作権法違反となりうるし、データが企業の「営業秘密」にあたるものであれば、不正競争防止法違反となりかねない。特許法・商標法などの対象となるデータについても同様だ。個人のプライバシーを侵害するものであれば、個人情報保護法に抵触することになる。しかも、こうしたデータの利活用は現行法ができた際には全く想定されていなかったため、現行法でシロかクロか判断できないケースも多い。法的保護を受けるデータと自由に利活用することが可能なデータが混在している場合には、そこに権利侵害のリスクがあることさえ認識されにくい。
営業秘密 : 顧客名簿のような営業戦略上有用な情報や、企業の中で生まれた技術情報やノウハウなど。後者はあえて特許化せずに非公開情報として“秘匿化”される。
不正競争防止法違反 : 商品の製造などに関する機密内容を不正に取得する行為、他人の商品の形態を模倣する行為、原産地や品質などの誤認行為など、同業者間の不正な競争を防止することを目的とする法律。
こうした中、多くの企業はデータの利・活用に二の足を踏んでいるのが現状だ。特に不正競争防止法については、昨年(2015年)に罰金の金額引上げなど昨年に大幅な罰則強化がなされたばかりであり、同法違反のリスクが想定されるデータの取扱いには企業も慎重にならざるを得ない。また、著作物の利活用は現在文化庁が検討している「フェアユース規定」と密接に関わってくるが、まだ内容が固まっているわけではないため、リスクの所在や大きさが読めない面がある。
罰則強化 : ●営業秘密の不正な取得、使用に係る法人への罰金を、海外企業については「10億円以下」、国内企業については「5億円以下」に引き上げ。個人への罰金も、海外企業への不正開示については「3000万円以下」、国内法人への不正開示については「2000万円以下」に引き上げ
●不正に入手した営業秘密によって得た利益の没収制度の新設
●営業秘密の不正入手の“未遂”も罰則対象に追加
フェアユース規定 : 利用の目的(営利目的か非営利目的など)、著作物の性質(公益性の有無・程度など)、使用された分量、使用による市場への影響などを総合的に判断し、著作物の利用について権利者の許諾を不要とする規定のこと。日本でも導入に向けた検討が長年行われてきたが、具体的な法改正には至っていない。現在も文化庁の文化審議会で議論中。
ただ、だからと言って、利活用を避けるばかりでは他社との競争の中で取り残されることになりかねない。企業側からは、「産業競争力の強化のため、政府は実態に合致しない既存の法律は積極的に見直し、企業によるデータの利活用を促進するべき」との声が上がっているが、まだ先行きが見通せる状況にはない。政府内では既にデータの利活用に関する法的問題に関する検討が始まっているものの、現在は各省庁で会議体が乱立した状態となっている(内閣府知的財産戦略推進事務局の資料の15、16ページ参照)。いわゆる“縦割り行政”の弊害とも言えそうだが、各会議体の参加メンバーもかなり重複しており、スピーディに検討を進めるためにも整理・統合が期待されるところだ。
また、データの利活用を促進するためには、既存の規定にとらわれすぎないということも重要になろう。政府の会議体の中には、データの利活用のパターンを現行の著作権法や不正競争防止法に当てはめ、「適法か違法か」を検討しているところもあるが、このような運用がなされれば、企業も委縮してしまう。政府はデータの利活用の促進という大きな方向性を示したうえで、まずは、例えば「個人のプライバシーを侵すもの」「権利・利益を著しく害するもの」など絶対にNGとなるものを示す、といった緩やかな運用からスタートするべきだろう。