M&Aした海外企業の報酬水準が自社(日本企業)よりも高いということは少なくない。場合によっては、自社の社長よりも報酬が高い幹部がゴロゴロいることもある。日本では、子会社の役員報酬は親会社よりも低く抑えられているのが通常だが、この常識をM&Aした海外企業にも当てはめるのは困難だ。
報酬水準は「ホームカントリー」で決まることが多く、その場合、金額は各地域において競争力のある水準に設定されるため、親会社の報酬水準が“上限”にはならない。特に米国では会社規模と報酬水準の連動性が高く、たとえそれが日本企業の米国子会社であったとしても、その報酬水準は会社規模によってある程度決まってくる。また、経営幹部の転職マーケットが成熟している欧米では、経営幹部の報酬は経験や能力に応じた“相場”というものもある。
ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏によると、日本企業にあっては、このような現実を認識しつつも、「親会社→子会社」という指揮命令系統と、報酬水準の“ネジレ現象”に違和感を持つところも多いという。子会社のトップが親会社の取締役(指名委員会等設置会社であれば執行役)に入ることは珍しくないが、本体の役員となると、子会社の報酬も含めた「連結報酬」等が年間1億円以上になる場合には、「企業内容等の開示に関する内閣府令」に基づき、報酬額を開示しなければならないため、このネジレ現象も白日の下にさらされることになる。
日本企業の「基本報酬」は欧米企業のそれと遜色がないことが多い。両者の差はインセンティブ報酬(年次賞与や長期インセンティブ(株式報酬等)の差から来るものであり、日本企業でもここが拡充されれば、ネジレ現象も起きにくくなる。前出、小川氏は「海外M&Aが進めば進むほど、日本企業の役員報酬におけるインセンティブ報酬の低さが課題として認識されるとともに、その引上げへのプレッシャーは高まることになる」と指摘する。買収した海外子会社の幹部には「中長期的な視点」を求めていながら、本体役員には十分な長期インセンティブがない、という現象はしばしば見受けられるが、これでは海外子会社幹部に対しても説得力を欠くだろう。
ただし、報酬水準が高まるということは、「指名」へのプレッシャーも高まることを意味する。これまで「報酬は低いが指名リスクも低」いというのが日本企業の特徴だったが、今後は高い報酬と引き換えに、業績を上げられなければ解任されるリスクも高まる時代に入っていくことになろう。
<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com


