企業で不祥事が起こると、その規模や深刻度によっては「第三者委員会」が立ち上がることがある。第三者委員会とは、不祥事に対する調査の客観性を担保するため、文字通り企業から独立した“第三者”によって構成される委員会であり、委員には弁護士を中心に、事案の性質によって公認会計士、学者などが就任するのが一般的となっている。
ただ、「第三者委員会」とは言っても、これを立ち上げるのは企業であり、当然ながら委員に対する報酬も発生する。ここで気になるのは、委員に対する報酬は誰が負担すべきものなのか、という点。従業員個人の横領などは別として、企業の大規模な不祥事には役員が関与しているケースが多い。特に粉飾決算などは、役員の関与がなければ“遂行”するのは困難と言える。役員が起こした不祥事に対する調査費用を企業が負担することに株主が納得するのか、疑問のあるところだ。
この点について一つの答えを示しているのが、今年出たクラウドゲート社(平成24年3月23日付で上場(札証アンビシャス)廃止)の元取締役会長が行った粉飾取引を巡る判決である。この事件は、有価証券報告書の虚偽記載等により課徴金を課されたクラウドゲート社が、経費の水増し計上や循環取引などの粉飾取引に関与した元取締役会長を相手取り、「(金融庁による)課徴金」のほか、「第三者調査委員会に対する報酬」「決算訂正に関する監査法人費用」等に相当する損害を被ったとして、会社法423条1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)等に基づき損害賠償を請求したもの。金額は、課徴金が約5,000万円、第三者調査委員会(弁護士2名、公認会計士1名)に対する報酬が約2,200万円、決算訂正に関する監査法人費用が約3,700万円である。
循環取引 : 特定の関係者の間で利益を乗せて売買を繰り返す取引。経済的実態の伴わない取引であり、最終的には関係者の利益が乗った高値で買い戻す必要があるため、粉飾取引の一つに位置付けられている。
クラウドゲート社が調査を依頼した第三者調査委員会は、同社に対し「11の取引に伴う会計処理が不適切又は適切性に疑問が残る」旨報告、これを受け同社は、当該11の取引に関する過去の会計処理を訂正し、過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を提出していた。これに対し裁判所は、11の取引のうち「7つ」の取引を粉飾取引と認定したうえで、課徴金については5,000万円満額、第三者調査委員会に対する報酬、監査法人費用については、それぞれ同社が負担した金額の「11分の7」に相当する約1,400万円(第三者調査委員会に対する報酬)、2,300万円(監査法人費用)を損害と認定した。
なお、課徴金だけ実際の負担額と同額の損害が認定されたのは、課徴金の計算上、粉飾取引が11であろうと7であろうと同社に課される課徴金の金額は変わらないためである。
本件においては、粉飾取引に関わった他の取締役がクラウドゲート社に対し、和解金等として既に約2,800万円を支払っていた。これを踏まえ裁判所は、元取締役会長に対し、上記の合計金額約8,800万円から当該2,800万円を控除した約6,000万円の損害賠償金の支払いを元取締役会長に命じている(東京地裁平成28年3月28日判決)。
本件は札幌アンビシャス上場企業を舞台とした比較的“小粒”な事案だったが、これが東証一部・二部上場企業ともなれば、第三者委員会の委員に支払う報酬だけでも膨大な金額に上る可能性がある。上場会社役員ガバナンスフォーラムでは「役員と会社の失敗学」というコーナーで毎月上場企業の不祥事を紹介しているが、役員にあっては、同じ轍を踏まないよう細心の注意を払いたいところだ。