2026/03/31 2026年3月度チェックテスト第1問解答画面(正解)

正解です。
コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の第三次改訂に向けた改訂案では、原則数が83から28(基本原則4、本原則24)へと大幅に削減(スリム化)されています。一方で、このスリム化の背後では、多くの補充原則が新設された「解釈指針」へ移行しており、序文を含めた全体の分量は25ページと、現行の26ページと比べてもほぼ同程度となっています。

こちらの記事で再確認!
2026年3月3日 CGコード第三次改訂案、原則数は83から28に大幅減も「序文」および「解釈指針」を踏まえた対応必要に(会員限定)

2026/03/31 2026年3月度チェックテスト

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【問題1】

コーポレートガバナンス・コードの第三次改訂に向けた改訂案は、原則数が83から28(基本原則4、本原則24)に大幅に減少されたことに伴い、全体のボリューム(ページ数)も3分の1程度にスリム化されている。

正しい
間違い
【問題2】

コーポレートガバナンス・コードの第三次改訂に向けた改訂案によれば、原則1-2「株主総会における権利行使」に有価証券報告書の株主総会「3週間以上前」開示が盛り込まれているため、多くの上場会社が原則1-2のエクスプレインを余儀なくされると見込まれている。

正しい
間違い
【問題3】

今後、パブリックコメント手続きに付される予定の会社法の見直し案では、上場会社が、証券保管振替機構に対し、実質株主の情報提供を請求できる制度が導入される見通しである。

正しい
間違い
【問題4】

2026年3月期においては、有価証券報告書を株主総会前に開示する会社数は、前年より減少すると見込まれている。

正しい
間違い
【問題5】

東京証券取引所は、議決権保有比率が40%以上の大株主を有する上場会社に対し、会社提案による取締役選任議案について、少数株主の賛否の割合の開示を求める適時開示制度の改正案を検討している。

正しい
間違い
【問題6】

株主代表訴訟における取締役の責任(損害賠償請求権)の時効は5年である。

正しい
間違い
【問題7】

事業セグメントを細分化すると、不採算事業が顕在化しやすい。


正しい
間違い
【問題8】

取締役会の実効性評価を実施する上場会社は多いが、取締役個人の評価を実施する上場会社は存在しない。

正しい
間違い
【問題9】

東証プライム市場に上場する会社のうち、平均時価総額(過去5年間の期末時価総額の平均)が1兆円以上の会社に限り、2028年3月期以降の有価証券報告書において、「主要な経営指標等の推移」の注記として、直近5事業年度の各期末の時価総額およびその平均値の記載が求められる。

正しい
間違い
【問題10】

ニデックで発覚した粉飾事件は、日本の会計基準における「のれんの非償却」を巡る議論に極めて大きな一石を投じ、のれんの償却支持派を後押ししている。

正しい
間違い

2026/03/30 【役員会 Good&Bad発言集】有報の総会前提出(2)

上場会社A社(3月決算)の取締役会で、監査役から今年の有価証券報告書(以下、有報)の提出スケジュールについて質問があり、開示担当取締役から「今年こそ有報を総会前に提出するようにしたい。」との発言がありました。この発言に対して、次の4人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「総会で役員が交代することを予定している場合、有報を総会前に提出する会社では有報の【役員の状況】欄に交代前の役員ではなく交代後の役員を記載することになるため、それに抵抗があるという会社が多いようですね。」

取締役B:「有報の【役員の状況】欄は、基本的に「提出日現在」の情報を記載します。有報を総会前に提出する場合は、まだ新旧交代は行われていないため、交代前の役員の情報を記載します。ただし、投資家が知りたいのは「総会後の新体制」ですので、総会前に提出する有報では「注書き」で交代に関する情報を記載するのが一般的です。」

取締役C:「有報にはガバナンスやサステナビリティの詳細に書くことになりますが、そんな手の内を総会前にさらけ出したら、突っ込みどころが増えて、総会当日に株主から「重箱の隅をつつくような質問」が相次ぐことが予想され、総会の運営が不安定になります。有報は総会後に提出するようにしましょう。」

取締役D:「有報を総会の3週間以上に提出するのは困難です。いっそのこと総会の開催を6月ではなく7月や8月に後倒ししてはどうでしょうか?定款の変更は不要なので、取締役会で決定するだけで実現可能です。」

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2026/03/30 【役員会 Good&Bad発言集】有報の総会前提出(2)(会員限定)

<解説>
どうなる?各社の有報総会前提出2年目の対応

株主総会前に有価証券報告書(以下、有報)を提出()する上場会社が増えてきました。2026年3月5日のニュース「有報の総会前開示、2026年は8割超えへ 金融庁調査と制度改正が後押し」でお伝えしたとおり、金融庁が実施したアンケートによると、今年(2026年)は少なくとも3月決算上場会社の77%が有報を総会前に提出することが見込まれています。

 総会前の有報提出が求められるようになった経緯については、【役員会 Good&Bad発言集】有報の総会前提出(1)や2025年4月2日のニュース「 “寝耳に水” 金融担当大臣による有報の総会前開示要請に従わなかったらどうなる?」をご覧ください。

さらに、金融庁は2026年2月20日に開示府令を改正し、有報の総会前提出を促すため、記載内容の簡素化を図っています。具体的には、総会前提出を行う場合には、定時株主総会または取締役会の決議事項に係る記載を、「自己株式の取得及び剰余金の配当に関する事項」のみとしました(詳細は2026年3月5日のニュース「有報の総会前開示、2026年は8割超えへ 金融庁調査と制度改正が後押し」を参照)。「役員の状況」欄を例にとると、これまでは「提出日(株主総会前)現在」の「役員の状況」を記載したうえで、その下に決議を予定している議案が承認可決された場合の役員の状況およびその任期を追加して記載する必要がありましたが、今後は「役員の状況」に提出日現在の状況のみを記載すれば足りることになりました。なお、金融庁は、有報提出後の定時株主総会等において、記載を省略した事項を決議した場合であっても、訂正報告書の提出は不要との見解を示しています。このような環境整備が進んだことに加え、日本企業の同調圧力も加わり、実際には3月決算上場会社のうち77%を上回る8割超が有報を総会前に提出することが予想されます。

もっとも、有報総会前提出がスタートした2025年は早期提出会社の大半が総会の前日提出となっており、機関投資家が総会議案の検討に資するために必要とされる「3週間前」提出を実現できた会社はまだまだごく一部に限られています。今年もその傾向は続くものと思われます。

有報総会前提出の2つの手法

有報総会前提出の手法として、主に、株主総会の日程をそのまま(3月決算会社の場合、6月下旬)にして、有価証券報告書を少しでも早く提出できるように改善プロセスを積み重ねる方法と、株主総会の日程自体を後倒しする方法(3月決算会社の場合、7月や8月に総会を開催)の2つがあります。ほとんどの会社が定款で定時株主総会の開催を事業年度末から3か月以内としているため、株主総会の日程自体を後倒しする方法を採用する場合、当該定款を株主総会で変更する必要があります。

有報前倒し 総会の日程は変えず、有報の作成・監査プロセスを極限まで短縮する
総会後倒し 有報提出のタイミングは維持(あるいは少し早める)しつつ、総会開催日そのものを後ろにずらす
CGコードの改訂と有報総会前提出

現在、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」において、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂に向けた議論が進んでいますが、第2回の有識者会議で示された改訂案によると、「有価証券報告書の定時株主総会前の提出」については、【原則1-2.株主総会における権利行使】において、「上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを踏まえ、株主の視点に立って、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出するなど株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる」とされており、原則化される見通しとなりました。また、解釈指針案では「本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいと考えられるため、上場会社においては、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討し、株主による適切な権利行使に資するよう更なる環境整備を進めるべき」とされています(CGコードの改訂については、2026年3月3日のニュース「CGコード第三次改訂案、原則数は83から28に大幅減も「序文」および「解釈指針」を踏まえた対応必要に」も参照)。

上場会社に求められているのは、総会前日の提出で体裁を整えることではありません。株主との対話を重視するのであれば、総会の3週間以上前に有価証券報告書を提出できる体制へと、開示実務を抜本的に改める必要があります。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役B:「有報の【役員の状況】欄は、基本的に「提出日現在」の情報を記載します。有報を総会前に提出する場合は、まだ新旧交代は行われていないため、交代前の役員の情報を記載します。ただし、投資家が知りたいのは「総会後の新体制」ですので、総会前に提出する有報では「注書き」で交代に関する情報を記載するのが一般的です。」
コメント:取締役Bの発言のとおり、有報の【役員の状況】欄には、基本的に「提出日現在」の情報を記載します。そして、有報を総会前に提出する場合は、まだ役員の新旧交代は行われていないため、有報の【役員の状況】欄には交代前の役員の情報を記載します。また、取締役Bの発言は、総会前に提出する有報では交代後の役員について「注書き」により記載するのが一般的である点を指摘できており、GOODです。開示府令の改正により、総会前に提出する有報では交代後の役員について「注書き」の記載すら不要になったことまで指摘できていれば、なおGOODでした。

BAD発言はこちら

取締役A:「総会で役員が交代することを予定している場合、有報を総会前に提出する会社では有報の【役員の状況】欄に交代前の役員ではなく交代後の役員を記載することになるため、それに抵抗があるという会社が多いようですね。」
コメント:有報の【役員の状況】欄には、基本的に「提出日現在」の情報を記載します。「有報を総会前に提出する会社では有報の【役員の状況】欄に交代前の役員ではなく交代後の役員を記載する」旨の取締役Aの発言は誤りです。

取締役C:「有報にはガバナンスやサステナビリティの詳細に書くことになりますが、そんな手の内を総会前にさらけ出したら、突っ込みどころが増えて、総会当日に株主から「重箱の隅をつつくような質問」が相次ぐことが予想され、総会の運営が不安定になります。有報は総会後に提出するようにしましょう。」
コメント:有報の総会前提出に乗り気ではない役員や一部の株主総会事務局スタッフに散見される考え方です。株主総会での決議に先立ち、あまりに情報が少ないと、株主総会において株主は「何か隠しているのではないか」「実態はどうなっているのか」という視点から基礎的な質問をせざるを得なくなります。総会前に有報で詳細なデータ(セグメント情報、リスク認識など)を開示しておくと、機関投資家や分析力のある株主は事前に内容を理解して納得してくれます。結果として、当日は「重箱の隅をつつく質問」ではなく「建設的な対話」に集中でき、事務局側の想定問答の精度も上がるため、総会の運営はむしろ安定するはずです。なお、有報の総会後提出自体は法令に違反するものではありませんが、あえてそれを推奨するのは明らかに時代の流れに逆行するものと言わざるを得ません。

取締役D:「有報を総会の3週間以上に提出するのは困難です。いっそのこと総会の開催を6月ではなく7月や8月に後倒ししてはどうでしょうか?定款の変更は不要なので、取締役会で決定するだけで実現可能です。」
コメント:総会の後倒し開催案の提案自体はGOODですが、「定款の変更は不要」は正しくは「定款の変更が必要」であり、「取締役会で決定するだけで実現可能」は正しくは「株主総会で定款変更を決議する必要がある」です(取締役Dの発言は誤り)。

2026/03/27 【失敗学第141回】ニデックの事例(会員限定)

概要

ニデック(東証プライムに上場)で、グループ内の多岐にわたる拠点において多数の会計不正があったことが発覚した(第三者委員会による調査は現在も継続中)。これまでに判明した不正等の訂正による2025年度第1四半期末の連結純資産への影響額は約▲1,397億円。

ニデックで発覚した会計不正の内容
項目 内容
棚卸資産 資産性のない原材料・製品の評価損計上を回避(費用計上の先延ばし)
固定資産 実現確度の低い売上計画に基づき、減損処理を回避
費用資産化 本来費用処理すべき人件費を固定資産に計上し、減価償却で費用化を遅延
引当金 子会社が計上した補助金返還引当金を、連結時に不正に取り崩し
収益認識 収益計上が認められない性質の補助金を、偽って収益として計上
債権管理 不良債権に対する貸倒引当金の過少計上(不適切な計上)
経緯

ニデックが2026年3月3日に公表した「第三者委員会の調査報告書」および「第三者委員会の調査報告書を受けて」によると、一連の経緯は次のとおり。

<1973年>
永守重信氏がニデックを創業する。

<1984年>
ニデックは、米国企業の軸流ファン部門を買収したことを皮切りに、ニデックにはない技術等を保有する企業を次々と買収し、これら一連のM&Aを経て、精密小型モータ事業から車載事業、家電・商業・産業用モータ事業、工作機械事業を展開する総合モータメーカーヘと成長していく。

<1988年>
ニデックが京都証券取引所並びに大阪証券取引所市場第二部(いずれも当時)に上場する。当時の会計監査人は「中央新光監査法人」。その後、会計監査人の名称は合併等により「中央青山監査法人」「みすず監査法人」「京都監査法人」と変遷するものの、ニデックから見ると実質的には同一。なお、京都監査法人は、みすず監査法人の解散に伴い、その一部のパートナーが設立した監査法人である。

<1998年>
ニデックが東京証券取引所市場第一部上場に上場する。

<2013年>
京都監査法人が、PwCのメンバーファームとなり、名称を「PwC京都監査法人」(以下、PwC京都)に改める。

<2020年>
6月17日:ニデックが監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する。

<2023年>
6月1日:ニデックの会計監査人であるPwC京都とPwCあらた有限責任監査法人が統合に向けた協議を開始したことを発表。永守氏は、第三者委員会のヒアリングにおいて、「PwC京都があらたと統合すれば、ニデックがこれまでやってきたような会計処理は通用しないだろうという危機感があった。」と述べている。
12月1日:PwC京都は、PwCあらた有限責任監査法人との合併により、PwC Japan有限責任監査法人となる。

<2025年>
7月22日:ニデックの内部監査部門および監査等委員会は子会社のニデックテクノモータ株式会社の内部監査部門から、その中国子会社であるニデックテクノモータ浙江有限公司において、サプライヤーから受領した購買一時金に関して不適切な会計処理が行われた疑いがあるとの報告を受ける。ニデックは、外部の法律事務所等の専門家を起用し、監査等委員会の監督の下、フォレンジック調査を含む調査を進めたところ、ニデックグループの様々な拠点において、資産性に疑義のある資産が滞留しており、ニデックの経営陣が、その処理の時期を恣意的に検討しているとも解釈し得る資料等が発見される。
9月3日:ニデックの取締役会は、監査等委員会が主導する調査ではなく、会社から独立した第三者による客観性のある調査を行う必要があると判断し、第三者委員会を設置することを決定する。

<2026年>
3月3日:ニデックは「第三者委員会の調査報告書」および「第三者委員会の調査報告書を受けて」を公表する。
3月13日:ニデックはおよび「役員責任調査委員会の設置に関するお知らせ」を公表する。

内容・原因・対応

ニデックが2026年3月3日に公表した「第三者委員会の調査報告書」によると、本件不正の内容、原因および対応は次のとおりとされている。

様々な手法を用いた粉飾決算
内容 上記の表「ニデックで発覚した会計不正の内容」を参照。
原因 <動機>
永守氏の業績目標の達成に向けた極めて強いプレッシャー

ニデックグループにおいては、永守氏の強力なリーダーシップの下、長年にわたり「赤字は悪」(ニデックにおいては、長年、営業利益率10%未満は「赤字」であると評価されていた)であるとの考え方が徹底され、業績目標が必達のものとして捉えられていた。そもそも、ニデックグループの業績目標は、長年にわたり、永守氏によるトップダウンで決定され、各事業部門や子会社に割り当てられていたが、それは、投資家目線でどの程度の成長が求められているかといった観点から決められた目標であり、事業部門や子会社の実力を超えるものであった。その上で、永守氏は、事業部門や子会社を所管するニデック本社の執行役員やCFOに対して、業績目標を達成するよう強いプレッシャーをかけていた。
ニデック本社の執行役員らに対する業績プレッシャーは、そのまま事業部門や子会社の幹部に対する業績プレッシャーへと繋がっていった。業績目標に達していない中、ニデック本社の執行役員が、連日会議を開いて、子会社の幹部に対し、営業利益目標を達成していないことを責め立て、徹夜をしてでも営業利益を捻出するよう指示するといった、無理難題ともいえる指示を繰り返す例もあった。これは、決算期末終了後であっても例外ではなく、営業利益の速報値が見込みよりも悪かった場合には、決算締切りまでに数値を積み上げるよう指示がなされていた。また、永守氏からも、日常的に事業部門や子会社の幹部に対して直接プレッシャーが加えられていた。
業績目標達成に向けたニデックの管理手法を特徴付けているのは、月次の日標達成に向けた進捗状況を日次で管理するという、極めて密度の濃い管理手法を採用しているという点であり、各拠点は、日々、強い業績プレッシャーに晒されていた。
このように、強い業績プレッシャーがかけられる中、例えば、売上の早期計上、棚卸資産の評価損や固定資産の減損の回避、資産の評価方法の変更、コストの資産化といった会計処理によって業績目標を達成しようとする事業部門や子会社も少なくなかった。

永守氏の絶対性
ニデックは、「永守氏の会社」であり、あらゆる権限が永守氏に集中していた。特に二デックグループの経営幹部の人事権は永守氏にあった。人事権を握られている経営幹部が、業績目標達成のために、時に極めて厳しいプレッシャーを部下にかけ、会計不正を引き起こす原因を作ってきた。

<機会>
牽制機能の不全
ア 経理部門について

第三者委員会の調査の結果、発見された会計不正の相当数には、事業部門や子会社の経理部門が関与していた。また、ニデック本社の経理部門が関与した会計不正も発見された。本来、第2線(セカンドライン。企業のリスク管理体制を「3ラインモデル」で説明する際、事業部門(第1線)を牽制・支援する管理・コンプライアンス部門を第2線と称する)として牽制機能を果たすはずの経理部門が自ら会計不正に関与したことの背景には、CFOや経理部門が業績達成の責任を負わされているという、理不尽とも言える状況が存在した。過去に外部の法律事務所が会計不正事案の調査を実施した際には、外部の法律事務所から、事業部門や子会社の経理部門からニデック本社の経理部門への直接の報告体制を整備することが提言されたが、実現には至っていない。
また、ニデック本社の経理部門は、ニデックグループ内の負の遺産を把握できていなかった。

イ 内部監査部門について
内部監査部門は、ニデックグループにおいて会計不正が頻発する根本原因が、永守氏を起点とするニデック本社からの業績プレッシャーの存在にあると認識していたが、その問題に切り込むことを意図的に回避していた。また、内部監査部門による調査は、決算スケジュールを遅延させないことを第一に進められていた。そのため、発覚した会計不正事案の調査も決算スケジュールありきで進められていた上、調査範囲を拡大させるような深掘り調査は回避されていた。

ウ 監査等委員会(監査役会)について
常勤の監査等委員(監査役)の一部は、平素、内部監査部門と近い場所で執務をしていることもあり、会計不正の根本原因が永守氏を起点とするニデック本社からの厳しい業績プレッシャーにあることを理解していた。常勤監査等委員の一人は、「高い目標を掲げ、その達成に向けて尽力するというのは、創業者である永守氏の経営スタイルそのものであり、その在り方を正面から疑問視することは難しいと考えていた。」と述べているが、牽制として機能していなかった。
社外の監査等委員(監査役)に対しては、個別の会計不正事案についての説明が行われることはあったが、その説明は表面的なものであり、常勤監査等委員(監査役)らが認識していた根本原因は共有されていなかった。
また、ニデックが抱える「負の遺産」の問題も共有されておらず、その解消のための取組が意味するところも共有されてこなかった。

PwC京都に対する不誡実さ
ニデックの役職員は、会計監査人であるPwC京都に不正確な情報、ミスリーディングな情報を与え、都合の良い意見を引き出そうとしていた。また、ニデックの役職員は、PwC京都を「説得しやすい相手」と捉えており、「アグレッシブ」な会計処理に歯止めが効かなくなっていた。

<正当化>
負の遺産の積上げと処理

ニデックグループ各社では、永守氏の指示に従って高い業績目標を掲げていた。当該目標に見合う売上・営業利益を確保するために多額の設備投資をした会社の中には見込みが大きく外れることもある。そのような場合、本来であれば、対象資産を減損処理しなければならないが、減損処理をすると営業利益を減らすことになる。そこで、会計不正により減損回避を行った結果、損失処理すべき「資産性に疑義のある資産」が放置されることになる。ニデックグループでは、これを「負の遺産」と呼び、一時期、「資産健全化プロジェクト」の名の下、内部監査部門が主導して、ニデックグループ各社の申告に基づいて「負の遺産」に関する情報を集約し、減損等が必要な資産の処理を行う取組みを行っていた。「負の遺産」の処理状況は、定期的に永守氏をはじめとする経営幹部へ報告されていた。なお、多額の「負の遺産」の処理をした場合、対外的には、将来の事業展開に備えた「構造改革費用」を計上したなどと発表されていた。こういった粉飾発覚後の組織的な後処理プロセスの存在は粉飾を正当化させるリスクがある。
もっとも、「負の遺産」の処理は、「セルフファンディング」により行うこと、すなわち「負の遺産」を処理することによって発生する損失を収益でカバーして、あくまで業績目標を達成することが求められていた。「負の遺産」の処理を行うことは、事業部門や子会社にとっては、自らの営業損益を悪化させることを意味しており、業績目標達成が厳しく要求される状況において、自主的な申告によって「負の遺産」を網羅的に把握し、それを直ちに処理することには限界があった。そのため、「負の遺産」の処理は想定どおりには進まず、また、処理を進める傍ら、新たな「負の遺産」が発生する状況にあった。

対応 ■役員の辞任、職務停止、報酬自主返上
■人事異動と新体制の始動
・国内外グループから有為で将来性のある人材を幅広く登用、透明性の高い経営基盤を構築
■「新生ニデック」のダイバーシティ推進
・組織の多様性を確保し、硬直化した体制からの脱却
・全社一丸となり、ステークホルダーからの信頼回復に注力
■ガバナンス体制の抜本的見直し
・取締役会の構成を再検討(企業経営経験者、会計専門家などの招聘)
・専門性と多様性を兼ね備えた経営監督体制の構築
■役員等の法的責任に関する調査・検討
・現旧取締役および執行役員を対象とした「役員責任調査委員会」の設置
■再発防止策の策定と実施
・「ニデック再生委員会」が主導し、改善計画・状況報告書に基づく改善計画の着実な履行
<この事例から学ぶべきこと>

ニデックは、第三者委員会の調査結果に基づく過年度の損益の下方修正等により、派生的な影響として、主に車載事業に関連する「のれん」および「固定資産」の減損損失を追加計上する可能性があるとしています。減損検討対象となる資産規模は約2,500億円となっています(計上額および計上時期は未定)。同社はM&Aを多用して会社規模を大きくしてきたという経緯もあり、多額の「のれん」(2025年9月30日時点で4,182億円)を計上しています。また、同社はIFRSを採用しているため、日本の会計基準のように「のれん」を定期的に償却する必要がありません。利益のねん出等の不正会計によりのれんの減損テストをパスできていた可能性があります。昨今、「日本基準もIFRSのようにのれんを非償却にすべき」という論調が強まっていますが、ニデックの事件を契機に「のれん」の非償却は減損テストをパスするための不正会計を誘発しかねないといった償却賛成派からの懸念の声が強まるものと思われます。

ニデックの調査報告書には内部監査について次のような記述があります。
「不正を起こす企業の特徴として、内部監査部門の脆弱さが指摘される例は少なくないが、会計不正への牽制という意味では、その指摘は、ニデックの内部監査部門には直ちには当たらない。1990年代、永守氏は、子会社で会計不正が行われている事例に接し、会計に特化した監査を行う必要性を感じ、外部から公認会計士を採用するなどして人員を増強し、内部監査部門に会計監査を行う部署を設置した。内部監査部門に会計監査に特化した部署を置くというのは、他の多くの企業には見られない特徴である。内部監査部門は、概ね、年間60程度の拠点の会計監査を実施しているほか、内部通報等を通じて会計不正の疑いを把握した場合には、特別調査を実施している。この調査は、「特命監査」と呼ばれており、2011年頃から2020年6月頃まで実施されていた(以下、省略)」
業績目標達成のプレッシャーとは方向性が異なるため、意外感もあります。しかし、ここで注意したいのは、その特命監査の結果の報告対象が限られていたことです。
「特命監査の内容は、内部監査部門やPwC京都には共有されず、永守氏ら限られた経営幹部のみに結果が報告されていた。当該従業員は、会計不正が発見された場合、基本的には直ちにその是正を指導していたが、金額規模の大きな会計不正事案においては、直ちに不正を是正するのではなく、複数期にわたって計画的に問題を処理するよう指導するなど、業績目標達成のプレッシャーに晒されている子会社が大きく営業利益を落とすことのないよう配慮した対応をすることもあった。永守氏も、当該従業員の報告を通じて、本来であれば直ちに是正が必要な会計不正を計画的に処理する例があることを把握していたが、それを受け入れていた。」
内部監査を内部監査部門に一元化するとともに、デュアルレポーティングライン(内部監査部門がCEO(経営陣)だけでなく、取締役会や監査役会に対しても直接報告を行う体制)を導入することの重要性が分かる事例と言えます。

2026/03/26 WEBセミナー『取締役会事務局の実際と課題』配信開始!

2026年3月26日(木)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
取締役会事務局の実際と課題 村山 明子(むらやま あきこ)様
■WEBセミナーの詳細
セミナーの内容 コーポレートガバナンス改革が進む中、取締役会に求められる役割は、従来の「重要事項の承認」から「戦略の質やリスクの取り方を問う場」へと変化しています。これに伴い、議題の増加や論点の高度化に対応するため、「取締役会事務局」の重要性が一層高まっており、現在進められているコーポレートガバナンス・コードの第三次改訂においても「取締役会事務局の機能強化」が議論されています。
本セミナーでは、コニカミノルタ株式会社の執行役 取締役会室・経営監査担当である村山明子様をお招きし、同社の先進的な事例をもとに、取締役会事務局の役割と意義、実際の運用プロセスや課題について解説していただきます。
まず、2003年にいち早く委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)という機関設計を採用し、監督と執行の分離を進めてきた同社のコーポレートガバナンスの歩みを振り返っていただきます。続いて、取締役会事務局が担う役割を整理していただくとともに、社外取締役に対する質の高い事前説明の仕組みや、法定3委員会(指名・報酬・監査)と取締役会をつなぐ年間アジェンダの策定など、具体的なオペレーションをご紹介いただきます。
さらに、事前説明の高度化や事務局業務の属人化、取締役会の議論が後戻りしてしまうといった現場が直面している課題とその対応策について解説いただきます。そのうえで、これからの事務局に求められる役割として、単なる「会議事務」にとどまらず取締役会が適切に経営判断を行える環境を主体的に整える「カンパニー・セクレタリー機能」をどう担っていくのか、また、人に依存しない事務局運営とガバナンスの実効性をどのように確立していくのかについてお話しいただきます。
講師のご紹介 村山 明子(むらやま あきこ)様
コニカミノルタ株式会社 執行役 取締役会室、経営監査担当。
1990年コニカ株式会社に入社。フォト感材事業の海外販売部門で企画業務および大手OEM顧客や海外販売子会社支援に携わる。2003年のコニカとミノルタの経営統合を経て、2006年より情報機器事業の商品企画に従事。2019年に経営監査室長、2021年に執行役員、2023年に上席執行役員に就任。2022年7月より取締役会室長兼務の経営監査担当役員として、同社のコーポレートガバナンス確立と内部統制強化に携わる。2024年4月より現職。

■概要
第1部(13分33秒):
● 沿革・フィロソフィー
● コニカミノルタの事業展開
● コニカミノルタのコーポレートガバナンス
● コニカミノルタのコーポレートガバナンスのルーツ
● コーポレートガバナンスのコーポレートガバナンス体制
● コニカミノルタ 取締役会と委員会の体制
● コニカミノルタ 法定委員会の役割・構成
● コニカミノルタ コーポレートガバナンスの変遷

第2部(8分12秒):
● なぜ今、「取締役会事務局」なのか
● 取締役会事務局の役割と意義

第3部(17分31秒):
● 取締役会事務局の役割と意義(続き)
● コニカミノルタ 取締役会事務局の実際

第4部(13分53秒):
● コニカミノルタ 取締役会事務局の課題と対応策
● 取締役会事務局の目指す姿と今後の展望
● 最後に

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■ 会員向けURL(ログインが必要です)
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非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
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<収録月>
2026年3月

<収録時間>
52分48秒

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2026/03/26 【WEBセミナー】取締役会事務局の実際と課題

概略

【WEBセミナー公開開始日】2026年3月26日

コーポレートガバナンス改革が進む中、取締役会に求められる役割は、従来の「重要事項の承認」から「戦略の質やリスクの取り方を問う場」へと変化しています。これに伴い、議題の増加や論点の高度化に対応するため、「取締役会事務局」の重要性が一層高まっており、現在進められているコーポレートガバナンス・コードの第三次改訂においても「取締役会事務局の機能強化」が議論されています。
本セミナーでは、コニカミノルタ株式会社の執行役 取締役会室・経営監査担当である村山明子様をお招きし、同社の先進的な事例をもとに、取締役会事務局の役割と意義、実際の運用プロセスや課題について解説していただきます。
まず、2003年にいち早く委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)という機関設計を採用し、監督と執行の分離を進めてきた同社のコーポレートガバナンスの歩みを振り返っていただきます。続いて、取締役会事務局が担う役割を整理していただくとともに、社外取締役に対する質の高い事前説明の仕組みや、法定3委員会(指名・報酬・監査)と取締役会をつなぐ年間アジェンダの策定など、具体的なオペレーションをご紹介いただきます。
さらに、事前説明の高度化や事務局業務の属人化、取締役会の議論が後戻りしてしまうといった現場が直面している課題とその対応策について解説いただきます。そのうえで、これからの事務局に求められる役割として、単なる「会議事務」にとどまらず取締役会が適切に経営判断を行える環境を主体的に整える「カンパニー・セクレタリー機能」をどう担っていくのか、また、人に依存しない事務局運営とガバナンスの実効性をどのように確立していくのかについてお話しいただきます。

講師のご紹介 村山 明子(むらやま あきこ)様
コニカミノルタ株式会社 執行役 取締役会室、経営監査担当。
1990年コニカ株式会社に入社。フォト感材事業の海外販売部門で企画業務および大手OEM顧客や海外販売子会社支援に携わる。2003年のコニカとミノルタの経営統合を経て、2006年より情報機器事業の商品企画に従事。2019年に経営監査室長、2021年に執行役員、2023年に上席執行役員に就任。2022年7月より取締役会室長兼務の経営監査担当役員として、同社のコーポレートガバナンス確立と内部統制強化に携わる。2024年4月より現職。
セミナー資料 取締役会事務局の実際と課題.pdf

■概要
第1部(13分33秒):
●沿革・フィロソフィー
●コニカミノルタの事業展開
●コニカミノルタのコーポレートガバナンス
●コニカミノルタのコーポレートガバナンスのルーツ
●コーポレートガバナンスのコーポレートガバナンス体制
●コニカミノルタ 取締役会と委員会の体制
●コニカミノルタ 法定委員会の役割・構成
●コニカミノルタ コーポレートガバナンスの変遷

第2部(8分12秒):
●なぜ今、「取締役会事務局」なのか
●取締役会事務局の役割と意義

第3部(17分31秒):
●取締役会事務局の役割と意義(続き)
●コニカミノルタ 取締役会事務局の実際

第4部(13分53秒):
●コニカミノルタ 取締役会事務局の課題と対応策
●取締役会事務局の目指す姿と今後の展望
●最後に

セミナー動画

取締役会事務局の実際と課題(第1部)
807141

取締役会事務局の実際と課題(第2部)
807142

取締役会事務局の実際と課題(第3部)
807143

取締役会事務局の実際と課題(第4部)
807144

単に動画を閲覧しただけではマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されません。下の「所感登録画面へ」ボタンを押し遷移する画面の右側の「登録」ボタンを押し下げすることではじめてマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されます。「登録」にあたっては、本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)などをぜひご記入ください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

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2026/03/26 【WEBセミナー】取締役会事務局の実際と課題(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2026年 3月26日

コーポレートガバナンス改革が進む中、取締役会に求められる役割は、従来の「重要事項の承認」から「戦略の質やリスクの取り方を問う場」へと変化しています。これに伴い、議題の増加や論点の高度化に対応するため、「取締役会事務局」の重要性が一層高まっており、現在進められているコーポレートガバナンス・コードの第三次改訂においても「取締役会事務局の機能強化」が議論されています。
本セミナーでは、コニカミノルタ株式会社の執行役 取締役会室・経営監査担当である村山明子様をお招きし、同社の先進的な事例をもとに、取締役会事務局の役割と意義、実際の運用プロセスや課題について解説していただきます。
まず、2003年にいち早く委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)という機関設計を採用し、監督と執行の分離を進めてきた同社のコーポレートガバナンスの歩みを振り返っていただきます。続いて、取締役会事務局が担う役割を整理していただくとともに、社外取締役に対する質の高い事前説明の仕組みや、法定3委員会(指名・報酬・監査)と取締役会をつなぐ年間アジェンダの策定など、具体的なオペレーションをご紹介いただきます。
さらに、事前説明の高度化や事務局業務の属人化、取締役会の議論が後戻りしてしまうといった現場が直面している課題とその対応策について解説いただきます。そのうえで、これからの事務局に求められる役割として、単なる「会議事務」にとどまらず取締役会が適切に経営判断を行える環境を主体的に整える「カンパニー・セクレタリー機能」をどう担っていくのか、また、人に依存しない事務局運営とガバナンスの実効性をどのように確立していくのかについてお話しいただきます。

講師のご紹介 村山 明子(むらやま あきこ)様
コニカミノルタ株式会社 執行役 取締役会室、経営監査担当。
1990年コニカ株式会社に入社。フォト感材事業の海外販売部門で企画業務および大手OEM顧客や海外販売子会社支援に携わる。2003年のコニカとミノルタの経営統合を経て、2006年より情報機器事業の商品企画に従事。2019年に経営監査室長、2021年に執行役員、2023年に上席執行役員に就任。2022年7月より取締役会室長兼務の経営監査担当役員として、同社のコーポレートガバナンス確立と内部統制強化に携わる。2024年4月より現職。
セミナー資料 取締役会事務局の実際と課題.pdf

■概要
第1部(13分33秒):
●沿革・フィロソフィー
●コニカミノルタの事業展開
●コニカミノルタのコーポレートガバナンス
●コニカミノルタのコーポレートガバナンスのルーツ
●コーポレートガバナンスのコーポレートガバナンス体制
●コニカミノルタ 取締役会と委員会の体制
●コニカミノルタ 法定委員会の役割・構成
●コニカミノルタ コーポレートガバナンスの変遷

第2部(8分12秒):
●なぜ今、「取締役会事務局」なのか
●取締役会事務局の役割と意義

第3部(17分31秒):
●取締役会事務局の役割と意義(続き)
●コニカミノルタ 取締役会事務局の実際

第4部(13分53秒):
●コニカミノルタ 取締役会事務局の課題と対応策
●取締役会事務局の目指す姿と今後の展望
●最後に

セミナー動画
取締役会事務局の実際と課題(第1部)

取締役会事務局の実際と課題(第2部)

取締役会事務局の実際と課題(第3部)

取締役会事務局の実際と課題(第4部)

単に動画を閲覧しただけではマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されません。下の「所感登録画面へ」ボタンを押し遷移する画面の右側の「登録」ボタンを押し下げすることではじめてマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されます。「登録」にあたっては、本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)などをぜひご記入ください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

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2026/03/25 【2026年2月の課題】スキル・マトリックスの見直し 解答(会員限定)

タワーズワトソン株式会社(WTW)
経営者報酬・ボードアドバイザリー
シニアディレクター
佐川 裕一

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の補充原則4-11①は、スキル・マトリックスを、経営戦略に照らし取締役会として備えるべきスキル等を特定した上で、全体としてのバランスや多様性も踏まえ「各取締役の知識・経験・能力等を一覧化」したもの、と定義しています。この定義を踏まえれば、スキル・マトリックスに記載するスキル項目は、肩書や職歴から機械的に抽出するのではなく、自社の長期ビジョンを実現し、中期経営計画に掲げた経営目標を達成するために取締役会として確保すべき知識・経験・能力を基準に選定すべきです。また、スキル・マトリックスは一度策定して終わりではありません。経営計画等の変更や外部環境変化があった場合には、それに応じて取締役会が備えるべきスキルを見直す必要があります。

以下では、実効的なスキル・マトリックスを策定・開示するためのポイントを、①自社のスキル・マトリックスの主旨・目的の説明、②スキル項目の内容と数、③保有スキルの評価基準の明確化、④スキル項目の見直しのタイミングやそのプロセス、という4つの視点から、事例とともに解説します (注:すべての事例は、2025年度における各社の開示資料に基づいています)。

1. 自社のスキル・マトリックスの主旨・目的の説明

「経営」「法務」などの定型項目を並べたスキル・マトリックスのみを何の説明もないまま開示しても、なぜその項目が自社にとって重要なのか、また、それが経営戦略とどのように結び付くのかといったことが読み手(ステークホルダー)に伝わらない恐れがあります。そこで、スキル・マトリックスに加え、以下のような点を説明した「前文」(または補足説明)も掲載することが有用です。これにより読み手は、会社がどのような考えや理由によりそのスキル項目を選定したのかを理解でき、スキル・マトリックスを適切に評価しやすくなります。

また、このような補足説明は、スキル項目の選定理由等を示すのみならず、それが取締役の選任方針・手続とどのように結び付いているかを明らかにする意味でも有用です。これは、スキル・マトリックスを「取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべき」とするコーポレートガバナンス・コード(CGコード)補充原則4-11①(第三次改訂案では原則4-12(1))の趣旨にも適うものとなります。

<前文(または補足説明)で伝えるべきポイント(例)>
・ スキル・マトリックスの策定目的は何か
・ 経営戦略とスキル・マトリックスとの関係をどのように位置づけているか
・ スキル・マトリックスを取締役等の選任プロセスにおいてどのように活用しているか

<前文(または補足説明)の記載事例>
・ 策定目的と、特筆すべきスキル(全員が備えるべきスキル、監査等委員に求めるスキル)を説明<住友商事>
・ 策定目的と、経営理念・マテリアリティ・重点戦略を踏まえたスキル選定プロセスを説明<ピジョン>
・ 2030年ビジョンの実現に向けた取組みと、各々の取組みに対応するスキル項目を図示<本田技研工業>
・ 中期経営計画の重点課題と、それに対応するスキル項目との関係性を図示<いすゞ自動車>
・ 策定プロセス(コア・基盤スキルと自社固有のスキルの導出)と、選任プロセスへの活用について説明<日本ハム>

2. スキル項目の内容と数

プライム上場企業では、概ね7〜10個前後のスキル項目を設定するのが一般的であり、典型的なものとしては、「企業経営」「法務・コンプライアンス」「財務・会計」「グローバル」「IT・デジタル」「マーケティング」などが挙げられます。しかし、これらの項目を単に並べるだけでは、他社との違いが見えにくく、自社の強みや特性も伝わりづらくなります。

そこで、以下の工夫をすることにより内容にメリハリをつけ、自社の独自性を出すとともに、経営戦略との関連性を強調することができます。また、そのスキル項目の選定の考え方や理由を上述1の「前文」で説明することで、各項目の設定根拠が明確になり、取締役会としてどのような能力を重視しているのかも読み取りやすくなります。

<独自性や経営戦略との関連性を示すための工夫(例)>
・ すべてのスキル項目を、①取締役会が監督機能を発揮するために一般的に求められるものと、②自社のビジネスの特性や経営戦略に照らして必要となるものに、独自のカテゴリーを設けて分類(上記の例では、「企業経営」「法務・コンプライアンス」「財務・会計」等が①、それ以外は②に該当)
・ 自社のビジネスの特性や経営戦略を踏まえた独自のスキル項目を設定

<スキル項目を分類し、独自の項目を設定した事例>
・ 「基礎的事項」(2項目)と「経営戦略関連事項」(5項目)に分類し、後者のカテゴリーで「エネルギー」を設定
(三菱商事)
・ 「経営の監督として必要なスキル」(4項目)、「モビリティーカンパニーへの変革を推進するスキル」(2項目)、「トヨタとして大事にし続けるスキル」(4項目)に分類し、3つ目のカテゴリーで「スポーツ・モータースポーツ」を設定(トヨタ自動車)
・ 「保険持株会社の取締役として必要な見識・経験」(7項目)と「中期経営計画を踏まえた重要な事業戦略・経営課題に関する見識・経験」(4項目)に分類し、後者のカテゴリーで「M&A/新規事業」を設定(第一生命ホールディングス)

3. 保有スキルの評価基準の明確化

各スキル項目について、ほとんどの取締役に根拠や評価基準の説明もなく「〇」が付されていると、その判定が十分な検討を経たものなのかという疑念を読み手に持たれる恐れがあります。
これを避けるためには、評価の「客観性」が読み手に伝わるような工夫が必要です。例えば、各スキル項目について評価に段階を設けたり、1人の取締役について「〇」を付す項目数に上限を設けたりすることで、取締役間での「強み」の相対比較や取締役会全体としてのバランスが見えやすくなります。こうした工夫は評価の実質性を担保することにもつながり、スキル・マトリックスの正当性や公平性に対する信頼度の向上も期待されます。具体的な事例としては以下のものが挙げられます。

<評価の「客観性」を伝えるための工夫をしている事例>
・ スキル項目の一覧表で、項目ごとに必要とされる見識・経験・能力について説明 (日本電気、エーザイ)
・ 役員別に、各スキル項目への該当理由を、関連する見識・経験とともに説明 (出光興産、小松製作所)
・ スキル項目ごとに、実績や経験の深度を記号等により区別して表示するとともに、指名委員会が特に発揮を期待するスキルを明示(例:◎・〇や背景色により区分) (LIXIL、日本ペイントホールディングス)
・ 役員別の該当項目数に上限を設定(例:最大5〜6項目)(ニトリホールディングス、ピジョン)

4. 見直しのタイミングとそのプロセス

スキル・マトリックスは、経営戦略に照らして取締役会が備えるべき知識・経験・能力を明確化し、現取締役がその要件を満たしているかを可視化するツールです。そのため、長期ビジョンや中期経営計画などが変更された場合には、まず「スキル項目」を見直し、現取締役がそれを充足しているかを改めて評価する必要があります。また、取締役が交代した際にも、「スキル保有状況」の更新が欠かせません。また、M&A により新規事業へ参入する場合には、新たな事業ポートフォリオマネジメントの監督に必要な追加スキルや、それを有する人材の起用について、取締役会や指名委員会での検討が求められます。

経営戦略の変更や M&A といった大きなイベントがない年度であっても、外部環境や業績・財務状況の変化を踏まえて、スキル・マトリックスの見直しの要否を確認することが重要です。なぜなら、こうした変化によって、スキル項目そのものは変わらなくても、その内容、すなわちスキルの定義や評価基準、求められる経験・キャリア()は変わり得るからです。例えば、「企業経営」スキルは、成長期・成熟期・再建期などのフェーズごとに求められる資質が異なります。同様に「グローバル」スキルも、海外事業拡大フェーズと地政学リスクが高まっている局面では、期待される経験値が違ってきます。このような環境変化を適切に捉えて人材要件に反映するためには、社外取締役の主体的な関与のもと、しがらみのない客観的視点での議論が望まれます。

人材要件等については必ずしもその詳細を開示する必要はなく、開示の範囲は各社の判断に委ねられるものと考えられます。

前述のとおり、CGコードではスキル・マトリックスを「取締役の選任に関する方針・手続」と併せて開示することが求められています。これは、スキル・マトリックスが取締役の選任や再任・不再任の判断、及び後継者計画(サクセッションプラン)と連動して運用されるべきということを示していますが、そのためにも、スキル・マトリックスを、上記のような見直しを通じ、外観のみならず中身も含めて常に最新バージョンとしておくことが重要になります。また、指名委員会では、スキル・マトリックスの見直しと後継者計画を一体的に検討する必要があります。これにより、取締役会に必要なスキルと、それを担う人材の選定・育成とを結び付けて考えることができるからです。

以上を総括すると、スキル・マトリックスは、形式・外観だけ整えればよい単なる一覧表でなく、経営戦略と連動する「経営人材ポートフォリオ」と捉えるべきです。そして、その実効性は、スキル項目の適切な設定、客観性のある評価の可視化、さらには環境変化に応じたタイムリーな見直しの3点により担保されます。その過程では株主・投資家の声も適宜ヒアリングし、改善に活かしていくことが重要です。指名委員会等の主導のもと、これらの要所を押さえた運用プロセスが多くの企業で定着することが期待されます。