上場企業で重大な不祥事が起こった場合、「第三者委員会」に独立した立場から調査してもらうのがお決まりのパターンだが、各社の調査報告書を読むと、「内部通報制度を設けていたが、活用されなかった」と記載されていることが実に多い。組織ぐるみの不祥事に対する調査報告書となると、「内部通報制度が活用されていれば、ここまで被害が広がったりコンプライアンス違反が長期化したりすることはなかっただろう」といったコメントをしばしば見かける。
周知のとおり、内部通報制度は、組織にとって不利益な情報等を早期に共有し、事態の改善を図る組織内の仕組みであるが、それを円滑に機能させるための法律上の仕組みとして、公益通報者保護制度がある。同制度は、「公益」のために通報を行った労働者に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止する制度である。食品偽装やリコール隠し等の企業不祥事の多くが通報をきっかけに発覚したことを受け、2006年に「公益通報者保護法」が施行され、大企業を中心に社内規程への導入が進んだ。ところが、制度導入から10年が過ぎ、多くの企業で内部通報制度が形骸化してしまっているのが現実だ(2015年10月21日のニュース「形骸化する内部通報制度」参照)。
しかし、内部通報制度は、適切に整備・運用されれば、不祥事の芽を早めに摘むことができるだけでなく、組織内にいい意味での“緊張感”をもたらし、コンプライアンス経営の実現に役立つ。これを形骸化させておくのは、結局は企業にとっても損失と言える。こうした中、消費者庁は内部通報制度のテコ入れのため、「公益通報者保護制度に関する民間事業者向けガイドライン」の改正に取り組んで来たが 、本日(2016年7月8日)、その改正案が公表された。
改正案の中でまず目に付くのが、内部通報制度の適用範囲の大幅な拡大だ。内部通報制度は、大企業では概ね導入済みであるものの、中小企業での導入割合は40%にとどまっている。そこで改正案では、従来通り大企業を軸に置きつつも、その適用範囲を「サプライチェーン」や「企業グループ内の中小企業」にまで広げている。さらに、通報窓口の利用者を、これまでの従業員に加え、パートタイマーやアルバイト、派遣社員等のほか、役員、子会社・取引先の従業員、退職者等にまで広げている。特に役員や退職者にまで広げている点は、現行の公益通報者保護法上の「労働者」の概念を拡張するものと言えるだけに、注目される。
また、改正案では、内部通報制度を機能させるための「仕組み」の導入も提案されている。具体的には、(1)担当部署に調査権限と独立性を付与し、必要な人員と予算等を与えることや、(2)担当者に十分な教育・研修を実施する、(3)秘密保持の徹底、(4)外部窓口の活用、(5)第三者機関による定期的な評価--といった施策(仕組み)の導入を企業に促している。このうち「第三者機関による定期的な評価」は目玉措置の1つである一方、企業にとっては負担になる可能性もある。改正案では、「通報対応の状況について、中立・公正な第三者等による検証・点検等を行い、調査・是正措置の実効性を確保することが望ましい」としているが、第三者機関は上記(4)の外部窓口(法律事務所などが多い)とは別な機関でなければならないとされているため、内部通報制度の維持コストのアップは不可避となりそうだ。
このほか、ガイドライン改正案では、リニエンシー制度の“社内版”といえる社内リニエンシー制度(詳細は2015年10月21日のニュース「形骸化する内部通報制度」を参照)の採用も提案されている。社内リニエンシー制度を実施している企業は少ないだけに、ガイドライン改正を機に採用企業が広がるか、注目される。
消費者庁では8月8日までパブコメを募集した後、平成28年度上半期中にガイドラインを改正する予定。
さらに消費者庁は、公益通報者保護制度の実効性を高めるため、ガイドラインの改正にとどまらず、公益通報者保護法そのものの法改正も実施したい考え。具体的には、現在は労働者のみとなっている「通報者」の範囲を、上述したガイドライン改正案と同様、「退職者、役員、取引事業者」にまで広げるべきかどうか、また、解雇等の不利益取扱い禁止に違反した場合に刑事罰や指導、勧告、公表、課徴金等の行政的措置を導入すべきかどうか(現在は「解雇の無効」等民事的な措置のみ)等について、同庁の「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」での検討を進め、法改正へと持ち込む予定だ。
上場企業の役員としては、ガイドラインの改正や法改正の動きを踏まえ、早めに社内規程の見直しに取り組みたいところだ。