社外取締役の選任が急速に進む中、D&O保険への加入件数も大幅に増加している。ここ1年ほどで保険料収入が倍増した損害保険会社もあるという。こうした状況のなかクローズアップされているのが、D&O保険の保険料の負担だ。
一口に「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」と言っても、その中身は、第三者訴訟で役員が損害賠償責任を負った場合に支払われる「普通保険約款」と、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合に支払われる「株主代表訴訟補償特約(自動で付与される)」に分けられる。このうち「株主代表訴訟補償特約」は、あくまで会社の損害に対して役員が負う責任への保証であるため、保険料は役員が個人負担(保険料全体の約1割が一般的)する慣行が定着している。
第三者訴訟 : 役員の故意や重過失によって会社または役員が第三者(取引先、従業員など)に損害を与えた場合、第三者が会社法429条(役員の任務懈怠)や民法709条((役員個人の)不法行為)を根拠に役員に対して損害賠償を請求するもの。
ただ、確かに株主代表訴訟補償特約は役員の損害賠償責任を補填するものであるとはいえ、それによって結局は「会社の損害」も回復される。このため、以前から「会社が保険料を負担しても問題ないのではないか」との意見が聞かれたところだ。
株主代表訴訟補償特約の保険料を会社が負担してはならないという意見の根拠として、「役員の損害賠償責任の発生に備える保険」の保険料の会社負担を認めるということは、「役員が“安心して会社に損害を生じさせる”ことができるよう、会社が保険料を支払う」ことを許容するに等しく、それ(=会社が保険料を負担すること)自体が会社法355条に規定する「(取締役の)忠実義務違反」に抵触しかねない、というものがある。
ただ、D&O保険は犯罪行為や法令違反を認識しながら行った行為など悪意ある行為に基づき生じた損害は保険金の支払い対象外(免責)とし、通常の職務執行から生じる不可避的なリスクのみをカバーしている(2015年4月22日のニュース「責任限定契約を締結すればD&O保険は不要か」参照)。したがって、株主代表訴訟補償特約の保険料を会社が負担したからといって、役員に「会社に損害を生じさせる」インセンティブが働くとは考えにくい。
こうした中、現在政府内では、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。