概要
株式会社木曽路(東証第一部)が展開するしゃぶしゃぶの“木曽路”の一部店舗で、“松坂牛”と称して松坂牛ではない和牛の肉を料理を提供していた。
経緯
木曽路社が2014年12月に「メニュー表示の適正化に関する第三者委員会の調査報告書」を受領するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。
<2014年>
7月17日および31日:木曽路の北新地店に対して大阪消費者センターと農林水産省近畿農政局による臨店調査が行われた。
8月5日:北新地店にて銘柄牛の偽装提供(松坂牛を用いている旨表示したメニュー表を掲げて、実際には松坂牛でない和牛を用いた食事を提供していた)があったとの報告を受ける。
8月11日:社長を委員長とする社内調査委員会が発足。
8月14日:「メニュー表示と異なった食材を使用していたことに関するお詫びとお知らせ」をリリース。
8月18日:消費者庁表示対策課の調査が開始。
9月10日:「メニュー表示の適正化に関する第三者委員会設置及び社内処分等について」をリリース。「社内調査の結果、3店舗以外には不正は発見されなかったこと」および「平成26年9月8日現在、22,490千円(1,193件)の返金があったこと」を公表した。
10月15日:消費者庁より措置命令(※)を受けた同社は「消費者庁からの不当景品類及び不当表示防止法に関する措置命令について」をリリース。
12月23日:「メニュー表示の適正化に関する第三者委員会の調査報告書」が公表された。
※ 木曽路社が行ったメニュー表示が、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること、再発防止策を講じて役員および従業員に周知徹底すること、今後同様の表示を行わないことの3点の命令を受けた。
内容・原因・改善策
上述した調査報告書によると、本件の問題点の内容とその原因および改善策は次のとおりである。
メニュー偽装
| 内容 | 「木曽路北新地店」において、平成24年8月頃から平成26年8月15日までの間、メニューにおいて、「松阪牛 入荷いたしました 木曽路が目利きした、最高級の松阪牛をお楽しみ下さい。」と記載した上で「松阪牛しゃぶしゃぶコース」と記載するなど、あたかも、記載された料理に松阪牛を使用しているかのように示す表示をしていた。しかし、消費者に提供される料理では、松阪牛ではない和牛の肉を使用していた(「木曽路神戸ハーバーランド店」「刈谷店」でも同様または類似(松坂牛ではなく佐賀牛)のメニュー偽装があった)。これらのメニュー偽装は景品表示法4条1項1号が定める優良誤認表示に該当するものであった。また、メニュー偽装により消費者の信頼を裏切ることになった。 |
| 原因 | ・食材の仕入れは各店舗の料理長の判断に委ねられており、料理長は原価を理論原価率±0.5以内に収まるようにコントロールする必要があった。もっとも、その理論原価にはロス分がほとんど考慮されておらず、そのまま提供しては見栄えに影響するほど少量の食材を前提にするケースもあり、理論原価のとおりに料理を提供することは困難であった。このような順守困難な理論原価に実際原価を収めるために、店舗ではメニュー偽装や牛肉のランク変更、牛肉の少量提供(アンダーポーション)、単価の高い銘柄牛の棚卸額の操作などの不適切な業務が行われていた。 ・料理長が「特選肉でも、良い肉であれば銘柄牛として提供しても構わない」という認識を持っていた(コンプライアンスの重要性の認識不足)。 ・松坂牛や佐賀牛の代替として食事に提供する肉は、銘柄牛ではないにしても特選肉の中でも特に良さそうな和牛の肉であり、消費者が気付くことはなかった。 ・本社の関心は売上高や原価率に偏っており、個別の食材の仕入量への関心は薄かった。本社では、各店舗の食材の仕入量と販売量を照合し、販売量に見合うだけの仕入れがなされているかを点検するような管理はされていなかった。 |
| 改善策 | ・仕入・販売実績の定期管理 ・内部監査体制の補強(増員) ・コンプライアンス意識向上策 (ア)店長・料理長対象の緊急勉強会 (イ)景品表示法についての講習 (ウ)コンプライアンス委員会の開催 など ・全レシピの見直し ・原価管理基準の見直し ・経理部による棚卸抜打ち検査 ・メニューツールの店舗作成禁止の徹底 など |
<この失敗から学ぶべきこと>
同社は今回の事件を経て2015年1月30日に、減収減益となる業績予想の修正を余儀なくされました。偽装表示で客足が遠のいたことが原因です。一度失った信頼を取り戻すのは決してたやすいことではありません。改善策を確実に遂行し、消費者から信頼してもらえるよう努力を続けることが欠かせません。
改善策の中でとりわけ注目したいのが、「仕入・販売実績の定期管理」です。社団法人日本フードサービス協会が「外食産業の信頼性向上のための自主行動計画」で「基本原則4:適切な衛生管理・品質管理のための体制整備」の1つとして「仕入・売上伝票等をクロスチェック(照合確認)する仕組みを整備すること」を示したのは2008年6月のことです。その後、2013年に阪急阪神ホテルズのメニュー偽装問題の発覚を契機として、外食業界でのメニュー偽装問題は広く社会問題にまでなりました。そして、今回の木曽路社の事件が起きました。もはや「仕入・売上伝票等のクロスチェック」(上記改善策の「仕入・販売実績の定期管理」が相当します)という仕組みの構築は、外食業界における内部統制のスタンダードの1つになったと言えます。上場企業の取締役は、このような時代の流れに敏感に対応すべきです。不祥事の未然防止措置の水準が変化したにもかかわらず何ら手を打たなかった取締役は、万が一の事態が起きた際に責任を認定されやすくなるからです。

