2015/10/31 2015年10月度チェックテスト第1問解答画面(正解)

正解です。
 上場株式配当の支払通知書にマイナンバーを記載することは漏洩リスクがあるため、2015年10月2日の改正租税特別措置法施行規則改正により不要になりました。同様に、給与の源泉徴収票(本人に交付する分)へのマイナンバーの記載も不要になりました(以上より、問題文の「上場株式配当の支払通知書」に関する記述が間違いです)。なお、「税務署提出用」の支払通知書や源泉徴収票にはマイナンバーを記載しなければならない点には留意しましょう。

こちらの記事で再確認!
2015/10/05 漏洩リスクが激減!配当支払通知書へのマイナンバー記載不要に(会員限定)

2015/10/31 【失敗学第17回】サンリンの事例(会員限定)

概要

2015年にサンリン(長野県に本社があるJASDAQ上場のエネルギー商社)で、ギャンブル(競馬)好きの営業マンによる資金の横領(169 百万円)が発覚した。営業マンは横領の発覚を防ぐために、架空仕入、架空売上、架空在庫も計上していた。

経緯

サンリンが2015年9月に社内調査委員会の調査報告書を公表するまでの経緯につき、時系列で示すと、次のとおり。
<2005年>
本件不正行為の当事者であるXがサンリンに入社。Xの実家が営むA商店は、従来からサンリンと取引関係(サンリンの工事の下請先)があった。
<2008年>
Xは借金で馬券を購入するほど競馬にのめり込んでしまった。膨らんだ借金を返済ができなくなったXは、裁判所に個人再生手続を申し出たところ、認められた。
<2009年>
Xは個人再生手続を開始した後もギャンブル依存症が治らなかった。個人再生手続き中のため金融機関からの借り入れができなかったXは、馬券購入代金を調達するため、Xの実家であるA商店を利用した架空仕入による現金着服(A商店の請求書・領収証を偽造し、Xが所属する甲支店の現金から支払った)に手を染めた。また、F設備・G設備をだまし、架空取引に協力させた。
<2011年~2013年>
Xの着服金額はエスカレートしていった。架空仕入が積み上がってしまうと、売上原価計上額も過大となり、売上高に対する売上総利益の割合が悪化し、着服行為が発覚してしまう恐れがある。そのため、着服金額の一部を架空の棚卸資産として計上したり、架空売上も計上したりといった工作も行うようになった。
<2015年>
7月24日:リフォーム部長が、四半期レビュー中のあずさ監査法人より「甲支店のリフォーム関連の棚卸資産残高が他支店に比較して多額であり、また経年のなかで増加傾向にあるため、その要因について説明願いたい」旨の問い合わせを受ける。
7月27日:リフォーム部長が甲支店に赴き、支店長とXに対して質問を行う。
7月28日:リフォーム部長が甲支店側の回答内容を代表取締役専務に報告したところ、代表取締役専務は回答内容に疑義を抱き、リフォーム部長と取締役監査部長に再調査を指示。指示を受けた両名が甲支店を再訪し、仕掛在庫が実在することを確認しようとしたところXが狼狽した。そこで両名がXに詰問したところ、Xが当該仕掛在庫は架空である旨を自白。
7月29日から9月9日:社内調査委員会の調査が行われる。
9月4日:賞罰委員会を開催し、Xに弁明の機会を設けたうえで、懲戒解雇処分とした。なお、甲支店の現支店長と前支店長は降格処分となった。
9月10日:社内調査委員会は調査報告書を代表取締役に提出。サンリンは適時開示により調査報告書を公表した。

内容・原因・改善策

サンリンが2015年9月に公表した社内調査委員会の調査報告書によると、本件の問題点の内容とその原因と改善策は次のとおりである。

買掛金諸口を用いた資金着服

内容 買掛金諸口支払制度(サンリンでは、経理システム上特定の仕入先コードを設けていない仕入先に対する買掛金を支払う方法を言う)を用いて、次の手口により資金を着服していた。
(偽造請求書の利用)
架空の下請工事などの請求書を偽造しそれを提出することで、甲支店の小口現金または実在売上に係る現金回収分より着服した。
原因 買掛金諸口支払制度を用いることができる基準(頻度および金額)についての社内ルールが定められていなかった。
改善策 ・支店における買掛金諸口支払は10万円未満の支払額のときにだけ用いることにし、10万円以上の支払いに際しては、仕入担当者が支払依頼書を作成し本社経理部へ支払いの依頼をする旨のルールを明文化し、運用する。また、その支払方法は全て「振込扱い」とする。
・同一仕入先に対して2回目の買掛金諸口支払となる場合は、事前に仕入先コードを発番し、販売管理システム上に固有仕入口座を開設する。
・買掛金諸口支払処理に対して、本社営業部門および経理部門でのモニタリングを実施する。
・新規口座開設ルールの見直し(売上先・仕入先の実在性の確認のため)
・自店内親族取引ルールの新設(公私混同を防ぐ取引を牽制するため)

水増しした他社買掛金を現金払いする際に資金を着服

内容 (請求書の差し替え)
下請業者に対して事前に請求書を甲支店のX宛に送付するよう依頼しておき、Xが自ら開封して真正の請求書にある実際の取引とあわせて架空仕入を追加し、実在仕入と架空仕入の混在した偽造請求書を自らパソコンで作成してX支店出納担当者へ提出し、現金で支払うので支払日までに現金を用意しておくよう指示をしていた。その後、会社金庫より預かった現金の一部(架空仕入分)を着服し、X支店出納担当者には偽造領収証を提出していた。
原因 支店の下請先からの請求書を受領する際のルール(送り先)が徹底されていなかった。
改善策 請求書の直接郵送ルール(直接郵送先がどこを指すのか、社内調査委員会報告書からは明らかではないが、支店の管理部門と思われる)を徹底する。

架空棚卸資産の計上

内容 サンリンでは、業績把握に際して「差益率」(売上高に対する売上総利益の割合)を重視していた。Xは、架空仕入を行ったことで売上原価が増え差益率が悪化してしまい、架空仕入による資金着服が発見されるのを恐れ、架空棚卸資産の計上を行っていた(これにより売上原価の増加を防ぎ、ひいては差益率の悪化を回避できる)。Xは、架空棚卸資産の計上に以下の方法を用いていた。
(架空の棚卸品の計上)
架空の棚卸品を棚卸入力原本(棚卸結果をシステムに入力するための元資料)へ計上していた。
(棚卸単価の過大計上)
リフォーム工事現場用の建材や設備工事用の管材類などで、日常的に取り扱いの少ない棚卸品の単価を大幅に引き上げ、棚卸価額の水増しを行っていた。
原因 (担当者兼任による内部牽制不足)
Xは、棚卸入力原本の作成も担当していた。そのため、棚卸品の単価の過大計上や架空の棚卸品を棚卸入力原本へ計上することができた。
(棚卸時に現地確認を実施していなかった)
倉庫内にあるべき架空在庫は、知合いの業者から棚卸前に商品を借りてきて実在性を偽装していた。倉庫外の工事現場は、従来から棚卸時に現地確認が行われていなかった。
(差益率の偏重)
サンリンでは、業績分析に際して「差益率」を判断の基準として過度に偏重しており、棚卸資産の絶対額・回転率・対前年比増減などの数値管理がされていなかった。
(内部監査や監査役監査などで仕掛品の実在性を確認することがなかった)
1年に4回の内部監査部門による監査ならびに監査役監査、財務報告に係る内部統制上の各支店における1年に1回の自己点検および1年に2回の内部統制委員会による内部統制監査のいずれにおいても仕掛品の実在性を確認することがなかった。
(その他)
・経理規程などに関する明文化の不足
・全社員に対する関連規程の周知の不足
改善策 (差益率偏重の解消)
業績分析について「差益率」を判断の基準として過度に偏重し、棚卸資産の絶対額・回転率・対前年比増減など数値管理範囲を拡大する。
(棚卸時の現地確認)
棚卸時に、未完成工事の現地確認を必ず行う。
(監査部をリスク管理部に改編)
・リスクマネジメントの強化を図る。
・リスク管理部の役割を、コンプライアンス体制強化と対応、コンプライアンスにおける社内教育指導、クレームやリスク発生時の統括部署、本支店監査実施、内部統制実施の統括などとする。
・内部監査機能を併設し、本支店監査の強化を図る。
・支店の監査実施状況を取締役会に報告する。
(内部監査の充実)
・内部監査時に社内ルールの遵守状況を上記一覧表に沿ったチェックリストによりモニタリングし、改善指導に役立てる。
・支店などの所属長による社内ルールの自店内遵守状況のチェックを継続的に実施する。
・買掛金諸口支払処理に関しては、本社営業部門および経理部門でのモニタリングを実施する。
(取締役会の監視機能の充実と情報収集機会の拡大)
・リスク監理部監査の実施報告に基づき、支店の課題を共有し、支店の運営の実態を監視しながら必要に応じて指導・改善指示を行う。
・監査役会および監査法人との情報交換の頻度を高める。
(支店長による定期チェックの実施)
・管理上必要となるリスク管理すべき項目を網羅した「チェックシート」を作成し、支店長はそれを用いて定期的に自己点検を行う。
・在庫管理のチェック頻度を高め、整理整頓状況、適正な有高と払出し状況のモニタリングを行う。
・支店長による支店員とのミーティングや定期的な面接の実施
(職務の見直しと職務分掌の徹底)
職務や一定の業務を一人の社員にかつ長期間にわたって集中させない仕組み作りおよび随時の業務変更の実施を図る。また、支店間を跨る人事ローテーションの見直しおよび同一支店内においても、適宜職種変更などを行い、属人的業務依存の改善に努める。
(その他)
・内部監査の充実
・経理規程などに関する明文化
・関連規程の周知(社内ルールの制定時にルールを文書で発信するだけでよしとはせず、各種会議や研修などの教育機会の活用や、「主要業務管理要領」の追加事項の作成と活用、支店監査時の指導などあらゆる機会を通じて制定したルールの周知徹底を図る)
・内部通報制度(ヘルプライン)活用の見直し
・内部通報制度の啓発教育と運用方法の周知徹底を図る。

架空売上の計上

内容 架空仕入に伴う架空資産の処理方法として、架空の売上取引を偽装し、対応する売上原価としてその架空資産を費用処理していた。
(同一取引先で複数の得意先コードを作成)
Xは、実在取引が発生する取引先につき、複数の口座(得意先コード)を作成させていた。その際にXは、サンリンの内部事務担当者に対し、言葉巧みに「取引業者から現場ごと管理をしたいとの要請があった」「社長個人の扱いであるから個人名を入れた口座名にしてほしい」などの虚偽の事実を告げ、内部事務担当者をだまして口座を複数作成させていた。その複数口座を使い分けて、実在取引の売上と架空売上を別々の口座へ売上処理をして、サンリンの請求書を発行していた。
(休眠口座の利用)
以前の取引により既に売上口座が開設されていて、当時は取引の発生していない取引先および個人名での架空売上先に対し架空売上計上を行っていた。
原因 (同一取引先で複数の得意先コードを作成)
サンリンでは、売上業務担当者が、請求締日の翌日に販売管理システムにより請求書を発行し、各営業担当者へ配付し各営業担当者が請求書のチェックをした後、支店長の確認を経て、内部事務担当者が封筒に入れ郵送することが原則となっている。
しかし、Xは「これから先方へ用事があるから届ける」「先方で至急欲しいと言っているから今日届ける」などと偽り、内部事務担当者から請求書を受け取り、架空売上計上のみの場合はそれを破棄し、複数口座により実在売上と架空売上の両方の請求書が封入されている場合は、架空売上計上を行った口座の請求書のみを抜き取り、再び封印して取引先へ届けていた。
(休眠口座の利用)
上述と同様に、内部事務担当者に請求書を届ける旨申し出て、請求書は郵送せずに破棄していた。
(着服資金による入金)
架空売上計上による架空売掛金は、売上計上日の属する月末から2か月を超えない日までに入金されないと本社管轄の売掛金となってしまうことから、不正な資金着服が発覚しないように、その日までに着服資金により売掛金の入金をしていた。
改善策 上述の改善策を参照

領収証を悪用した資金着服

内容 Xが領収証を悪用して、前受金・売掛金を着服していた。
原因 サンリンでは、3枚複写(用途は次のとおり)の領収証(50部で1冊)が用いられている。
1枚目:領収証控で切り離しは出来ない。
2枚目:支払証で顧客より領収した際に、顧客より確認印(署名)をもらい、集金した金員とあわせて出納係へ渡す。
3枚目:顧客へ渡す領収証。
集金業務を日常的に行う営業担当者には、正規領収証が1冊ずつ支給される。支給に際しては、領収証すべてに通しナンバーが付され、週に一度使用中の領収証のチェックも義務付けられている。
Xは自分宛の領収証を発行する際(自宅LPガス代など)や架空売掛金の入金処理のため領収証を発行する際に、3枚目をあらかじめ切り離し、それを未使用の状態で保管しておいた。そして、前受金の受領や売掛金の集金時に、その未使用の領収証(三枚目)に透けて下が見えるノンカーボンの複写用紙を重ねて金額を記入して相手に交付し、領収した前受金・売掛金を着服(一時流用)していた。
<この失敗から学ぶべきこと>

不正発見のきっかけは、監査法人の四半期レビューでした。四半期レビューでは、監査法人の手続きとして単純な比較(金額や比率の前期比較、予実比較、部門比較)や統計的手法(趨勢分析、比率分析、回帰分析など)を用いた分析的手続きとその結果に関する質問がメインとなり、確認・実査・証憑突合といった手続きは行われないのが通常です。そのため、四半期レビューだけでは集めた証拠の証拠力が十分でないことが多く、期末の監査に比べると不正を発見しづらい面があるのも事実です。もっとも、本件では在庫金額が合理的に説明し得ない水準になっていたのでしょう。そうであれば、監査法人より先に本社管理部門が気付くべきだったのかもしれません。

サンリンでは、現金回収・現金支払いといった現金取引や買掛金諸口支払(相手先コードを設けていない場合の支払い)が、不正に用いられていました。トレース(追跡)しづらい現金取引や諸口による支払いは不正の温床になりがちです。他社でも、現金回収・現金支払いが突出して多い支店・担当者に対しては報告を求めるとともに内部監査の対象に含めるといった対策が必要です。

また、サンリンでは、業績把握に際して差益率を偏重していたために、その裏をかかれて架空売上や架空在庫を計上されてしまいました。特定の管理指標を偏重してしまうと見逃してしまうデータが出てくるのは当然です。複数の管理指標を組み合わせることで、業績把握に深度を持たせるとともに、不正の試みに歯止めをかけることが可能になります。

サンリンの社内調査委員会がまとめた改善策では、支店長と従業員のコミュニケーションを密にし、従業員の言動や様子などから不審な兆候やサインなどを感知するきっかけにするとしています。コミュニケーションの活発化により「ギャンブルにハマっている」「生活が派手になった」「勤務態度が悪くなった」といった兆候を所属長がキャッチし不正発覚や防止に役立てるというのは、組織運営の“基本中の基本”です。しかし、いわゆる“飲みュニケーション”がすたれたこともあり、こういった縦のコミュニケーションを十分にとれていない会社や部署は意外と少なくありません。これを機に、自社や自部門における上長と部下のコミュニケーションが十分かどうか見直してみるのもよいかもしれません。

2015/10/30 統合報告を実施する企業が200社目前に 質の改善も進む

 統合報告を実施する企業が急増している。2014年には142社だったが2015年は194社と、200社到達が目前に迫ってきた。

 2015年から統合報告に移行した企業のリストを見ると、日本を代表する金融グループである三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループのほか、キリンホールディングスやアサヒグループホールディングスという飲料業界のリーディングカンパニーなど、有力企業が目に付く。また、数年ぶりに積極的なIR活動を再開した丸井、従来からアニュアルレポートが高く評価されていたカプコンなど業種も幅広く、統合報告を採用する企業の裾野が大きく広がった印象がある。ちなみに、統合報告の媒体のタイトルを「アニュアルレポート」から「統合レポート」に変更した企業は2014年は45社、2015年は・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/10/30 統合報告を実施する企業が200社目前に 質の改善も進む(会員限定)

 統合報告を実施する企業が急増している。2014年には142社だったが2015年は194社と、200社到達が目前に迫ってきた。

 2015年から統合報告に移行した企業のリストを見ると、日本を代表する金融グループである三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループのほか、キリンホールディングスやアサヒグループホールディングスという飲料業界のリーディングカンパニーなど、有力企業が目に付く。また、数年ぶりに積極的なIR活動を再開した丸井、従来からアニュアルレポートが高く評価されていたカプコンなど業種も幅広く、統合報告を採用する企業の裾野が大きく広がった印象がある。ちなみに、統合報告の媒体のタイトルを「アニュアルレポート」から「統合レポート」に変更した企業は2014年は45社、2015年は71社だった。

 統合報告の国際的なフレームワークである国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council=IIRC)の「国際統合報告フレームワーク」を活用する事例も増えてきている。同フレームワークでは、統合報告を「企業がどのように持続的な成長を実現しようとしているのかについて報告するもの」と定義する。具体的には、経営者が、ビジネスの様々な問題にどのように対処するのか、自社の将来性をどのように描くのか、中長期的な経営戦略をどのように描くのか、なぜその戦略を取るのか、バリュードライバーは何か、経営目標の達成度合いはどうか、長期にわたりどのように企業価値を作り出そうとしているのか―――といった内容を報告するものとしている。オムロンやカイオム・バイオサイエンスは同フレームワークへの準拠(同フレームワークの準拠に必要な要求項目を満たしていること)を表明している企業として知られるが、同フレームワークを参照(準拠するには至らないが、参考にしていること)した企業数は、2014年の45社から2015年は61社へと増えている。

国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council=IIRC) : 国際的に合意された統合報告のフレームワークを構築するため、2010年8月に設立された英国を拠点とする民間の非営利法人。規制当局、投資家、企業、会計の専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織である。また、IFAC(国際会計士連盟)、IASB(国際会計基準審議会)などとも協力関係にある。
バリュードライバー : 企業価値に影響を与える要素で、企業価値を評価する際に利用される。例えば、売上高伸び率、営業利益率、運転資本増減率、設備投資率、資本コストなどがバリュードライバーとして挙げられる。逆に言うと、これらをコントロールすることにより企業価値が向上することになる。

 既に統合報告を実施している企業においても、質の改善が進んでいる。例えば三井物産の統合報告では、ビジネスモデルの記述に進化が見られる。同社は2012年のアニュアルレポートから統合報告への挑戦を始め、2014年版で初めてビジネスモデルを図示した。2015年版ではさらにその図がブラッシュアップされており、企業価値創造プロセスの“可視化”に向けた努力が見てとれる。

 多くの業界でトップ企業が統合報告を採用しつつある中、これに続く企業が統合報告への移行を検討し始めている。統合報告を実施する企業が一定数まで増えていく可能性は十分にありそうだ。

2015/10/30 【役員会 Good&Bad発言集】マイナンバー制度への対応(会員限定)

<解説>
マイナンバーの利用開始までに必要な3つのこととは?

 「社会保障・税番号制度」とも呼ばれるマイナンバー制度は、公平・公正な社会の実現と国民の利便向上を目的として、国民一人ひとりに番号を割り振って、社会保障や納税に関する情報を一元的に管理する制度です。

 2013年5月に成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)に基づき、2016年1月より「社会保障」「税」「災害対策」の各分野の行政手続において、マイナンバーの利用がスタートします。それに先立ち、2015年10月から、日本に住民票を有するすべての個人に対して市区町村から住民票の住所に12桁の番号(マイナンバー=個人番号)が通知されることになっています。

 2016年1月以降は、企業における健康保険や厚生年金の手続、源泉徴収の手続、証券会社・保険会社における配当金や保険金等の法定調書の作成など(これらは「個人番号関係事務」と呼ばれます)において、企業(個人番号関係事務実施者)は従業員や顧客のマイナンバーを関係書類に記載する必要があります。

 そのため、企業においては、マイナンバー制度が始まるまでに、次の対応が必要であるとされています。
マイナンバーに対応した人事・給与などのシステム開発や改修
マイナンバーを適正に扱うための従業員研修や社内規程作り
マイナンバーを含む個人情報を安全に管理する措置の検討

個人情報とマイナンバーの取扱いはどう違う?

 氏名や住所などの個人情報とあわせてマイナンバーが漏洩した場合(住所・氏名などの「個人情報」にマイナンバーが加わると、その情報全体が「特定個人情報」と呼ばれます)、なりすましによる犯罪行為を誘発する恐れがあります。そこでマイナンバー法では、マイナンバー(および特定個人情報)について、個人情報よりも厳格な取扱いを定めています。

 個人情報とマイナンバーの取扱いの相違点は下表のとおりです。

個人情報 マイナンバー
規制の適用対象事業者 例外あり
※「事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって特定される個人の数の合計が、過去6か月以内のいずれの日においても5,000を超えない者」は適用対象外
取扱事業者すべて
利用範囲 本人が同意した範囲で利用可 たとえ本人が同意しても、社会保障・税(・災害対策)関係業務以外での利用不可
取得の条件 利用目的などの明示・同意 利用目的などの明示(行政手続きに利用するため、同意は不要)、本人確認(身元確認+番号確認)
利用目的の設定 可(本人同意の範囲内) 不可
利用目的の変更 可(条件付) 不可
第三者提供 可(条件付) 不可(行政手続きでの利用など法定目的のみ可)
共同利用 可(条件付) 不可
委託 可(再委託は委託元の許諾が条件)
委託先管理 委託元に監督義務 委託元に監督義務
保管・廃棄 (要件なし) 法定期間安全管理し、完全に廃棄・削除
従業員に対しても本人確認は必要?

 このように厳格な取扱いが求められるマイナンバーの提供を(企業が)求めることができるのは、「社会保障」および「税」に関する手続書類の作成事務を行なう必要がある場合のみです。

 マイナンバーの提供を求める相手は従業員に限られません。例えば「個人」の取引先に対し講演料や不動産賃料を支払う場合にも、マイナンバーを取得する必要があります。

 提供を求める時期は、原則として「個人番号関係事務が発生した時点」ですが、例えば契約締結時点など「当該事務の発生が予想できた時点」で提供を求めることもできると解されています。

 マイナンバーの取得時に必要なのが、なりすましを防止するための「本人確認」です。マイナンバーの提供を受ける際には、「番号確認+身元確認」を実施する必要があります。「個人番号カード」の提示を受ければ「番号確認+身元確認」が同時にできますが、免許証だけだと「身元確認」はできても番号確認はできませんので、平成27年10月中旬以降に個人への郵送が始まっている「通知カード(個人番号が記載されている)」による「番号確認」をセットで行う必要があります(マイナンバー法で定められた本人確認の方法はこちら)。もっとも、雇用関係があるなどにより「本人」に相違ないことが明らかな場合には、身元確認の省略が認められます。

 また、マイナンバーを取得する際には、本人に利用目的を明示することが求められます。これは、雇用関係のある従業員に対しても同様です。ただし、たとえ本人が同意したとしても、マイナンバー法が認める利用目的(社会保障、税、災害対策の手続きに必要な場合など)以外の目的でマイナンバーの提供を求めたり、特定個人情報(マイナンバーをその内容に含む個人情報)の提供・収集をしたりしてはならないことになっているので要注意です。

利用範囲を超えたマイナンバーの利用ができないシステム設計を

 上述のとおり、企業がマイナンバーを利用できるのは、社会保障および税に関する手続書類に従業員等のマイナンバーを記載し、行政機関や健康保険組合等に提出する場合です。これ以外では、①金融機関が激甚災害時等に金銭を支払う場合、②人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合――における利用のみが例外的に認められています。

 そこで企業には、これら法定の利用範囲を超えたマイナンバーの利用防止など、マイナンバーや特定個人情報を適切に管理するための「安全管理措置」を実施することが求められています(内閣府外局の第三者機関「特定個人情報保護委員会」が作成した「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」の47ページ~「( 別 添 )特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」参照)。

 安全管理措置には、マイナンバーや特定個人情報を扱う社員を制限するなどの「組織的安全管理措置」、事務取扱担当者の監督や教育などの「人的安全管理措置」、ICカードによる入退室の管理や壁・間仕切りの設置などの「物理的安全管理措置」、個人データ及びそれを取り扱う情報システムへのアクセス制御などの「技術的安全管理措置」の4つがあります。マイナンバー制度の開始に備えシステム対応を進めている企業も多いと思いますが、安全管理措置(技術的安全管理措置)の観点からは、法定の利用範囲を超えてマイナンバーを利用できないように既存システム同士の連携を制限することも必要になります。

 なかには、マイナンバー関係の事務を外部の業者に委託する企業もあると思いますが、その場合でも、本来自社が実施すべき安全管理措置と同様の措置が委託先においても講じられるよう、委託先を「監督」しなければなりません。マイナンバー関係の事務は、委託元(自社)の許諾があれば再委託、再々委託することができますが、この場合も、自社は、委託先のみならず、再委託先・再々委託先に対しても間接的に監督義務(「委託先が、再委託先、再々委託先を適切に監督しているかどうか」を監督する義務)を負うことになります。

 例えば従業員が退職した場合など、マイナンバー関係の事務処理をする必要がなくなった場合には、マイナンバーをできる限り速やかに廃棄または削除しなければなりません。ただし、個人番号が記載された書類の中には、所管法令(税法や労働法など)によって一定期間保存が義務付けられているものがあります。これらの書類は所管法令に定められた期間保存する必要があるので、そこに記載されたマイナンバーも同じ期間保存されることになります(すなわち、保存義務期間経過後に廃棄または削除)。

マイナンバーのような制約のない「法人番号」

 ここまでマイナンバーに関する様々な規制について見てきましたが、マイナンバーとはあくまで「個人番号」を指します。「マイナンバー」ではないものの、マイナンバー制度の導入により国税庁が2015年10月から法人に対して配布を開始したのが「法人番号」です。法人番号は13桁の番号で、登記上の所在地に通知されます。

 マイナンバー(個人番号)とは異なり、法人番号は誰でも自由に利用できることになっていますので、秘密保持や利用に関して特段の措置を講じる必要はありません。

以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGood発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

情報システム担当C取締役:「人事部門、経理部門の主導でマイナンバー制度への対応が円滑に進みそうですね。情報システム部門としては、従業員から取得したマイナンバーを「社会保障」や「税」などの事務ごとに既存システムで管理できるよう、既存システムを一部改修したいと思います。マイナンバーを管理・収集するための新たなシステムは構築しません。それと、法人に対して付与される法人番号を「取引先管理用ID」として活用できるようにシステムの見直しを検討したいと思います。」
コメント:「マイナンバーを管理・収集するための新たなシステムは構築しない」との発言は、情報システム担当取締役として一見消極的な印象を受けますが、安全管理措置の観点からは、マイナンバーが法定の利用範囲を超えて利用できないように既存システムとの連携を制御するなどの措置をとる必要があるとされており、この趣旨を十分に理解しての発言と言えます。また、法人番号についても制度の内容をよく理解できていますので、適切なGOOD発言です。

BAD発言はこちら
人事担当A取締役:「給与所得の源泉徴収票の作成や社会保険料の支払手続などでマイナンバーが必要になりますので、従業員からのマイナンバーの取得は人事部門が担当します。マイナンバーの取得の際には利用目的の明示や本人確認が必要とされていますが、従業員は会社と雇用関係がありますので、これらの手続を省略して効率的に進めます。」
コメント:人事部門の職責を認識したうえでの発言ではありますが、マイナンバー法では、マイナンバーを取得する際には、本人に利用目的を明示するとともに、他人へのなりすましを防止するために厳格な本人確認が必要とされています。雇用関係にあることなどから「本人に相違ない」ことが明らかに判断できる場合には身元確認を省略することが認められていますが、利用目的の明示は雇用関係のある従業員に対しても行わなければなりません。マイナンバー法の詳細の理解が不十分なBAD発言です。
経理担当B取締役:「個人の取引先に講演料や不動産賃料などを支払う場合にも、マイナンバーを取得する必要があります。したがって、取引先関係のマイナンバー対応は経理部門が担当することとし、まずはマイナンバーの収集が必要な取引先の洗い出しから始めます。そしてこれを機に、取引先から取得したマイナンバーを『取引先管理用ID』として活用したいと思います。」
コメント:「・・・取引先の洗い出しから始める」までは、経理担当取締役として適切な発言です。しかしながら、個人の取引先から取得するマイナンバーは、法定の利用範囲を超えて利用することは認められませんので、取引先管理IDとして活用することもできません。一方、法人ごとに付与される法人番号はマイナンバーと異なり、誰でも自由に利用できます。後段の「これを機に取引先から取得したマイナンバーを『取引先管理用ID』として活用したいと思います。」との発言は、マイナンバー(個人番号)と法人番号を混同したBAD発言です。

2015/10/30 【役員会 Good&Bad発言集】マイナンバー制度への対応

 X社では、人事担当取締役、経理担当取締役、情報システム担当取締役らが中心となり、従業員や取引先から提出してもらうマイナンバーの収集方法や提出されたマイナンバーの取扱方法などマイナンバー制度への対応を検討する会議が開かれている。

 会議の冒頭、X社マイナンバー推進事務局から挨拶があった。

「本日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。新聞報道等でご存知かと思いますが、2016年1月から社会保障・税・災害対策の行政手続において、マイナンバーの利用がスタートします。それに先立ち、2015年10月より市町村からが住民票の住所にマイナンバーの通知が始まっており、当社としても従業員等からマイナンバーを収集する必要が生じています。そこで本日の会議では当社としての『マイナンバーの取り扱いについての考え方』をとりまとめ、今後はその内容に従ってマイナンバー対応を進めてまいりたいと考えています。」

 この会議において、出席取締役間で次のような発言が交わされました。次のAからCの発言のうち、どの発言がGood発言でしょうか?

人事担当A取締役:「給与所得の源泉徴収票の作成や社会保険料の支払手続などでマイナンバーが必要になりますので、従業員からのマイナンバーの取得は人事部門が担当します。マイナンバーの取得の際には利用目的の明示や本人確認が必要とされていますが、従業員は会社と雇用関係がありますので、これらの手続を省略して効率的に進めます。」

経理担当B取締役:「個人の取引先に講演料や不動産賃料などを支払う場合にも、マイナンバーを取得する必要があります。したがって、取引先関係のマイナンバー対応は経理部門が担当することとし、まずはマイナンバーの収集が必要な取引先の洗い出しから始めます。そしてこれを機に、取引先から取得したマイナンバーを「取引先管理用ID」として活用したいと思います。」

情報システム担当C取締役:「人事部門、経理部門の主導でマイナンバー制度への対応が円滑に進みそうですね。情報システム部門としては、従業員から取得したマイナンバーを「社会保障」や「税」などの事務ごとに既存システムで管理できるよう、既存システムを一部改修したいと思います。マイナンバーを管理・収集するための新たなシステムは構築しません。それと、法人に対して付与される法人番号を『取引先管理用ID』として活用できるようにシステムの見直しを検討したいと思います。」

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

解説と正解はこちらをクリック
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/10/29 【経営上のリスク】追徴課税を受けた

 

利益の30%に相当するキャッシュを売上の増加によって稼ぎ出す難しさ

税金は、企業のキャッシュフローに直接影響します。もちろん違法に税負担を減少させることは許されませんが、自社の税負担に関心を持ち、合法とされる範囲内で税負担を抑えることは、経営陣の責務の1つと言えるでしょう。

実際、全世界を市場とする多国籍企業は、各国の税制・税率の違いに着目した税務マネジメント(節税策)を検討・実施しており、その結果、多国籍企業に課される法人税の実効税率はかなり低くなっているケースが少なくありません。例えば軽課税国に本社を移すという動きも一部に見受けられますが、これも合法的な節税策ということになります。

日本の法人実効税率は30%程度となっていますが、欧米の多国籍企業の中には、“タックス・ロイヤー”と呼ばれる税務に精通した弁護士を社員として雇い、高度な税務マネジメントを実施することにより、法人実効税率が10%以下となっている例も見受けられます。多国籍企業の利益は莫大なだけに、その節税額も巨額に上ることになります。

法人実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。

一方、日本企業は、税負担の軽減を図る税務マネジメントにあまり積極的でないことが多いようです。これは、国税当局から追徴課税を受けたり、“所得隠し”などと報道されたりすることを恐れるからでしょう。しかし、利益のおよそ30%に相当するキャッシュを売上の増加によって稼ぎ出し、手元に残すためにはどれほどの営業努力が必要になるのかということを考えてみれば、節税の重要性がよく分かるはずです。また、実効税率(約30%)どおりに税金を負担して利益の70%を株主の持分として残す経営者と、税務マネジメントにより利益の80%を株主の持分として残す経営者では、投資家は後者を評価します。投資家が重視するROEの分子は「税引後」利益であり、実効税率を抑えることができれば、その分ROEも向上することになります。

追徴課税 : 申告漏れや脱税などの理由により、会社が本来納めるべき税金の全部または一部を納めていなかったことが税務調査などにより発覚した場合に、追加で課税を受けること
ROE : 株主資本利益率(Return On Equity)=当期純利益/自己資本

確かに、多国籍企業の“低すぎる実効税率”が各国で問題視されてきたのも事実であり、こうした動きを封じるため、各国が協調して多国籍企業による租税回避を防止するための国際ルールを作る「BEPS(税源浸食と利益移転=Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト」が経済協力開発機構(OECD)により進められ、2015年10月5日には同機構から最終報告書が出されています(この報告書を踏まえ、各国が数年かけて税制改正を実施)。日本や米国など実効税率の高い国ほどBEPSプロジェクトへの期待は大きく、実際、BEPSプロジェクトの責任者は日本の財務省から出ていたほどです。

多国籍企業に向けられた批判を考えると、日本企業の納税意識の高さは称賛されるべきものです。とはいえ、株主持分の最大化が経営者の責務であり、その株主持分に転化する利益はあくまで「税引後利益」であることや、特に多国籍企業の税務マネジメントを見慣れている海外の投資家は日本企業の実効税率の高さに不満を示す可能性があることを踏まえれば、日本企業の経営陣は、「税務マネジメント」を重要な経営課題の1つとして位置づける必要があります。

節税のつもりが、税務当局から「租税回避」と認定される恐れも

税金は「対価性(見返り、反対給付)」が乏しいため、税務マネジメントに取り組む際には「税負担をできるだけ軽減したい」という思いに駆られるものですが、やりすぎれば「租税回避」、場合によっては「脱税」として、金銭面のみならず、社会的信用の面でも手痛い制裁を受けることになります。脱税ということになれば、刑事罰が科されます。

「節税」「租税回避」「脱税」の違いは下記のとおりです。・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

租税回避と認定されないためにやるべきこと

では、「租税回避」と認定されないためにはどうすればよいのでしょうか?

税務当局による課税処分は、通常、・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

事前照会のリスク

事前検討・対策の1つとして、税務当局の事前照会制度を活用する企業もあります。特に大企業では、課税を受けた場合の金額が大きく、解釈に疑義のある事案については事前照会を行うことが半ば社内ルール化しているところもあるようです(事前照会には、文書回答を求める事前照会「再建支援等」「特定調停」「企業組織再編成」の事前相談「連結納税」の事前相談などがあります)。ただし、事前照会の段階では把握されていなかった“新たな事実”が税務調査によって把握された場合には、事前照会の回答が覆されることがあり得るので要注意です(稀ではありますが、実例が存在します)。

また、税務当局は事前照会に対しては・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

追徴課税を受けてしまったら

企業としては上述のようなベストの対策をとったとしても、税務当局から課税処分を受けてしまうこともあります。いわゆる追徴課税といわれるものです。追徴課税の他、以下の税も課される恐れがあります。・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

追徴課税を受けた場合の適時開示は金額次第

上場会社であれば、追徴課税で税額が数億円、数十億円にのぼるケースはザラであり、なかには数百億円にも及ぶケースも見られます。追徴課税は、程度の差はあれ、業績はもちろん、キャッシュ・フローにもかなり大きな影響を与えることになります。

となると、当然、投資家にも追徴課税に関する情報を知らせるべきだと考えられますが、この点、東京証券取引所の規則(「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則」および「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則の取扱い」)では、追徴課税を受けた場合に適時開示が必要かどうかは明示されていません。しかしながら、・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

追徴課税を受けた場合の財務諸表への影響

では、追徴課税を受けた場合、財務諸表にどのような影響があるのでしょうか。

これは、その原因が「過去の誤謬」にあるかどうかによって変わってきます。

過去の誤謬とは、・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

臨時報告書の提出の検討も不可欠

上場会社は、その会社または連結子会社の財政状態または経営成績に重要な影響を与える事象の発生があった場合には、臨時報告書を提出する義務があります。

臨時報告書の提出事由の詳細については、企業内容等の開示に関する内閣府令に定められていますが、追徴課税が課せられた場合については明記されていません。

したがって、会社が追徴課税を受けたとしても、当然には臨時報告書の提出は必要ではありません。

しかしながら、・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

チェックリスト チェックリストはこちら(会員限定)

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから
本ケーススタディを最後まで閲覧した方は、知識の定着度を確認するため、下の右側のボタンを押してミニテストを受けてください(ミニテストを受けない限り、本ケーススタディの閲覧履歴は記録されません)。
また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。

感想の登録    ミニテスト受講

2015/10/29 チェックリスト:追徴課税を受けた(会員限定)

罫線が印刷されない場合はこちら

■チェックリスト:追徴課税を受けた

チェック事項 備考 対応未了 対応済
自社の実効税率を意識しているか。 株主持分に転化する利益はあくまで「税引後利益」であるため、特に多国籍企業の税務マネジメントを見慣れている海外の投資家は実効税率への関心が高い。
節税と租税回避の境界線を意識しているか。 税務当局と企業の“見解の相違”により、企業としては「節税」だと思っていたものが税務当局により「租税回避」と認定され、追徴課税を受けることは珍しくない。実効税率の低減に努めつつも、租税回避と認定されることは避けたい。
租税回避との認定を受けないよう、「事前検討・対策」を行っているか。 事前検討・対策においては、「節税」と「租税回避」の境界線を熟知している税理士や弁護士に判断や指導を仰ぐことも視野に入れる。
節税策に関する安易なメールのやり取りを行っていないか。 調査官に不要な詮索をされないようにするためにも避けるべき。仮にメールを削除したことが発覚すれば、「仮装・隠ぺい」として重加算税が課されたり、青色申告が取り消されたりする恐れがある。
税務調査が入った場合、現在の顧問税理士や顧問弁護士で十分な対応が可能か検討したか。 租税回避と認定される懸念があり、現在の顧問税理士や顧問弁護士がそのような事例に対応した経験が浅い場合には、外部の有能で経験豊富な税理士や弁護士に助言を求めることも検討する。
税務当局への事前照会を検討したか。 影響額が大きく、解釈に疑義のある事案については事前照会を行うことをルール化している企業もある。ただし、事前照会を行ったことにより、ビジネス・スキームを断念せざるを得なくなったり、事前照会の回答に縛られ、ビジネス・スキームの手直しができなくなったりすることがある点には注意。
組織再編、資本等取引、国際取引に関する事案について税務処理に疑義や不安がある場合には、できるだけ早い段階で、信頼のおける税理士や弁護士に意見を求めるようにしているか。 優秀な専門家と言えども、税務調査で指摘を受けてからではできることは限られているため、早期の相談が有効。課税処分を受け、当該課税処分の取消しを求めて争う場合には、法令解釈能力の高い税理士・弁護士を選ぶことが重要。
追徴課税を受けた場合、適時開示の要否を検討したか? 上場している取引所に相談することも有用である。
追徴課税分の損益計算書の表示について検討したか? 「法人税等追徴税額」として別掲するか、「金額的重要性」が乏しいとして「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示するか。
追徴課税は過去の誤謬に該当するか? 過去の誤謬に該当すれば「重要性が乏しい場合」を除き、遡及処理(過去の財務諸表を修正したうえで、有価証券報告書を提出している会社であれば財務諸表をすべて遡って修正すること)が必要になる。
追徴課税を受けたことが、臨時報告書提出の要件である「会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象」に該当するかどうかの検討を行ったか。 追徴課税を受けたことが、次のすべての要件を満たした場合は、臨時報告書の提出が必要となる。
・重要な後発事象に相当する事象であること
・当該事象の損益に与える影響額が、前事業年度の末日における純資産額の3%以上であること
・最近5事業年度における当期純利益の平均額の20%以上に相当する額になること

ケーススタディ役員実務「追徴課税を受けた(会員限定)」はこちら

2015/10/29 【経営上のリスク】追徴課税を受けた(会員限定)

 

利益の30%に相当するキャッシュを売上の増加によって稼ぎ出す難しさ

税金は、企業のキャッシュフローに直接影響します。もちろん違法に税負担を減少させることは許されませんが、自社の税負担に関心を持ち、合法とされる範囲内で税負担を抑えることは、経営陣の責務の1つと言えるでしょう。

実際、全世界を市場とする多国籍企業は、各国の税制・税率の違いに着目した税務マネジメント(節税策)を検討・実施しており、その結果、多国籍企業に課される法人税の実効税率はかなり低くなっているケースが少なくありません。例えば軽課税国に本社を移すという動きも一部に見受けられますが、これも合法的な節税策ということになります。

日本の法人実効税率は30%程度となっていますが、欧米の多国籍企業の中には、“タックス・ロイヤー”と呼ばれる税務に精通した弁護士を社員として雇い、高度な税務マネジメントを実施することにより、法人実効税率が10%以下となっている例も見受けられます。多国籍企業の利益は莫大なだけに、その節税額も巨額に上ることになります。

法人実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。

一方、日本企業は、税負担の軽減を図る税務マネジメントにあまり積極的でないことが多いようです。これは、国税当局から追徴課税を受けたり、“所得隠し”などと報道されたりすることを恐れるからでしょう。しかし、利益のおよそ30%に相当するキャッシュを売上の増加によって稼ぎ出し、手元に残すためにはどれほどの営業努力が必要になるのかということを考えてみれば、節税の重要性がよく分かるはずです。また、実効税率(約30%)どおりに税金を負担して利益の70%を株主の持分として残す経営者と、税務マネジメントにより利益の80%を株主の持分として残す経営者では、投資家は後者を評価します。投資家が重視するROEの分子は「税引後」利益であり、実効税率を抑えることができれば、その分ROEも向上することになります。

追徴課税 : 申告漏れや脱税などの理由により、会社が本来納めるべき税金の全部または一部を納めていなかったことが税務調査などにより発覚した場合に、追加で課税を受けること
ROE : 株主資本利益率(Return On Equity)=当期純利益/自己資本

確かに、多国籍企業の“低すぎる実効税率”が各国で問題視されてきたのも事実であり、こうした動きを封じるため、各国が協調して多国籍企業による租税回避を防止するための国際ルールを作る「BEPS(税源浸食と利益移転=Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト」が経済協力開発機構(OECD)により進められ、2015年10月5日には同機構から最終報告書が出されています(この報告書を踏まえ、各国が数年かけて税制改正を実施)。日本や米国など実効税率の高い国ほどBEPSプロジェクトへの期待は大きく、実際、BEPSプロジェクトの責任者は日本の財務省から出ていたほどです。

多国籍企業に向けられた批判を考えると、日本企業の納税意識の高さは称賛されるべきものです。とはいえ、株主持分の最大化が経営者の責務であり、その株主持分に転化する利益はあくまで「税引後利益」であることや、特に多国籍企業の税務マネジメントを見慣れている海外の投資家は日本企業の実効税率の高さに不満を示す可能性があることを踏まえれば、日本企業の経営陣は、「税務マネジメント」を重要な経営課題の1つとして位置付ける必要があります。

節税のつもりが、税務当局から「租税回避」と認定される恐れも

税金は「対価性(見返り、反対給付)」が乏しいため、税務マネジメントに取り組む際には「税負担をできるだけ軽減したい」という思いに駆られるものですが、やりすぎれば「租税回避」、場合によっては「脱税」として、金銭面のみならず、社会的信用の面でも手痛い制裁を受けることになります。脱税ということになれば、刑事罰が科されます。

「節税」「租税回避」「脱税」の違いは下記のとおりです。

節税 税法が予定する範囲内(合法とされる範囲内)で税負担を軽減させるもの
租税回避 法形式上は節税と同様「合法」だが、実質的には不当に税負担を減少させていると認められるもの
脱税 偽りその他不正の行為によって税負担を免れるもの

このように「節税」「租税回避」「脱税」は一応区別が可能ですが、実際にはその境界線は明確でないことが少なくありません。特に「節税」と「租税回避」の区別は難しく、国税当局と企業の“見解の相違”により、企業としては「節税」だと思っていたものが税務当局により「租税回避」と認定されることが珍しくないので要注意です。

税務当局に租税回避と認定されれば、追徴課税を受けることになります。追徴課税額には、税務調査などにより判明した「本来納めるべき税額」との差額(以下、「増差税額」)に加え、「過少申告加算税」と「延滞税」が課されることになります(後述の「追徴課税を受けてしまったら」を参照)。過少申告加算税は増差税額に対して10%または(増差税額が、当初納めた税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分に対しては)15%を乗じた金額、延滞税はその時の金利水準によって変動しますが、増差税額に対して「本来の納付期限~2か月」までは約3%、「2か月経過後」は約9%を乗じた金額となっています。

租税回避より悪質性が高いのが脱税ですが、やはり租税回避と脱税の境界線も曖昧であることが少なくありません。「脱税」とされれば、追徴課税が行われるだけでなく、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方の併科という刑事罰も科されることになります。

上場企業による租税回避や脱税となればマスコミにも大きく報道され、社会的な非難を受けるとともに、企業イメージが著しく毀損します。上場企業が意図的に脱税を図るケースは稀だと思いますが、上述のとおり、「節税」を行ったつもりが、税務当局との見解の相違により「租税回避」と認定されるケースは少なくありません。税務マネジメント(節税)は重要な経営課題の1つではありますが、税務当局から租税回避と認定されることは何としても避けなければなりません。

租税回避と認定されないためにやるべきこと

では、「租税回避」と認定されないためにはどうすればよいのでしょうか?

税務当局による課税処分は、通常、税務調査を経てから行われます。このため、税務調査を念頭に置き、租税回避と認定されないよう対策を講じる必要があります。

一口に「節税」「租税回避」と言ってもその内容は多様であること、そして、税務調査を行う調査官の力量によって結果が大きく左右されることから、とるべき対策も一律ではありませんが、必ず必要になるのが「事前検討・対策」です。税務当局から租税回避と認定されたケースの多くがこの事前検討・対策の不足によるものであり、逆に言うと、入念な事前検討・対策は税務調査の結果を大きく左右することになります。

通常、調査官は「租税回避の疑いがある」と考えた場合、まず企業が行った行為の「目的」を探ろうとします。要するに、「税金を少なくする目的でその行為を行ったのではないか?」という疑いの目で調査をすることになるわけです。その端緒をつかむためには、パソコン上のメールはもちろん、サーバーまで調べられることが珍しくありません。パソコン上でメールを削除しても、復元されたり、サーバーに残っていたメールやCCまたはBCCで送付されたメールを調査官に把握されたりすることもよくあります。

事前検討・対策では、調査官に徹底的な調査を受けたとしても「租税回避」と認定されないだけの理論武装、証拠(稟議書、議事録など)の準備・整理などが求められます。調査官に不要な詮索をされないようにするためにも、節税策に関する安易なメールのやり取りも避けるべきでしょう。仮にメールを削除したことが発覚すれば、「仮装・隠ぺい」として、上記過少申告加算税に代わって重加算税(追徴税額×35%)というペナルティ的な課税が行われることになります(後述の「追徴課税を受けてしまったら」を参照)。また、租税回避と認定されることや重加算税を課されることを免れるため、書類を隠す・嘘をつくなどの対応をとれば、青色申告を取り消されて税の恩典を失ってしまうという大きな代償を支払うことにもなりかねません。書類を隠したり嘘を言ったりしなくても済むようにするためにも、事前検討・対策が重要になります。

青色申告 : 日々の取引を記録した一定の帳簿書類の備え付けと保存を義務付ける代わりに、法人税の計算上、欠損金の繰越控除をはじめとする特典を認める制度。青色申告では文字通り申告書の表紙(別表1)に青紙を使用することから、こう呼ばれる(⇔白色申告)。

もっとも、適切な事前対策・検討を行うためには、「節税」と「租税回避」の境界を熟知していることが大前提となります。これを知らなければ、そもそも事前検討を行う意味がありません。どこまでが「節税」として税務当局から容認され「租税回避」と認定されずに済むのかということは、社内の税務担当者だけでは判断できないことが少なくありません。租税回避と認定された場合の影響の大きさを勘案しながら、必要に応じて、信頼のおける外部の税理士や弁護士に判断や指導を仰ぐことも視野に入れるべきでしょう。

不幸にして、事前検討・対策が適切に行われていなかったり、十分ではなかったりした場合には、「税務調査時対策」に全力を尽くすしか残された道はありません。ただ、税務調査では、何が問題となっているのかということと、調査官の調査能力や調査経験、税務当局内の検討状況や検討段階などにより対応策が異なってきます。もちろん、納税者である企業側の事情によっても対応策は変わってきます。このように、極めて柔軟かつ高度な対応が求められる税務調査時対策の成否は経験が大きくモノを言います。特に租税回避と認定される懸念がある場合には、有能で経験豊富な税理士や弁護士に助言を求めることが必須となります。もし現在の顧問税理士や顧問弁護士がそのような事例に対応した経験が浅いということであれば、別の人を招聘することも検討すべきでしょう。

事前照会のリスク

事前検討・対策の1つとして、税務当局の事前照会制度を活用する企業もあります。特に大企業では、課税を受けた場合の金額が大きく、解釈に疑義のある事案については事前照会を行うことが半ば社内ルール化しているところもあるようです(事前照会には、文書回答を求める事前照会「再建支援等」「特定調停」「企業組織再編成」の事前相談「連結納税」の事前相談などがあります)。ただし、事前照会の段階では把握されていなかった“新たな事実”が税務調査によって把握された場合には、事前照会の回答が覆されることがあり得るので要注意です(稀ではありますが、実例が存在します)。

また、税務当局は事前照会に対しては慎重な姿勢で臨まざるを得ないため、その分、どうしても “保守的”な回答が出やすくなります。税法の解釈が微妙なビジネス・スキームについて、仮に事前照会で「×(=実行すれば課税する)」との回答が出た場合、企業は当該スキームをあきらめざるを得なくなります。逆に、事前照会で「〇(=実行しても課税しない)」という回答をもらった場合には、企業の行動はその回答に縛られることになります。ビジネス・スキームはちょっとした状況の変化で手直しが必要になることが珍しくありませんが、事前照会で「〇」という回答をもらった後でビジネス・スキームを変更すれば、まさに上述した「事前照会の段階では把握されていなかった“新たな事実”」が生じたことになり、一転して課税を受けてしまう恐れがあります。これらの点を踏まえれば、あえて事前照会は行わず、上述した「事前検討・対策」を徹底したうえでビジネス・スキームを実行し、税務調査に備えるということも経営判断としてはあり得るでしょう。

追徴課税を受けてしまったら

企業としては上述のようなベストの対策をとったとしても、税務当局から課税処分(追徴課税)を受けてしまうこともあります。追徴課税では増差税額に加えて、状況に応じて以下の税も課されることになります。

延滞税 税金が定められた期限までに納付されない場合には、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息(その時の利息水準によって変動しますが、近年は「本来の納付期限~2か月」までは約3%、「2か月経過後」は約9%を乗じた金額となっています)に相当する延滞税が自動的に課されます。例えば、次のような場合です。
(1) 申告などで確定した税額を法定納期限までに完納しないとき。
(2) 期限後申告書または修正申告書を提出した場合で、納付しなければならない税額があるとき。
(3) 更正または決定の処分を受けた場合で、納付しなければならない税額があるとき。
利子税 延納、物納または申告書の提出期限の延長を利用した場合に課税される附帯税になります。税額(1,000円未満不徴収)は、その延長された日数に応じて日割計算され、その利率は、年1.8%(平成28年)になります。
過少申告加算税 期限内に確定申告書を提出した場合で、修正申告書の提出(税務調査による更正を予知した場合)または更正により生じた税額に対して課税される附帯税になります。税額(5,000円未満不徴収)は、追加された本税の10%(但し、期限内確定申告額または50万円のいずれか多い金額を超える部分については15%)になります。
無申告加算税 正当な理由なく期限内に申告書が未提出の場合で、期限後の申告や決定通知により納付すべき本税があった場合に課税される附帯税になります。無申告加算税の税率は、税務調査を受ける前の自主申告であれば納付すべき本税の額の5%、そうでなければ納付すべき本税の額の15%(ただし、納付すべき本税の額が50万円を超える部分については20%)になります。
重加算税 過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税が課税される場合で、仮装・隠ぺいに基づき申告している場合に、過少申告加算税等に代えて課税される附帯税になります。税額は、追加された本税の35%になります。

こういった課税処分に対して不服があれば、その課税処分の取消しを求めて争うことになります。

納税者はまず税務当局に対して「異議申立て」を行い(課税処分から2か月以内)、その異議申立てに対する「異議決定」になお不服がある場合には国税不服審判所に「審査請求」を行います(異議決定から1か月以内)。さらに、その審査請求に対する「裁決」に不服がある場合には「税務訴訟」を提起する(裁決から6か月以内)というのが基本的なルールです。

審査請求までは「納税者のみ」か「納税者と税理士」で対応することが多くなっていますが、訴訟になれば弁護士を入れるケースがほとんどです。

税務訴訟では法令解釈の如何が勝敗を決するケースが非常に多いため、訴訟をすると決めたのであれば、法令解釈能力の高い税理士・弁護士を選ぶことは必須となります。

特に注意したいのが、組織再編(合併・分割・現物出資など)、資本等取引(増資・減資など)、国際取引(移転価格税制タックスヘイブン対策税制など)に関する事案です。これらの税制は非常に難解で、しかも、課税処分を受けると、追徴税額が数十億、数百億円と巨額な金額になることが珍しくありません。このため、これらの税制に関する税務処理に疑義や不安がある場合には、できるだけ早い段階で、信頼のおける税理士や弁護士に意見を求めることが重要です。優秀な専門家と言えども、税務調査で指摘を受けてからではできることは限られています。経営陣は、税務上リスクのある経営判断を下す場合には、「事前検討・対策」が極めて重要であることを肝に銘じるようにしてください。

タックスヘイブン対策税制 : 税率の低い国(タックス・ヘイブン(Havenとは「避難所」の意味)=軽課税国) に設立した子会社に各種権利の使用料などを支払ったりすることにより、日本の親会社の課税所得を圧縮するとともに、(日本の親会社の)利益を軽課税国の子会社に留保することを防ぐため、軽課税国にある子会社の所得金額を日本の親会社の所得とみなし、これを日本の親会社の所得に合算して課税する仕組み。ただし、子会社がペーパーカンパニーでなく、事業を行うために必要な事務所や店舗を有している場合など一定の要件を満たす場合には、適用されない。
移転価格税制 : 日本企業が、日本より税率の低い海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定することで、日本企業に生じるはずの利益を海外関連企業に移転させ、日本企業およびグループ全体の税負担を軽減することが可能になる(例えば、日本企業が税率の低い国にある海外の販売子会社に、通常よりも低い金額で商品を卸すなど)。このような税逃れを防止するため、海外の関連企業との取引が「通常の取引価格(独立企業間価格)」で行われたものとみなして課税を行う制度が移転価格税制である。

追徴課税を受けた場合の適時開示は金額次第

上場会社であれば、追徴課税で税額が数億円、数十億円にのぼるケースはザラであり、なかには数百億円にも及ぶケースも見られます。追徴課税は、程度の差はあれ、業績はもちろん、キャッシュ・フローにもかなり大きな影響を与えることになります。

となると、当然、投資家にも追徴課税に関する情報を知らせるべきだと考えられますが、この点、東京証券取引所の規則(「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則」および「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則の取扱い」)では、追徴課税を受けた場合に適時開示が必要かどうかは明示されていません。しかしながら、追徴課税を受けた事実が、適時開示が求められることとなる「投資判断に重要な影響を与える重要な会社情報」に該当する場合には、開示が必要です。

具体的には、追徴税額が財務諸表提出会社の財政状態および経営成績に著しい影響を与える場合(純資産額の100分の3以上かつ最近5事業年度における当期純利益の平均額の100分の20以上に相当する額になるような場合)に開示が必要になります。

特に移転価格税制(*1)や組織再編税制(*2)に関して追徴課税を受けた場合には追徴税額が巨額になる場合が多いため、適時開示を行っているケースが多くあります。

*1 法人がその国外関連者と行う取引の対価の額が、独立企業間価格と異なることにより課税所得が減少している場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなして(独立企業間価格に引き直して)、課税所得の計算を行うもの。
*2 会社が組織再編成を行ったときに移転した資産・負債は原則として時価で譲渡したものとして譲渡損益を計上しますが、この譲渡損益を繰り延べることを認める税制のこと。
追徴課税を受けた場合の財務諸表への影響

では、追徴課税を受けた場合、財務諸表にどのような影響があるのでしょうか。

これは、その原因が「過去の誤謬」にあるかどうかによって変わってきます。

過去の誤謬とは、例えば、比較的単純な法令の見落とし、法令の適用誤り、法令の解釈上の誤りなどです。有価証券報告書を提出している会社でこうしたケースがあれば、「重要性が乏しい場合」を除き「遡及処理」、つまり過去の財務諸表を遡って修正することが必要になります(「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」および「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」)。

ここでいう、「重要性」の判断にあたっては、「金額的重要性」のみならず「質的重要性」についても考慮する必要があります。「金額的重要性」の具体的な判断基準は、企業の個々の状況によって異なり得ると考えられますが、①損益への影響額または累積的影響額が重要であるかどうか、②損益の趨勢(すうせい)に重要な影響を与えているかどうか、③財務諸表項目への影響が重要であるかどうかにより判断されます。また、「質的重要性」は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質または誤謬が生じた原因などにより判断することとなります。

一方、追徴課税を受けた原因が過去の誤謬に該当しない場合とは、課税当局との見解の相違による場合を指します。この場合、損益計算書(下図参照)上、「法人税、住民税及び事業税」の次に「法人税等追徴税額」のようにその内容を示す名称を付した科目をもって記載します。ただし、上述した「金額的重要性」が乏しい場合には、「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することができます(監査・保証実務委員会報告第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」)。

損益計算書(一部抜粋)    (単位:百万円)
 税引前当期純利益       ×××
 法人税、住民税及び事業税   ×××
 法人税等追徴税額       ×××
 法人税等調整額        ×××
 法人税等合計         ×××
 当期純利益          ×××

ただし、「課税当局との見解の相違」と「誤謬」はその判断が微妙な場合もあります。例えば、インターネット検索大手ヤフーが企業買収による申告漏れを指摘され追徴課税を受けたような場合です。これはヤフーが赤字会社を企業買収してその損金を自社で使用した場合、課税当局は欠損金を使用することにより税務負担を減らす目的であったと主張し、会社側は企業戦略上必要な企業買収であると主張していました。「課税当局との見解の相違」の典型といえるのは、会社と課税当局のどちらの主張が正しいのか裁判で争われるようなケースです。この場合は明らかに誤謬には該当しませんので、上述した遡及処理は不要となります。

一方、会社が「見解の相違」と言っているだけでは不十分であり、それが実質的に「誤謬」であるのであれば、遡及処理が必要となります。「見解の相違」か「誤謬」かの判断が微妙な場合には、事前に監査法人に相談した方がよいでしょう。

臨時報告書の提出の検討も不可欠

上場会社は、その会社または連結子会社の財政状態または経営成績に重要な影響を与える事象の発生があった場合には、財務(支)局に臨時報告書を提出する義務があります。

臨時報告書の提出事由は、企業内容等の開示に関する内閣府令に定められていますが、追徴課税が課せられた場合については明記されていません。

したがって、会社が追徴課税を受けたとしても、当然には臨時報告書の提出は必要ではありません。

しかしながら、「会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象」が発生した場合には臨時報告書を提出することが必要となります(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項12号)。

この「会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象」とは、次の3つの要件のすべてを満たしていることが必要です。
・重要な後発事象(財務諸表等規則8条の4に規定するもので、注記が必要になるものを意味します)に相当する事象であること
・当該事象の損益に与える影響額が、前事業年度の末日における純資産額の3%以上であること
・最近5事業年度における当期純利益の平均額の20%以上に相当する額になること

したがって、会社が追徴課税を受けた場合には、以下の点を確認し、臨時報告書の提出の要否を検討します。

●重要な後発事象か否か。
●追徴課税の金額が、前事業年度末日の純資産額の3%以上か否か。
●追徴課税の金額が、過去5事業年度における当期純利益の平均値の20%以上か否か。

その結果、会社が追徴課税を受けたことを理由として臨時報告書の提出が必要となれば、次の事項を開示することになります。
・追徴課税を受けることとなった年月日
・追徴課税の内容
・追徴課税が会社の損益に与える影響額

この臨時報告書の提出期限ですが、「事実が生じたときから遅滞なく」と定められています(金融商品取引法24条の5第4項)。そこで、上記の3要件を満たす追徴課税を受けることが明らかとなった場合には、事前に臨時報告書のドラフトを作成しておき、課税処分を受けた後、遅滞なく提出することが必要となります。

チェックリスト チェックリストはこちら
本ケーススタディを最後まで閲覧した方は、知識の定着度を確認するため、下の右側のボタンを押してミニテストを受けてください(ミニテストを受けない限り、本ケーススタディの閲覧履歴は記録されません)。
また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。

感想の登録    ミニテスト受講