日本企業における業績予想の問題点
業績予想は企業と投資家の対話の“たたき台”となるものでもあり、機関投資家も高い関心を持っています。もっとも、機関投資家が興味を持っているのは、業績予想の数字そのものよりも、その「根拠」です。業績予想の根拠が曖昧なままだと、どうしても「業績の達成度」だけで株価が上下しがちになりますが、根拠が明確かつ不変であれば、株価も安定的に推移しやすくなります。
欧米企業の業績予想開示を見ると、可能な限り投資家の意識を「中長期」に向け、短期的な情報によって株価が乱高下することを避ける工夫がされています。これに対し、日本企業の業績予想は短期投資家のニーズに応えたものになりがちです。日本企業の業績開示における問題点を挙げれば、以下のとおりです。
(1)業績予想が細かすぎ、コミットできないはずの数字を目標として掲げているケースが多い。
(2)特に中期計画では、最終期にかけて業績が急伸する予想がしばしば見られ、その根拠が希薄。また、多少の期ズレにより容易に下方修正が起こり得る。
(3)製品情報をはじめとする細かなKPI情報を開示し過ぎており、競合へのノウハウ流出などの悪影響が懸念されるものもある。
機関投資家が求める情報とは?
では、機関投資家が必要としているのは具体的にどのような情報なのでしょうか。「中期」と「短期」に分けて見ていきましょう。
まず中期については、機関投資家は、「中期的なビジネス環境」とそれを踏まえて企業がとろうと考えている「戦略」を共有したいと考えています。具体的には、「大まかな市場規模と成長率」「その市場における企業の立ち位置と成長戦略に整合的な投資計画」を、できるだけ長期的に示しておくことが重要です。できればリスク・シナリオも示しておくと、開示情報に対する信頼性がより高まります。また、投資家は競合他社の状況も当然把握しているため、自社と競合他社との差異を説明することも、開示情報に説得力を与えてくれることになります。ある一時点の売上や利益の数字は、機関投資家にとって大きな意味はありません。長期になれば、当然予想のズレは大きくなるからです。
これに対し、短期の業績予想には精度が求められることになります。とはいえ、短期の業績は為替や原油・商品価格などマクロ経済指標の変化の影響を受けることになります。そこで、自社の業績に影響を与える外部要因の前提条件と、その変化に対する短期業績の「感応度」を示しておくことが重要です。これにより投資家の予見可能性が高まり、短期業績の上触れor下振れによる株価の乱高下を避けることができます。また、投資家との対話においても、マクロ環境の変化によって影響を受ける単純な業績の達成度ではなく、「経営の成果がどうであったか」という本質的な議論が可能となるはずです。
市場の期待と実態のかい離は「市場との対話」で埋める
業績予想は強気に出すべきか、あるいは慎重に出すべきかで悩む企業は少なくないようです。
強気過ぎる予想は信頼を失い、慎重過ぎる予想は予想の意味がありません。「やや慎重な予想」が適切でしょう。その結果上方修正の常連企業となれば、企業が強気の予想を出さなくても、投資家が勝手に強気の予想をするようになります。また、業績が下振れすることがあっても、「一過性」と判断してもらえることが多くなります。逆に、下方修正の“常習犯”となると、市場からの信頼を失い、たとえ業績が予想を上回っても「一時的」と判断されることになりかねません。投資家から見ると、業績の未達は“ご法度”なのです。
また、投資家を失望させないためには、企業は漫然と業績予想を出すだけでなく、「市場のコンセンサス」がどこにあるのか把握するよう努めなければなりません。市場の期待が実態と乖離している場合には、市場との「対話」によってそれを修正しておく必要があります。具体的には、セルサイド・アナリストを有効に活用するとよいでしょう。セルサイド・アナリストは証券会社に所属し、株式を売る側の立場にいます。セルサイド・アナリストが作成するアナリスト・レポートは、証券会社の顧客である個人投資家や機関投資家に提供され、投資家はこれを投資先の選定や売買のタイミングの判断に利用します(ちなみに、「バイサイド・アナリスト」とは運用会社に所属するアナリストであり、そのレポートは、自社のファンドマネージャーの運用成績向上のために作成されます)。フェア・ディスクロージャー(公平な情報開示)を堅持しつつ、できるだけ市場に“サプライズ”が起こらないように誘導するわけです。業績予想の前提条件等をあまり細かく開示するよりも、大まかな開示でまずは投資家にイメージを掴ませ、あとは対話によって微修正していくというやり方が賢明でしょう。
以上のように、業績予想の開示には「戦略」が必要です。現状では、多くの日本企業が短期的かつ詳細な業績予想中心の開示を行っているのに対して、欧米企業は自社が長期的に目指す方向性や事業戦略を投資家に擦り込むことに力を入れ、業績予想においては細かな情報を示すことをできるだけ避けながら、投資家の予見可能性を高める工夫をしています。このような欧米企業の業績予想に関する開示姿勢は、日本企業にとっても大いに参考になるでしょう。