周知のとおり、新たな確定給付企業年金の仕組みとして「リスク分担型企業年金」が2016年度にも導入される予定となっている。導入が実現すれば、負担が大きい確定給付型年金を廃止し、リスク分担型企業年金への移行を検討する企業が相次ぐ可能性もありそうだ。では、経営陣としては、移行に向け何を検討しておくべきだろうか。
まず、そもそも「リスク分担型企業年金」とはどのようなものなのか、おさらいしておこう。
現行の企業年金は「確定拠出型」「確定給付型」の2種類に分類されるが、リスク分担型企業年金は、2015年9月の厚生労働省・第16回社会保障審議会企業年金部会において新たな「確定給付企業年金」の仕組みとしての提示されている。もっとも、下表のとおり、リスク分担型企業年金は、確定拠出型、確定給付型の中間的な性格を持っている。
<3つの年金の特徴>
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確定拠出型 |
リスク分担型 |
確定給付型 |
| 掛金の金額 |
規約で定めた金額 |
規約で定めた金額
(一定期間固定)
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財政状態や運用実績
により変動 |
| 掛金の特徴 |
- |
あらかじめ財政状態の悪化を予測し、その範囲内で掛金を拠出(「リスク対応掛金」を上乗せする) |
財政状態が悪化した時に掛金が増加(将来の財政状態の悪化を見越した掛金の拠出ができない) |
| 年金資産の運用者 |
加入者 |
企業 |
企業 |
資産運用リスク
を負う者 |
加入者 |
労使でリスクを分担
企業:リスク対応掛金の拠出
加入者:元本を下回るリスクを負う
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企業 |
| 給付 |
運用実績次第で変動 |
運用実績次第で変動
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規約で定めた給付を約束 |
リスク分担型企業年金で特徴的なのは、上記の表にもあるとおり、(1)将来の財政状態の悪化を予測しその水準を踏まえて、「リスク対応掛金」を上乗せすること、(2)資産運用リスクを労使双方で分け合うこと――の2点にある。従来の企業年金(確定拠出型、確定給付型)では、資産運用のリスクが、確定給付型では企業、確定拠出型では加入者と、労使いずれかに偏る構造となっていることが問題視されてきたが、リスク分担型では文字通り「労組双方」でリスクを分け合うことになる。つまり、企業は一定の掛金(通常の掛金(標準掛金)とリスク対応掛金)を拠出すれば追加の拠出義務を負わない一方、加入者は確定拠出型より安定した給付が受けることが可能になる。
このような特徴を持つリスク分担型企業年金を導入する場合に経営陣が検討しなければならないのが、年金加入者である従業員の意思決定を反映する仕組み作りだ。リスク分担型企業年金を導入するにあたっては、将来発生するリスクを労使でどのように分担するか、具体的には、財政状態の悪化をいかに予測し、その結果として企業がどれくらいの「リスク対応掛金」を負担するのかが最大のポイントであり、加入者が適切に意思決定に参画できる労使合意の仕組み作りが極めて重要となる。
この労使合意の仕組み作りが上手くいかなければ、決算数値にも影響を及ぼす可能性がある。具体的に説明しよう。
今のところ、退職給付に関する会計基準では下記のとおり「確定拠出型」と「確定給付型」の2パターンの会計処理のみを定めている。上述のとおり、リスク分担型企業年金は確定給付企業年金法に基づき、新たな「確定給付企業年金」の仕組みとして導入されるが、だからと言って会計上も「確定給付型」に分類されるかというと必ずしもそうではない。
<退職給付に関する現行の会計基準>
| 年金制度 |
会計処理 |
特徴 |
| 確定拠出型 |
掛金を費用処理するのみ |
会計処理が単純 |
| 確定給付型 |
退職給付債務>年金資産の場合は負債が計上され、退職給付債務<年金資産の場合は資産が計上される。数理計算上の差異が遅延認識される |
・会計処理が複雑
・年金数理人等に対する計算コストが毎年発生する
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2016年6月には企業会計基準委員会(ASBJ)がリスク分担型企業年金の会計処理案として、実務対応報告公開草案第47号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」を公表しているが(11月中に正式決定される予定)、同案では、「企業の拠出義務が、標準掛金相当額及びリスク対応掛金(給付に充当する各期の掛金として、制度の導入時の規約に定められたもの)相当額に限定され、他に拠出義務を負っていない場合には「確定拠出型」、それ以外の場合(すなわち、標準掛金相当額及びリスク対応掛金の他にも拠出義務を負っている場合)には「確定給付制度」に分類することとしている。
これまで説明してきたとおり、リスク分担型企業年金では将来発生するリスクをあらかじめ想定した「リスク対応掛金」が拠出されることから、企業には追加の掛金拠出が要求されないことが前提となっている。したがって、リスク分担型企業年金は基本的には「確定拠出型」に分類されることになる。すなわち、掛金を費用処理するだけという単純な会計処理を行えば済み、業績に与える影響も明確だ。
ただし、注意しなければならないのは、上記会計処理案では、リスク分担型企業年金を導入した後も、新たな労使合意に基づく規約の改訂の都度、会計上の退職給付制度の分類を再判定しなければならないこととされているという点。新たな労使合意により企業が制度導入時の規約に定められていなかった追加の掛金を拠出することになれば、これまで確定拠出型と判定されていたものが確定給付型に変更されることもあり得る(もちろん、その逆もあり得る)。確定給付型と判断されれば、会計処理が複雑になるだけでなく、これまで企業が頭を悩ませていた積立不足による退職給付債務問題が再浮上し、決算にも大きな影響を与える可能性がある。
このような事態を避け、リスク分担型企業年金制度を安定的に運用するためにも、経営陣は上述した「労使合意」の仕組み作りに真剣に取り組む必要がありそうだ。