2015/02/15 チェックリスト:コンサルティング契約を締結したい(会員限定)

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■チェックリスト:コンサルティング契約を締結したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
コンサルティング会社に課題解決を依頼する前に、社内のリソースで解決することを検討したか。
コンサルティング会社に課題解決を依頼する前に、コンサルティング会社を関与させることのデメリットを勘案したか。
コンサルティング会社から提案を受けても、最終的な意思決定は取締役が行っているか。
取締役は、コンサルティング会社との間で、何を(幅)、どこまで(深さ)依頼するのかを事前に合意しておき、工程表で進捗管理をしながら、部分的に納品を受け、検収することで、段階的に意思決定をしているか。 事業内容や企業文化にマッチしないシステムや仕事の進め方、報酬制度などが導入されることで、現場が混乱し、かえって効率が悪化したり、従業員のモチベーションが低下したりするケースを回避しなければならない。
取締役は、コンサルティング会社の提案が、会社の風土になじむものか、こちらの意図を汲んだものであるか、現実を無視した一方的なものになっていないかを検討しているか。 事業内容や企業文化にマッチしないシステムや仕事の進め方、報酬制度などが導入されることで、現場が混乱し、かえって効率が悪化したり、従業員のモチベーションが低下したりするケースを回避しなければならない。
コンサルティング会社に過度に依存する状況になっていないか。 社内の人材が育たない、もしくは従業員のモチベーションが低下するといったデメリットがある。
コンサルティング会社を利用する場合、複数のコンサルティング会社から提案をしてもらい、相見積りをとったうえで、費用対効果を慎重に検討するようにしているか。 価格だけで検討できるものではないので、効果面も慎重に検討する。
コンサルティング会社に対して、事前に次のポイントを確認しているか。
・先方の会社情報(経営状態含む)
・サービス案内、特徴
・実績
・価格、報酬体系
・成果の測定方法
・担当者のプロフィール一覧、実績
・自社の課題を解決するための具体的な提案
・アウトソーシングまで踏み込む場合、アウトソースする業務の明確な切り分け
・スケジュール、工程表
・反社会的勢力との関わりがないこと
・その他PR情報
報酬は“前払い”を避け、マイルストーンごとに後払いする方法を採用しているか。 成功報酬も検討に値するが、成果の測定方法を慎重に確認しておく必要がある。
コンサルティング会社を選任する意思決定過程は記録するようにしているか。 稟議書や経営会議・取締役会議事録等に記録される。
次の点を明確化したコンサルティング契約書を交わすようにしているか。
・業務内容および成果物とその評価方法
・知的財産権の帰属
・契約期間(日数)
・契約解除(中途解約)
・報酬と支払方法
・損害賠償
・機密情報
・個人情報の保護等
コンサルティング契約書は、法務部門または顧問弁護士によるリーガルチェックを受けるようにする。
コンサルティングを受ける場合、コンサルタントに丸投げをするのではなく、会社側が主体的にコミットするようにしているか。 会社側でも意欲のある優秀な人材を集めたプロジェクトチームを結成し、コンサルタントと共同で問題解決に当たらせることが有効である。
担当取締役は、コンサルタントより定期的な経過報告を受け、工程表のとおりに進捗していることを確認しているか。 担当取締役自らが主体的に関与を行う姿勢を示すことで、プロジェクトの社内的な権威付けを図ることもできる。
コンサルティングの最終成果物を受け取るときには、慎重に内容を確認して検収しているか。 例えば、コンサルティングの最終成果物がアクションプランの作成であれば、納品されたアクションプランがコンサルタントの主張するゴールのビジョンとそれを確実に実行するための具体的な手法、体制、期間等が明示されていることを確認する。また、コンサルティングの内容がシステムの納品であれば、そのシステムが発注書の仕様を充たすことを確認する。
取締役が個人で株式を所有している会社のような、自社と特別な利害関係を有するコンサルティング会社(以下、「関連当事者会社」とする)とコンサルティング契約を締結することは、可能な限り避けるようにしているか。 関連当事者会社への評価基準が甘くなったり、取締役に遠慮して自社の要望を強く主張することができなかったりして、想定した効果が満足に得られないまま、会社財産が不当に流出する可能性がある。
関連当事者会社へのコンサルティング報酬が妥当な水準かどうか検討したか。 会社や株主共同の利益を害する恐れがあるとともに、実質的な利益移転と税務署にみなされたりするリスクがある(特に関連当事者会社が赤字の場合)。
コンサルティング報酬が妥当な水準かどうかの検討結果は記録として残しているか。
関連当事者会社との1千万円以上の取引は有価証券報告書の【関連当事者情報】で開示しているか。

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2015/02/15 【総務等】コンサルティング契約を締結したい(会員限定)

その課題、自力で解決できますか?

会社は、何らかの課題を常に抱えているのが通常です。会社の規模が拡大することで自然に解決に至る課題もあれば、逆に大きくなったがゆえに浮上する課題もあります。課題を一つ解決するたびに、別の課題が浮上する様子は、まさに“イタチごっこ”です。既存事業のテコ入れ、新事業の開拓、海外進出、M&A、生産・物流改革、社内システムの一元化、アウトソーシングの拡大、人事制度の変更等、会社の生き残りを賭けて解決しなければならない課題は、極めて多岐にわたります。

このような課題を解決しようにも、次のような状況があると、自力での解決ができません。
・社内だけで考えていても答えが出ない(ノウハウ不足)
・社内のリソースだけでできるかもしれないが、確実性に欠け(不確実性)、時間がかかりすぎる(時間的制約)

変化の激しい現代では、こういったリソース不足に直面する企業は少なくありません。リソース不足の解消には、そのようなノウハウを備えた人材をヘッドハンティングしたり、ノウハウや人材を備える会社を買収したり、その分野に長けたコンサルティング会社の力を借りたりといった策が考えられます。

また、上に加えて次のような状況もあれば、リソース不足の解消策としてコンサルティング会社の利用が有効です。
・課題解決に伴うリスクを可能な限り小さくしたい(リスクマネジメント)
・外部の専門家を入れることで、課題解決に説得力を持たせたい(社内の抵抗勢力を抑えたい)

もっとも、コンサルティング会社の利用の仕方によっては、狙いどおりの効果が得られないばかりか、かえって不利益を生む可能性もあります。例えば、コンサルティング会社の提案を丸呑みするケースがその一例です。コンサルティング会社によっては、戦略立案から業務プロセスの設計、実際の導入からその後のオペレーションまでワンストップで対応可能なところもあるので、すべてをアウトソーシングすることもあるでしょう。しかし、課題解決に向けてサポートしてもらうだけでなく、最終目標の提案まで依頼して、それを社内で何ら検討せずに丸呑みするようでは、上場会社としての適格性に欠いていると言われても仕方がありません。投資家の負託に応えるためには、重要な意思決定は、いわば“通りすがり”のコンサルタントではなく、会社の理念や企業文化、事業内容を肌感覚で熟知している会社の取締役が担うべきだからです。取締役は、明確なビジョンのもと、自らの責任でゴールを設定して、そのゴールにたどり着くために必要な手段としてコンサルティング会社の利用を検討すべきです。また、取締役はコンサルティング会社との間で何を(幅)どこまで(深さ)依頼するのかを事前に合意しておき、工程表で進捗管理をしながら、部分的に納品を受け検収を行い、段階的に意思決定をすることが重要です。

また、事業内容や企業文化にマッチしないシステムや仕事の進め方、報酬制度などが導入されることで、現場が混乱し、かえって効率が悪化したり、従業員のモチベーションが低下したりするケースも耳にします。そういった事態に陥ることを防ぐために、取締役としては、コンサルティング会社の提案が、会社の風土になじむものか、こちらの意図を汲んだものであるか、現実を無視した一方的なものになっていないかの検討が求められます。

その他、コンサルティング会社に過度に依存することで、社内の人材が育たない、もしくは従業員のモチベーションが低下するといったデメリットがあることにも留意すべきです。

取締役は、そういったデメリットも考慮しながら、コンサルティング会社を利用するかどうかを判断する必要があります。

コンサルティング会社の選び方

コンサルティング会社を利用する可能性が高まった場合、次に検討するのはコンサルティングを受けることの費用対効果です。コンサルティング費用は高額になるケースが多いため、果たしてそれに見合った成果を得られるのか、原則として複数のコンサルティング会社から提案をしてもらい、相見積りを取ります。もっとも、コンサルティングはコモディティなサービスではないため、単純に価格だけで判断できません。サービスの内容や費用対効果の程度を慎重に検討する必要があります。

コモディティ : 石油や金属、小麦のような市況製品。転じて、製品・サービスの機能・品質などが均質である状態。

コンサルティング会社は、それぞれ「戦略系」「会計系」「IT系」「人事系」など得意分野を有しています。「業界特化系」「シンクタンク(総合研究所)系」といった会社も存在します。また、外資系・国内系といった違いから規模の大小まで様々です。インターネットで検索すれば各分野の主要なコンサルティング会社がすぐに見つかりますので、特に当てがなければ、まずはそこから何社かピックアップすればよいでしょう。プロジェクトの規模にもよりますが、各社から一般的な情報(サービス案内、価格等)を入手し一次選考としてふるいにかけ、二次選考で詳細な情報を与えて具体的な提案を受けるといったステップを踏むことが基本になります。

提案を受ける事前情報として、例えば以下の内容をコンサルティング会社に伝えます。

・自社の概要
・解決を目指す課題
・具体的な目標
・コンサルティングの期限
・予算(必要に応じて)
・担当窓口
・機密保持の依頼

コンサルティングは属人的な要素が強いので、「大手だから間違いないだろう」といった理由だけで選定してはなりません。どんなコンサルタントが担当するのか、担当予定のコンサルタントの相性やスキル、実績をよく見極めることも重要になります。そこで、提案を受ける際に、コンサルティング会社に対して以下のポイントを確認しておきます。

・先方の会社情報(経営状態含む)
・サービス案内、特徴
・実績
・価格、報酬体系
・成果の測定方法
・担当者のプロフィール一覧、実績
・自社の課題を解決するための具体的な提案
・アウトソーシングまで踏み込む場合、アウトソースする業務の明確な切り分け
・スケジュール、工程表
・反社会的勢力との関わりがないこと
・その他PR情報

とりわけ実績は重要な要素になります。コンサルティングはノウハウの蓄積に対して対価を支払う要素が強いサービスだからです。

担当取締役は、以上の情報を元に、提案の論理的妥当性や実行可能性、目的適合性、担当コンサルタントのコミュニケーション能力・説明能力等を加味して、費用に見合った効果が得られるかどうかを判断します。

報酬は、資金負担だけが先行する“前払い”は避けるべきです。また、“一括後払い”は完全成功報酬でない限り、コンサルティング会社側が認める可能性は低いと言えます。そこで現実的には、“マイルストーンごとに後払い”する方法が効果的です。また、成功報酬を取り入れているコンサルティング会社もありますので、成果の測定方法と共によく確認しておく必要があります。

社内での諸手続から契約まで

上記の検討を行い、最終的にはコンサルティング会社を1社に絞るわけですが、社内手続としてその意思決定過程を明確に記録しておく必要があります。どのような選定プロセスを踏んで、どのような理由で誰が最終的な決裁を行ったか、その判断の過程を記録を残し、万が一判断の合理性・正当性が後日問題になった時に備えるのです。抜本的な経営改革の一環として、多額の費用をかけて大規模に行う重要案件は取締役会での決議事項となることもありますが、費用がそれほど多額でなければ権限規程に従い稟議書による決裁()になります。

 稟議決裁に備えて、あらかじめ稟議規程や職務権限規程等を整備し、稟議書の記載項目や添付書類、案件の重要性に応じた最終決裁者を定めておく必要があります。そして、内部監査で、ルールに従って稟議書が適正に作成されていることを検証します。

コンサルティング会社選定後の契約に際しては、後のトラブルを防止するため、事前に両者で様々な取り決めを行い、コンサルティング契約書で明確にしておきます。例えば、業務内容および成果物とその評価方法、知的財産権の帰属、契約期間(日数)、契約解除(中途解約)、報酬と支払方法、損害賠償、機密情報・個人情報の保護等です。コンサルティング契約書は、必ず法務部門または顧問弁護士によるリーガルチェックを受けるようにします。

プロジェクトへの取り組み方と成果の測定

高額な費用をかけてコンサルティングを依頼したうえで、「理屈はわかるが実際は無理」「絵に描いた餅」「助言どおりに実行しても、大した効果がなかった」というような結果に陥ることは避けなければなりません。そのためには、担当コンサルタントとの密接な意思疎通や会社側の主体的なコミットも必要です。コンサルタントに丸投げをするのではなく、会社側でも意欲のある優秀な人材を集めたプロジェクトチームを結成し、コンサルタントと共同で問題解決に当たらせるのです。現場の人間も含めて課題の解決に取り組むことで、全社的な納得感も得やすくなり、実行可能性も高まると考えられます。また、プロジェクトチームでの経験が、社内のその他の課題解決にも役立つはずです。このような会社としての主体的な取り組みができていれば、コンサルタントも力をより発揮しやすくなり、より充実した成果を上げられることにつながります。

担当取締役は、コンサルタントより定期的な経過報告を受け、工程表のとおりに進捗しているかどうかを確認するとともに、彼らが設定した仮説や描いているストーリーの根拠が妥当なものであることを確かめていかなければなりません。その上で、目指すゴールに向けて自らも主体的に関与を行う姿勢を示すことで、プロジェクトの社内的な権威付けを図れます。

コンサルティングの最終成果物を受け取るときには、慎重に内容を確認して検収する必要があります。例えば、コンサルティングの最終成果物がアクションプランの作成であれば、納品されたアクションプランがコンサルタントの主張するゴールのビジョンとそれを確実に実行するための具体的な手法、体制、期間等が明示されていることを確認します。また、コンサルティングの内容がシステムの納品であれば、そのシステムが発注書の仕様を充たすことを確認します。コンサルタントから提示されるそれらすべてを納得できなければ、その最終報告の内容を、コンサルティング会社の最終成果として認めてはなりません。

特定の利害関係者との契約は避ける

取締役が個人で株式を所有している会社のような、自社と特別な利害関係を有するコンサルティング会社(以下、「関連当事者会社」とします)とコンサルティング契約を結ぶ場合は、いくつか注意すべき点があります。

「李下に冠を正さず」といった故事があるとおり、関連当事者会社との契約は可能な限り締結すべきではありません。関連当事者会社への評価基準が甘くなったり、取締役に遠慮して自社の要望を強く主張できなかったりして、想定した効果が満足に得られないまま、会社財産が不当に流出する可能性があるからです。また、たとえ相見積もりを取ったとしても、コンサルティングの場合、上述したとおりコモディティなサービスではないため、単純に費用だけで判断できるものではないからです。それでもなお関連当事者会社にコンサルティングを依頼する場合、利益相反取引の承認の必要性を検討すべきです。

なお、上場会社がこのような関連当事者会社と取引を行う場合には、そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念を引き起こすことのないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続きを定めておく必要があります(関連当事者取引における取締役会の果たす役割はコーポレートガバナンス・コード【原則1-7】を参照してください)。具体的には、担当取締役は取締役会決議に先立ち、コンサルティング契約の正当性や透明性を慎重に確認する必要があります。特に価格水準は、関連当事者でない独立した他のコンサルティング会社から相見積もりをとったうえで、比較するとともに、比較した結果を記録に残すべきです。また、価格の妥当性は、税務上の寄附金に当たらないかという観点からも確認が必要になります。コンサルティング報酬が依頼した業務内容の常識的な対価の水準を大きく超えていれば、税務署はコンサルティング報酬を装った関連当事者会社への実質的な利益移転とみなし(特に関連当事者会社が赤字の場合)、コンサルティング報酬が法人税法上の寄附金に認定され税金を追徴される可能性があるからです。一般的に、関連当事者会社との取引では金額設定の自由度が高いため、税務署による調査が厳しくなる傾向にあります。

会社と関連当事者会社との取引は対等な立場で行われているとは限らず、結果として会社の財政状態や経営成績にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。そのため、投資家に対する適正な財務報告の観点から、関連当事者会社との重要な取引は決算書の注記事項として開示が必要です。役員が個人で株式を所有している会社との1千万円以上の取引は有価証券報告書の【関連当事者情報】で開示する必要がありますし、会社法上の計算書類でも基本的には記載の対象になります。関連当事者会社が連結子会社であれば(支配力基準で連結子会社に該当する可能性があります。「連結子会社の範囲を見直したい」を参照してください)、その会社との取引は、原則として連結財務諸表では連結内部の取引として相殺消去されますので、有価証券報告書では開示義務はありません(連結財務諸表作成会社は単体での関連当事者情報の開示は不要です)。しかし、会社法上の計算書類では関連当事者との取引は、単体の決算書に対する記載事項とされているため、関連当事者会社が連結子会社であっても重要性を加味して開示を検討します。

関連当事者の開示はその他にも細かい規定が数多くあります。経理部等の決算書作成部門は、開示漏れが生じないよう、監査法人等の外部の専門家にも相談しながら慎重に検討しなくてはなりません(関連当事者の開示の詳細は「会社と関係が深い者との取引があった」を参照してください)。

独立性強化のきっかけはエンロン事件

会計、経理、財務および内部統制等に関する分野では、財務諸表や内部統制の監査業務を通じて自社の状況を熟知している会計監査人にコンサルティング業務を依頼した方が何かと利便性が高いと考えるかもしれません。しかし、会計監査を行っている会計監査人があたかも経営者のように会社の業務の遂行や意思決定を行うと、結果的に自らの業務を自らが監査する(これを「自己監査」と言います)ことになり、また多額のコンサルティング報酬を受け取り、やがてその報酬に監査人自体が依存するようになると、第三者としての客観的な視点で監査意見を表明できなくなるのではないかという懸念が発生します。これは、過去より指摘されてきたいわゆる監査人の独立性に関する問題ですが、米国における2001年のエンロン事件を発端として社会的な法改正機運が高まり、その結果、監査人の独立性に関する制度が見直されました。エンロン事件とは、かつて全米7位の売上高を誇っていた総合エネルギー会社であるエンロン社の監査を担当していた会計事務所(アーサーアンダーセン)が、財務コンサルティングを会計監査と同時に行い、あろうことか粉飾決算に加担していたというセンセーショナルな事件でした。その結果、我が国でも、監査業務を行っている監査人が提供できるコンサルティング業務に制限が課されるように公認会計士法が改正されました。具体的には、監査人が監査クライアントの会計帳簿の記帳代行を行うことはもちろん、会計システムの管理や内部統制機能の一部を担うことも禁止されています。

とはいえ、監査業務とコンサルティング業務の同時提供が全くできないというわけではありません。例えば国際会計基準の導入に関しては、会社が自らの責任で主体的に導入を行う限り、監査人が助言業務を行うことは自己監査に当たらないため問題ありません。また、会社や会社が雇用した第三者である専門家が行ったデューデリジェンス等の作業結果を検証し、評価する業務も自己監査に当たらないため提供可能です。

なお、監査人と同じネットワークに属する税理士法人は、共通ブランド名の使用等の協力関係にあるだけで支配関係がない場合は、当該税理士法人が同一ネットワークの監査人の監査提供先に税務業務を行うことは過度に会社の利益を追求する恐れがある場合等を除き、一定の範囲内で可能とされています。

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2015/02/13 コーポレートガバナンス・コードを実施しない場合の説明の仕方

 昨年12月に公表されたコーポレートガバナンス・コードの原案のパブコメ案(以下、コードのパブコメ案)では、「原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する」という、いわゆるコンプライ・オア・エクスプレインの手法が採用されているが、具体的にどのように説明したらよいか悩んでいる企業は多いようだ。

 コードのパブコメ案は、「自らの個別事情に照らして実施することが適切でない」場合に、「株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう工夫」して十分な説明をすることを求めているが、これだけ見てもピンと来ないかもしれない。

 この点、日本のコードのパブコメ案が・・・

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2015/02/13 コーポレートガバナンス・コードを実施しない場合の説明の仕方(会員限定)

 昨年12月に公表されたコーポレートガバナンス・コードの原案のパブコメ案(以下、コードのパブコメ案)では、「原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する」という、いわゆるコンプライ・オア・エクスプレインの手法が採用されているが、具体的にどのように説明したらよいか悩んでいる企業は多いようだ。

 コードのパブコメ案は、「自らの個別事情に照らして実施することが適切でない」場合に、「株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう工夫」して十分な説明をすることを求めているが、これだけ見てもピンと来ないかもしれない。

 この点、日本のコードのパブコメ案が参考にした英国コーポレートガバナンス・コード(以下、英国コード)、およびEUの「コーポレートガバナンス報告の質に関する委員会勧告(コンプライ・オア・エクスプレイン)」(2014/208/EU。2014年4月9日公表。以下、EU指令)は、説明すべき事項・方法を以下のようにより具体的に示している。

・ 実施しない代わりに取る手段(以下、代替手段)が優れたガバナンスにどう貢献するのか
・ 代替手段が事業目的の達成をいかに推進するのか
・ 代替手段がコード各則またはコード全体の根底にある目的をどう達成するのか
・ 実施しないことにより発生する可能性のあるリスクの軽減措置
・ 実施しないとした決定過程

 要するに、英国コードおよびEU指令では、「コードを実施しないこと」は必ずしも“悪”ではないという前提に立ち、むしろ企業価値向上に向けた積極的な取り組みであることを説明するよう求めていると言える。「言い訳」ではなく、「独自の考え方」の説明が求められているのである。

 例えば、英国コードは「少なくとも半数の取締役会メンバーは、独立した非業務執行取締役から構成されるべきである」(B.1.2)と規定しているが、これを実施していない場合の説明のベストプラクティスとして、英国コードを策定した英国財務報告評議会(FRC)は、「取締役会は、業務執行取締役と非業務執行取締役を同数にすることよりも、専門性と経験の多様性が重要と考えている。さらに、非業務執行取締役は完全に独立していて、取締役会の決定プロセスを個人や少数派に支配させないための十分な能力と員数を有していると考えている。」を紹介している。

 日本のコードのパブコメ案では、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための「攻めのガバナンス」が目的として掲げられており、企業には、どのようなガバナンス体制を取ることが自社の成長と企業価値向上に最も資するかを検討することが求められている。したがって、コードを実施しない場合には、当然ながら自社の企業価値向上に関する説明力が強く問われるという点は、英国コードやEU指令が言っていることと何ら変わらない。したがって、上述した「コードを実施しない場合」の説明の仕方は、日本企業にとっても大いに参考となろう。

2015/02/12 (新用語・難解用語)ホワイトカラーエグゼンプション(white collar exemption)

 ホワイトカラー労働者について、労働法上の“例外”を認めること。exemptionとは、「(義務などの)免除」を意味する。例えば、労働法上は、所定労働時間を超えて労働者が働いた場合には残業代を支払わなければならないが、こうした労働時間に関する規制を緩和もしくは免除するのが「ホワイトカラーエグゼンプション」である。ホワイトカラーエグゼンプションの趣旨は、ホワイトカラー労働者の業務は、工場労働のように、労働時間の長さと成果に明確な比例関係がない中、長時間かけた者のほうが多くの残業代を得るという矛盾を解消しようという点にある。

 ホワイトカラーエグゼンプションはアメリカやイギリスなどでは既に導入されているが、日本では2005年に経団連が提言を行ったものの、労働団体などからの強い反対を受け、実現に至らなかったという経緯がある。

 しかし、政府は・・・

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2015/02/12 (新用語・難解用語)ホワイトカラーエグゼンプション(white collar exemption)(会員限定)

 ホワイトカラー労働者について、労働法上の“例外”を認めること。exemptionとは、「(義務などの)免除」を意味する。例えば、労働法上は、所定労働時間を超えて労働者が働いた場合には残業代を支払わなければならないが、こうした労働時間に関する規制を緩和もしくは免除するのが「ホワイトカラーエグゼンプション」である。ホワイトカラーエグゼンプションの趣旨は、ホワイトカラー労働者の業務は、工場労働のように、労働時間の長さと成果に明確な比例関係がない中、長時間かけた者のほうが多くの残業代を得るという矛盾を解消しようという点にある。

 ホワイトカラーエグゼンプションはアメリカやイギリスなどでは既に導入されているが、日本では2005年に経団連が提言を行ったものの、労働団体などからの強い反対を受け、実現に至らなかったという経緯がある。

 しかし、政府は2014年6月24日に閣議決定した「日本再興戦略 改訂2014」の中に、労働時間の長短に関係なく「同じ成果であれば同じ賃金」とする新たな労働時間制度の創設を盛り込み、2016年4月から労働基準法を改正すべく、現在政府内で中身の検討が進んでいる。具体的には、(1)高度の専門的知識等を要する、(2)「業務に従事した時間」と「業務の成果」との関連性が強くない、(3)平均給与額の3倍を相当程度上回る報酬を支払う、といった性質を持つ業務に限り、労働基準法第4章に定める「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」を適用除外とする方向。

 労働者にとっては自己の裁量で労働時間をコントロールすることができ、企業にとっては、労働者に短い労働時間でいかに成果を出すかを追求してもらうことで労働生産性が向上するといったメリットが期待される。

 ただ、その一方では、対象となる労働者の数が少なく、企業経営上のメリットはあまりないのではないかとの指摘が聞かれるほか、労働者の目線からは、事実上のサービス残業の合法化、 長時間労働の常態化につながるリスクを懸念する声も上がっている。

2015/02/11 【M&A】M&Aで新しい事業分野に進出したい

 

M&Aの目的は「時間の節約」と「リスク軽減」

あらゆる事業にはライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)があると言われます。製品やサービスの導入期から成長期にかけては、市場拡大に応じて売上高は順調に伸長し、事業規模拡大とともに高い収益性を確保できるようになります。しかし、成熟期に入ると市場拡大が鈍化・停滞し、収益性こそ安定するものの、さらなる事業規模の拡大は難しくなります。遅くともこの段階で新たな事業分野を確立しておかないと、既存事業はやがて衰退期に入って十分な収益を上げることができなくなる可能性が高いだけに、企業の存続が危うくなりかねません。

<ライフサイクル>

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従来、企業が新規事業を開発・育成する場合には、成長期~成熟期に獲得した潤沢なキャッシュフローを原資に、技術開発や市場開拓のための投資を実行し、長い時間をかけて事業構造の転換を図るというパターンが一般的でした。しかし、技術革新やインターネットによる需要創出のスピードアップ(ドッグイヤー化)などにより、あらゆる事業のライフサイクルは短くなる一方です。このような環境下、自前(オーガニック)による事業育成にこだわっていたのでは、いたずらに時間を浪費するだけで、投資した資金を回収する機会を逃すリスクを高めることになりかねません。こうした中、時間を節約するとともにリスクを軽減し、新規事業を成功に導くための有効な手段の一つとして期待されるのがM&A(merger and acquisition=企業の合併・買収)です。

新たな事業分野への進出にM&Aを活用するということは、自社に足りない経営資源をオーガニックで育成するのではなく、外部から調達することで「時間を買う」ということに他なりません。「ヒト・モノ・カネ」のすべてがそろわなければ新規事業を開始し、成長させることは困難ですが、そのうち1つないし2つしか自社の中に備わっていない場合、M&Aを活用して「足りない経営資源」を外部から取り入れることにより、直ちに事業化に着手できます。

例えば経営資源のうち「ヒト」、すなわち質の高い従業員はそろっているとします。しかし、既存事業の成長性が近い将来頭打ちになることは目に見えており、それに伴い余剰人員が発生する可能性が高いという場合、少しでも早く新規事業を立ち上げてそこに人員を移管できなければ、大規模な解雇や待遇の引き下げが避けられなくなってしまいます。そこで、既存事業と親和性のある別のビジネス(例えば、既存事業が飲食店チェーンならば、別業態の新興チェーン)を買収し、人的リソース(従業員)を抵抗感なく(少なく)買収事業に注ぎ込むことで、企業としては「ヒト(質の高い従業員)」という経営資源を損なうことなく、新たな事業のライフサイクルを獲得することができます。

あるいは「モノ」、すなわち新しい製品やサービスの基盤となる技術やノウハウは、既存事業における研究開発などから派生的もしくは偶発的に得られているとします。しかし、新しい製品やサービスを展開する顧客基盤を持っておらず、また、それに取り組むのに必要なスキルを持った従業員もいなければ、せっかくの魅力的な新規事業も思ったように伸ばすことができません。そこで、新規事業を展開する能力を持った他社(例えば、新製品の販売を得意とする専門商社)を買収して顧客網および営業スタッフを確保すれば、一気に拡販に乗り出すことが可能になります。

最後の「カネ」、すなわち余剰資金のみ潤沢に保有しているケースこそが、実は経営陣としては最も警戒するべき状況と言えるかもしれません。資金が潤沢であれば、M&Aの仲介業者などから案件がどんどん持ち込まれてきますし、また上場企業であれば株主から資金の有効活用を強く求められるため、えてして「M&Aすること自体」が重要視され、まさに“自己目的化”してしまう可能性が多分にあります。このようなケースでは、M&Aの対象を精緻にデューデリジェンスして高値づかみしないことは当然ですが、それ以前に「そもそもなぜM&Aするのか」、そして「なぜその事業なのか」を、自らに何度も問い直すことが不可欠です。

M&Aの成否を左右する対象事業の見極め

M&Aの成否は、ターゲットとする事業分野の選択に大きく左右されます。単に「進出しやすいから」という理由で分野を選んでいるようでは、成功する確率は決して高くありません。

どの分野を選ぶかという経営判断において重視しなければならないのが、自社のビジョンとの親和性と、既存事業とのシナジーです。ビジョンとの親和性がなければ全社一丸となって新規事業に取り組むことはできませんし、既存事業とのシナジーが得られなければ、他社に対する競争優位を築くのは難しいからです。

まず「ビジョン」について説明しましょう。

ビジョンとは、・・・

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M&Aの手法は最適か

M&Aのターゲットとする事業分野の選択と並び、M&Aの成否を左右するのが、M&Aの手法(どのような組織形態、グループマネジメントを採用するのか)です。

短期的には、お互いの組織における軋轢やビジネス上の支障を最小限に抑えるため、あえて分離度合いの大きい枠組み(役員の兼任を最少限にとどめた子会社化など)を採用したり、あるいは、業績不振に陥っている他社を自社の一部門として完全に吸収し、厳しい規律の下で意識改革を図るなど、個別の事情や狙いが優先されることもあるでしょう。しかし、少なくとも中期的には、既存事業とM&Aの対象事業との関連性やシナジーの大小によって決定されるべきです。

上記の成長マトリックスを参照しながら、シナジーの大小に応じたM&Aの手法を検討してみましょう。

製品と市場の両方が・・・

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カテゴリー: M&A

2015/02/11 チェックリスト:M&Aで新しい事業分野に進出したい(会員限定)

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■チェックリスト:M&Aで新しい事業分野に進出したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
既存事業の成熟期までに新たな事業分野を確立しているか。 既存事業が衰退期に入って十分な収益を上げることができなくなれば、企業の存続が危うくなりかねない。
自前(オーガニック)による事業育成にこだわっていないか。 投資した資金の回収機会を逃さないためにも、M&Aにより「時間を買う」ことを検討すべき。
「M&Aすること自体」を重要視し、それが“自己目的化”していないか。 余剰資金だけ潤沢にある会社ほどそのような状況に陥りがち。“高値づかみ”しないこととともに、「そもそもなぜ買収するのか」「なぜそのM&Aなのか」を自らに何度も問い直すことが不可欠。
M&Aのターゲットとする事業分野の選択にあたっては、自社のビジョンとの親和性(整合性)を考慮しているか。 自社のビジョンとの親和性がなければ、全社一丸となって新規事業に取り組むことは困難。
M&Aのターゲットとする事業分野の選択にあたっては、当該事業の資本効率を考慮しているか。 ビジョンには合致していても資本効率が低い事業、ビジョンには整合しないものの資本効率が高い事業は、M&Aのターゲットになり得る。
M&Aのターゲットとする事業分野の選択にあたっては、既存事業とのシナジーを考慮しているか。 既存事業とのシナジーが得られなければ、他社に対する競争優位を築くのは難しい。既存製品を新しい顧客に販売する市場開拓戦略や、既存顧客に新たな製品を販売する新商品開発戦略をとる場合、既存事業とのシナジーを活用しながら新たな成長性を獲得するためにM&Aを検討すべき。
M&Aによって新規事業への進出を図る場合、買収相手に対してデューデリジェンスを行う以前に、まず「自社のデューデリジェンス」を精緻に行っているか。 自社とM&Aの相手との相対的な規模格差、自社の収益力および資金力、リスクに挑戦する社風かどうかなどを分析することが、望ましい新規事業分野を見つけるための前提となる。
M&A後の組織形態、グループマネジメントの手法を検討したか。 (1)製品と市場の両方が「既存分野」に属する事業のM&Aであれば、吸収合併によるワンカンパニー体制、(2)被買収企業の自律性を尊重しつつ、シナジーを最大限に得るためには完全子会社化、(3)被買収企業とイコールパートナーでいたいのであれば、純粋持株会社を設立し、買収企業ともども並列の子会社化、(4)製品も顧客も共通していない多角化タイプのM&Aであれば、持株会社の下で経営統合し、個々が独立した企業として自律的に事業を展開-が望ましい。

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2015/02/11 【M&A】M&Aで新しい事業分野に進出したい(会員限定)

 

M&Aの目的は「時間の節約」と「リスク軽減」

あらゆる事業にはライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)があると言われます。製品やサービスの導入期から成長期にかけては、市場拡大に応じて売上高は順調に伸長し、事業規模拡大とともに高い収益性を確保できるようになります。しかし、成熟期に入ると市場拡大が鈍化・停滞し、収益性こそ安定するものの、さらなる事業規模の拡大は難しくなります。遅くともこの段階で新たな事業分野を確立しておかないと、既存事業はやがて衰退期に入って十分な収益を上げることができなくなる可能性が高いだけに、企業の存続が危うくなりかねません。

<ライフサイクル>

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従来、企業が新規事業を開発・育成する場合には、成長期~成熟期に獲得した潤沢なキャッシュフローを原資に、技術開発や市場開拓のための投資を実行し、長い時間をかけて事業構造の転換を図るというパターンが一般的でした。しかし、技術革新やインターネットによる需要創出のスピードアップ(ドッグイヤー化)などにより、あらゆる事業のライフサイクルは短くなる一方です。このような環境下、自前(オーガニック)による事業育成にこだわっていたのでは、いたずらに時間を浪費するだけで、投資した資金を回収する機会を逃すリスクを高めることになりかねません。こうした中、時間を節約するとともにリスクを軽減し、新規事業を成功に導くための有効な手段の一つとして期待されるのがM&A(merger and acquisition=企業の合併・買収)です。

新たな事業分野への進出にM&Aを活用するということは、自社に足りない経営資源をオーガニックで育成するのではなく、外部から調達することで「時間を買う」ということに他なりません。「ヒト・モノ・カネ」のすべてがそろわなければ新規事業を開始し、成長させることは困難ですが、そのうち1つないし2つしか自社の中に備わっていない場合、M&Aを活用して「足りない経営資源」を外部から取り入れることにより、直ちに事業化に着手できます。

例えば経営資源のうち「ヒト」、すなわち質の高い従業員はそろっているとします。しかし、既存事業の成長性が近い将来頭打ちになることは目に見えており、それに伴い余剰人員が発生する可能性が高いという場合、少しでも早く新規事業を立ち上げてそこに人員を移管できなければ、大規模な解雇や待遇の引き下げが避けられなくなってしまいます。そこで、既存事業と親和性のある別のビジネス(例えば、既存事業が飲食店チェーンならば、別業態の新興チェーン)を買収し、人的リソース(従業員)を抵抗感なく(少なく)買収事業に注ぎ込むことで、企業としては「ヒト(質の高い従業員)」という経営資源を損なうことなく、新たな事業のライフサイクルを獲得することができます。

あるいは「モノ」、すなわち新しい製品やサービスの基盤となる技術やノウハウは、既存事業における研究開発などから派生的もしくは偶発的に得られているとします。しかし、新しい製品やサービスを展開する顧客基盤を持っておらず、また、それに取り組むのに必要なスキルを持った従業員もいなければ、せっかくの魅力的な新規事業も思ったように伸ばすことができません。そこで、新規事業を展開する能力を持った他社(例えば、新製品の販売を得意とする専門商社)を買収して顧客網および営業スタッフを確保すれば、一気に拡販に乗り出すことが可能になります。

最後の「カネ」、すなわち余剰資金のみ潤沢に保有しているケースこそが、実は経営陣としては最も警戒するべき状況と言えるかもしれません。資金が潤沢であれば、M&Aの仲介業者などから案件がどんどん持ち込まれてきますし、また上場企業であれば株主から資金の有効活用を強く求められるため、えてして「M&Aすること自体」が重要視され、まさに“自己目的化”してしまう可能性が多分にあります。このようなケースでは、M&Aの対象を精緻にデューデリジェンスして高値づかみしないことは当然ですが、それ以前に「そもそもなぜM&Aするのか」、そして「なぜその事業なのか」を、自らに何度も問い直すことが不可欠です。

M&Aの成否を左右する対象事業の見極め

M&Aの成否は、ターゲットとする事業分野の選択に大きく左右されます。単に「進出しやすいから」という理由で分野を選んでいるようでは、成功する確率は決して高くありません。

どの分野を選ぶかという経営判断において重視しなければならないのが、自社のビジョンとの親和性と、既存事業とのシナジーです。ビジョンとの親和性がなければ全社一丸となって新規事業に取り組むことはできませんし、既存事業とのシナジーが得られなければ、他社に対する競争優位を築くのは難しいからです。

まず「ビジョン」について説明しましょう。

ビジョンとは、企業のミッション(自社が社会にいかに貢献するかのイメージを表現するもの。理念、社是などもこれに類する)を前提として、自社がおおむね10年程度先の将来において実現したい目標です。「10年先」と言っても、ビジョンは夢物語ではありません。企業が独自に持つ強み(コアコンピタンス)をはじめ、事業環境およびリスクの合理的な予測、展開するべき事業ドメイン、目標とする業績水準を考慮した上で設定する「実現可能な目標」である必要があります。

コアコンピタンス : 企業経営上、核となる能力や得意分野のこと。例えば、技術力やノウハウ、製品開発力などを指す。他社に対する競争優位性を保持する源泉となる。

もっとも、いかに自社のビジョンと親和性(整合性)があったとしても、資本効率が低い事業であれば、進出には慎重であるべきです。この「ビジョンとの整合性」を縦軸、「資本効率(ROEROIなど)」を横軸にとり、事業のポテンシャルを表わすのが、ボストン・コンサルティング・グループが考案した「バリューポートフォリオ」です(下図参照)。

資本効率 : 調達した資本の運用効率のことであり、代表的な指標としてはROE(資本利益率)やROA(総資産利益率)、ROI(投下資本利益率)がある。

ROE : Return On Equity=自己資本利益率(当期純利益/自己資本)

ROI : Return On Investment=投下資本利益率(純営業利益/投資額)

<バリューポートフォリオ>

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図中の円は事業に投下した資本の大きさを示しています。これらのうち、上場企業が取り組むべき理想の事業分野が、ビジョンと資本効率が両立している「本命事業」です。この分野で新規事業を立ち上げることができれば、成功する確率は高いでしょう。

ビジョンには合致していても資本効率が低い「課題事業」は、経営資源の投入の仕方次第で大きく育つ可能性があり(例えば「顧客基盤を持つ同業他社を買収する」「差別化を促進するために有望な技術パテントを持つ同業他社を買収する」など)、まさにM&Aの活用を検討することが有効です。一方、ビジョンには整合しないものの資本効率が高い「機会事業」については、ビジョンに合致しない以上、本来は安易に手を出すべきではありません。しかし、これを機にビジョン自体を再考するなど企業が“変革のタイミング”にあるならば、大胆なM&Aによる新規参入も考えられるでしょう。

一方、ビジョンとの整合性も資本効率も低い「見切り事業」への参入は基本的には控えるべきです。

ビジョンと資本効率から判断して参入する意義がある事業でも、既存事業とのシナジーが大きいか小さいかによって、進出後に競争優位性を迅速に築けるかどうかに差が出てきます。このシナジーの有無を判断するのに役立つのが、経営戦略の父と言われるイゴール・アンゾフが提唱した「成長マトリックス」です。これは、縦軸を市場、横軸を製品とし、それぞれを既存と新規に分けるマトリックスを用いて、元々は「製品戦略」を決定するのに活用されるものですが、既存事業と新規事業のシナジーの有無をイメージするのにも応用することができます。

<成長マトリックス>

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例えば既存事業と製品・市場を同じくする新規事業であれば、いわゆる市場深耕・浸透戦略(マトリックスの左下)をとることになり、既存事業との大きなシナジーが得られます。もっとも、このカテゴリーは既にある程度開拓されているため、飛躍的な成長性の向上は望めないかも知れません。

これに対し、既存製品を新しい顧客に販売する市場開拓戦略(マトリックスの左上)や、既存顧客に新しい製品を販売する新商品開発戦略(マトリックスの右下)は、既存事業とのシナジーを活用して新たな成長性を獲得するポテンシャルを持っています。前者であれば、例えば日本国内でシェアの高い自社製品をアジアで販売するため現地の商社を買収する、後者であれば、例えば日本国内で築いた強固な顧客網に新しい製品を販売するため近接分野のメーカーを買収する、といったM&Aが考えられます。

一方、製品・市場のいずれも既存事業と関連が薄い分野で新規事業に乗り出すということは、いわゆる(無関連)多角化戦略(=コングロマリット展開。マトリックスの右上)をとるということです。多角化戦略は潜在的な成長ポテンシャルは決して小さくないものの、シナジーを期待できないリスキーな戦略と言わざるを得ません。

以上、M&Aのターゲットとする事業分野を選ぶ際に役立つ2つの方法を紹介しましたが、どのような事業であっても新規に展開する以上、大なり小なりリスクは存在します。したがって、その事業に乗り出すか否かの決断は、最後は自社の「リスク許容度」の問題だと言えるでしょう。特にM&Aによって新規事業への進出を図る場合、自社と買収相手となる企業との相対的な規模格差、自社の収益力および資金力、自社はリスクに挑戦する社風かどうかなど、買収相手に対するデューデリジェンス以前に、まず「自社のデューデリジェンス」を精緻に行うことこそ、望ましい新規事業分野を見つけるための大前提となります。

M&Aの手法は最適か

M&Aのターゲットとする事業分野の選択と並び、M&Aの成否を左右するのが、M&Aの手法(どのような組織形態、グループマネジメントを採用するのか)です。

短期的には、お互いの組織における軋轢やビジネス上の支障を最小限に抑えるため、あえて分離度合いの大きい枠組み(役員の兼任を最少限にとどめた子会社化など)を採用したり、あるいは、業績不振に陥っている他社を自社の一部門として完全に吸収し、厳しい規律の下で意識改革を図るなど、個別の事情や狙いが優先されることもあるでしょう。しかし、少なくとも中期的には、既存事業とM&Aの対象事業との関連性やシナジーの大小によって決定されるべきです。

上記の成長マトリックスを参照しながら、シナジーの大小に応じたM&Aの手法を検討してみましょう。

製品と市場の両方が「既存分野」に属する事業のM&Aであれば、あらゆる経営資産を共有してシナジーを徹底追求すべきなので、吸収合併によるワンカンパニー体制を採用するのが有効です。両組織の人事マネジメントも可能な限り融合させるべきです。事業内容がほぼ同一である新日鐵と住友金属の経営統合において合併が選択されたことは、極めて当然の帰結と言えます(合併後は新日鐵住金)。

既存の製品を「新規の顧客」に販売するため、もしくは、「新規の製品」を既存の顧客に販売するためのM&Aの場合、前者であれば例えば「(被買収企業の)海外の顧客管理ノウハウ」、後者であれば例えば「(被買収企業の)新製品の製造プロセス」を尊重しつつ、どこまでシナジーを得られるかを慎重に判断する必要があります。既存の経営資源(前者では「製品」、後者では「顧客」)を持つ買収側の企業が明確にリーダーシップを発揮することが適切ならば、被買収企業を直接の子会社として支配下に置くのが理にかなっています。武田薬品工業による米ミレニアム・ファーマシューティカルズの買収、アステラス製薬による米OSIファーマシューティカルズの買収など、製薬メーカーでは完全子会社化の手法を採用するケースが目立ちますが、これはR&Dにおける“自律性”を保証したうえでシナジーを最大限に得るため、独立した事業会社としつつ本社との関係を明確にしたものと考えられます。

R&D : 研究・開発業務、あるいは研究・開発部門のこと。Research&Developmentの略。

一方、被買収側の企業に独立性や自律性を十二分に持たせた方が、買収した経営資産のポテンシャルを最大化できるのであれば、純粋持株会社の下で既存事業と買収事業を並列の子会社として配置し、イコールパートナーとしての位置付けを与えることが望ましいでしょう。KADOKAWAとドワンゴの経営統合においては、事業規模ではKADOKAWAが圧倒的に勝っているうえ、事業分野はともにコンテンツ系と共通している以上、KADOKAWAによる子会社化も考えられたところです。しかし、将来の事業展開をイメージした場合、ネットビジネスに強いドワンゴの果たす役割が極めて大きいと判断、上下関係をつけることは相当ではないとして、純粋持ち株会社体制を選択したのではないでしょうか(統合後はKADOKAWA・DWANGO)。

製品も顧客も共通していない多角化タイプのM&Aであれば、持株会社体制による経営統合を選択するのが最も自然です。個々が独立した企業として自律的に事業を展開することが望ましいからです。この場合における持株会社は、事業ポートフォリオに「カネ」を最適配分して利益を最大化する、ファンドマネージャー的な役割を果たすことになります。このようなコングロマリット戦略をとる場合には、事業の売却も含め、ポートフォリオの機動的な入れ替えが求められます。米ゼネラル・エレクトリック(GE)では、カリスマCEOだったジャック・ウェルチが大きく育てたプラスチック事業がコモディティ化したとして、ジェフリー・イメルト(ジャック・ウェルチ引退後のGEのCEO)がこれを売却しました。このような早いサイクルでの新陳代謝をM&Aによって実現することも、成長性を維持するための1つの方策であることを経営陣は認識しておくべきでしょう。

コモディティ化 : 各社の製品の機能・品質などが均質化すること。消費者にとっては、どの会社の製品を購入しても大差がない状態。

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本ケーススタディを最後まで閲覧した方は、知識の定着度を確認するため、下の右側のボタンを押してミニテストを受けてください(ミニテストを受けない限り、本ケーススタディの閲覧履歴は記録されません)。
また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。

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