パッシブ運用が存在感を増している理由
株式投資は大きく「アクティブ投資」と「パッシブ投資」に分けられます。アクティブ投資とは、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法です。個人の株式売買は基本的にアクティブ運用と言えます。これに対しパッシブ投資(パッシブとは「消極的」なという意味))とは、東証株価指数(TOPIX)や日経平均に連動する運用成果を目指し、個別企業の株価が高いか安いかなどは考慮せずに指数に採用されている銘柄を、これらの指数で採用されているウェイトに沿って購入する投資手法です。
日本ではGPIFによる国内株式への投資拡大や、日銀によるETF(上場投資信託)の大量購入などに伴い、パッシブ投資を行うパッシブファンドの存在感が急速に増していますが、海外でもパッシブファンドが大きく残高を伸ばしています。その背景には、これまでアクティブ運用がその運用手数料に見合った実績を上げてこなかったため、より運用手数料が低いパッシブ運用の方が効果的ではないかとの認識が広がっていることなどがあります。
パッシブ投資家は「モノ言わない投資家」か
ただ、パッシブ運用の広がりに対しては、批判の声も上がっています。
その主なものは、①銘柄選択を行わず、株価も評価しないので、投資による“価格発見機能”が失われる、②投資判断を行わないパッシブファンドは企業調査や企業との対話も行わないため、企業に対するガバナンス機能がない、③日銀のETF購入が過度に注目され、短期の需給要因となっているーーといったことです。
しかし、これらの批判はやや的外れと言えます。まず、全ての投資家がパッシブ投資家になれば確かに”価格発見機能”はなくなるのですが、少しでもアクティブ運用が残っていれば、価格発見機能は維持されるはずです。また、パッシブ運用が企業調査を必要としないのは事実ですが、日本でパッシブファンドを運用している機関投資家はスチュワードシップ・コードに署名しており、対話の頻度はともかくとして、議決権は確実に行使して来ます。つまり、パッシブ投資家は決して「モノ言わない安定株主」ではありません。
パッシブ投資家の議決権行使の特徴と企業に求められる対応
確かに、パッシブ投資家は企業価値評価の専門家ではなく、あくまで“機械的な運用”の専門家ですから、従来は原則として対話は行っていませんでした。現在も、例えばTOPIX連動型のパッシブファンドを運用している投資家は、東証一部に上場するの全企業に投資をしているため、全ての企業と対話をするわけではありません(事実上不可能)。
しかしながら、近年は議決権行使の専門部隊を設け、スチュワードシップ・コードへの署名後はさらにこの部隊を強化し、対話を行う機会が増えています。
パッシブ投資家の議決権行使の特徴は、企業ごとの個別事情は考慮せず、あくまで投資家が定めた基準に沿って“機械的に”賛否を判断する場合が多いということです。
したがって、企業としては、議決権行使基準をしっかりと理解し、対応しておくことが重要です。時価総額上位500銘柄程度の企業は投資家と対話する機会も多く、機関投資家の考え方をよく理解できていると思いますが、それ以外の企業は、議決権行使の場面で突然機関投資家の考え方を突き付けられることにもなりかねません。このような事態を回避するためには、まずは、パッシブ投資家(特に海外のパッシブ投資家)が拠り所とすることが多いISS(最大手)やグラスイルイス(準大手)など議決権行使助言会社の考え方を理解したうえで、自社の株主となっている各機関投資家が独自に定めている議決権行使基準をチェックしておくことが必要でしょう。機関投資家が議決権行使助言会社と異なる基準を定める場合、よりハードルの高いものとなるケースがほとんどです。例えば、社外取締役の独立性基準などは、議決権行使助言会社が定める基準より厳しい基準を設定している機関投資家も散見されます。2016年6月の株主総会では、「独立社外取締役が2名いない経営トップの選任議案(ISSの基準では独立性は問題にしていない。5ページの注釈5参照)」「社外取締役が3分の1いない経営トップの選任議案」「在任期間が10年を超える社外取締役の選任議案」「剰余金処分の権限を取締役会に授権する定款変更議案」「非執行取締役を対象とするストックオプションの付与議案」に対し、機関投資家から反対票が投じられています(2016年9月27日のニュース「ISS等より厳しい議決権行使基準への対応策」参照)。
また、通常の議決権行使の場面だけでなく、株主提案などがあった場合の“有事”の議決権行使についても考えておくことが必要です。通常の議決権行使の場面では、機関投資家は自ら定める基準に沿って賛否を判断しますが、例えば株主提案などがあった場合には、「企業の提案内容と株主提案の提案内容のどちらが株主価値を高めるか」という視点で判断を行うことになります。つまり、通常の場面では認められる議案であっても、株主提案の方が優れていると判断された場合には、会社提案に反対票を投じることも考えられるわけです。米国のアクティビストの活動を見てみると、低い保有比率のアクティビストによる提案があってもその内容が理にかなったものであると、パッシブ投資家など機関投資家がこれに賛同し、結果として賛否に大きな影響を与えるケースが増えています。個別性が高いアクティブ投資家の判断に比べて、パッシブ投資家の判断は株主価値という面で意見の一致が得られやすいという特徴もあります。すなわち、賛否がいずれかに集中するケースが多いということです。
企業はこのような事態に備えて、普段からパッシブ投資家の考え方について情報収集しておくことを意識しておくことが必要でしょう。
パッシブ投資家の間では、スチュワードシップ・コード受入れ後、ESGに関する意識も高まっています。機関投資家が意識するESGは、従来日本企業が意識してきたCSRとも考え方の違いがあり(従来のCSRは「社会貢献活動」が中心でしたが、ESGでは「企業の持続性を高めるための活動」であることが重視されます)、また重要とされるポイントも日々変化しています。企業はこのような情報に対する情報感度を高めておくことが今後ますます重要となってくるでしょう。