<解説>
取締役会のセレモニー化をもたらすNGワード
取締役会は取締役の業務執行を監督するための機関です。その機能を果たすためには、取締役会において「実質的な」議論が行われることが欠かせません。しかし、社内の権力が一か所に集中していると、取締役会での議論が形式化していきがちです。取締役会に求められている機能を果たせていないという意味では、「無機能化」とも言えます。
例えば、会長や社長が実質的に決定をした事項を、取締役会が追認するようなやり方はまさに取締役会が無機能化している状態と言えます。議案の説明後に「ちなみに会長・社長は了承済みです」と一言付け加えるのは、まさにその典型です。議案の上程時に「本件は経営会議で決定した事項であり、取締役会でのご承認をお願いします。」といった前口上も、「承認」だけを促す発言であり、実質的な議論がしづらくなるため、NGワードです。そのような会社であっても、上場会社である以上、取締役会が無機能化していることを正面から認めるわけにはいかないので、会社法が定める“取締役会”なる会議体がしっかりと機能しているフリをしなければならず、取締役会はセレモニー化していくことになります。
取締役会の無機能化・セレモニー化は、オーナー経営者の権限が強すぎたり、情実人事や密室人事が横行したり、社長の在任期間が長期化したりするとエスカレートすることになります。また、社外取締役の独立性が十分でなかったり、社外取締役や監査役への情報開示が限定されていたりしている場合も同様です。取締役会での議論を避けたり、形式的な議論だけで終わらせたりすることもセレモニー化を助長することになるので、取締役会では役員すべてが「実質的な議論」をするよう意識しなければなりません。
また、上場会社の一部には、取締役会決議の後に適時開示が必要になる議案について、取締役会での議論に先立ち適時開示文書のドラフトを配布する実務慣行が存在していますが、これも取締役会の無機能化・セレモニー化を促進する原因となります。取締役会の事務局としては、必要な情報がコンパクトに記載されている適時開示文書のドラフトは説明用の資料として最適との判断があるのでしょうが、これをもとに説明を受けている取締役としては「このような開示用資料まで出来上がっているのに、いまさら議案に反対しづらい」「意見を言っても無駄なのではないか」と考えがちです。取締役会の事務局がいくら「これはドラフトですのでお気になさらずに」と伝えたところで、反対票を投じにくくなる心理的な影響を取締役に与えてしまうことは否定できません。取締役会の無機能化・セレモニー化を防ぐためには、議案の説明資料として適時開示文書のドラフトを提出するのは避けた方が良いでしょう。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役B:「我が社のガバナンスの根幹にかかわる問題を、このような動議で提案するのは拙速すぎます。第一、取締役会での議論をおざなりにして一部の取締役による密室での議論だけで結論を出してよいわけがありません。これでは取締役会が単なるセレモニーになりかねません。」
(コメント:議論を封じ込めようとする取締役Aの発言に立ち向かう点がGOODです。このような正論こそ、とかくセレモニー化しがちな取締役会で求められている発言です。適時開示文書のドラフトを資料として提出することの是非について問題提起ができていれば、さらにGOODでした。)
取締役D:「収益の計上基準は、会社の売上計上のタイミングを規律する重要なルールです。会社の売上を左右する重要なルールを取締役会の議論を経ずに改正し、報告だけで済ませてしまうのは、問題があるのではないでしょうか。」
(コメント:会社のルールを変更する際には、ルール間の序列や整合性に留意しなければなりません。とりわけ、上位のルールで定まっている内容を下位のルールの改正で覆してしまう結果にならないようにしなければなりません。なぜなら、もし上位のルールに整合しないように下位のルールを改正できるのであれば、ルール間に序列を付けた意味がなくなってしまうからです。ABC社では、経理規程(取締役会でなければ改正できない)により「輸出売上の収益計上基準は船積み基準」と定められているにもかかわらず、経理規程の下位規程である決算実施要領(担当部長の承認により改正可能)の改正だけで、一部の輸出売上の収益計上基準が出荷基準に変更されてしまいました。取締役Dは、「取締役会の議論を経ずに重要な会計方針が変更されてもいいのか」という問題意識を持って取締役Cに異を唱えており、その姿勢はGOODです。この会計方針の変更は、会計的にもFOB条件による輸出売上時の売上計上基準としては船積み基準が一般的であるにもかかわらず、あえて出荷基準を採用すれば、売上が前倒しで計上されてしまい、その分売り主が負うリスクや対価の確実性に問題が生じます。それを指摘できていれば、ベストの発言でした。)
(コメント:執行役員制度を導入する意義を説明しないまま、「すでに会長と社長の了解を取っている」という発言は明らかにBADです。密室で決めたことについて形の上でだけ取締役会の承認をもらおうという意図が見え隠れしています。密室での協議に参加しなかった取締役を委縮させ、実質的な議論をできなくしてしまい、取締役会のセレモニー化を助長させる最悪の発言と言ってよいでしょう。さらに、「承認いただく」という言い回しは承認されることを前提にしたものであり、やはり他の取締役が異を唱えにくくなってしまうのでBAD発言です。)
(コメント:収益の計上基準は、決算時のルールではなく、日常的な経理処理のルールであり、かつ、取締役Dが指摘するとおり「会社の売上を規律する重要なルール」なので、通常は経理規程で決めるべきものです。それにもかかわらず、取締役Cは、“規程”を改正せずに“要領”の改正だけで会計方針を変更したと報告しています(しかも「決算実施要領」は「決算」を規定する要領であり、収益の計上基準を規定するには“場違い”と言えます)。このような不自然な報告を行った取締役Cの意図は、輸出売上の収益計上基準を変更することで生じかねない取締役会での面倒な議論を避け、事後報告で済ませようという点にあると推測されます。取締役会での議論を避けようとする取締役Cの姿勢は、経理規程の改正に取締役会の決議を必要とする社内ルールの趣旨を潜脱するものであり、取締役会のセレモニー化の一因になってしまう危険があります。したがって、取締役Cの発言は取締役会軽視のBAD発言です。)
(コメント:せっかく取締役Dが実質的な議論をしようとしているところ、Eの発言は形式的な議論に終始しており、BAD発言です。形式論に拘泥することは取締役会のセレモニー化を招きかねません。実質的な議論をするよう心掛けたいところです。)
