昨年(2015年)夏に消費者庁(消費者委員会・消費者契約法専門調査会)から公表された消費者契約法改正に関する「中間取りまとめ」は、企業にとって規制強化につながるのではないかとの懸念を呼んだところだ(2015年9月16日のニュース「消費者契約法改正で広告への規制強化の恐れ」参照)。その後、消費者庁は改正に向けた審議を終え、昨年12月末に最終的な報告書を取りまとめたうえで、去る1月7日に安倍首相に提出したが、その内容を見ると、企業側の懸念は杞憂に終わったと言えるだろう。
消費者契約法 : 情報力や交渉力といった点で企業より弱い立場にある消費者を保護するための法律。事業者が消費者に対し契約の締結を勧誘する際に、例えば嘘を言ったり(不実告知)、都合の悪いことを知っていながら隠したり(不利益事実の不告知)といった行為があった場合、消費者は消費者契約法に基づき、事業者との契約を取り消すことができる。
「中間取りまとめ」の段階では、消費者契約法の対象となる「勧誘」の要件を見直し、「不特定の者に向けた広告等」までその範囲を広げることや、「不当条項」(消費者の利益を害することから無効とされる条項)の類型の追加(例えば「消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」などが追加の対象となっていた)まで、かなり広範な改正の方向性が示され、企業側からは、「消費者にとって不利益な事実を、広告に余すところなく書かないといけなくなるのではないか?」「これまで消費者との契約に用いていた約款の条項をことごとく見直さないといけなくなるのではないか?」といった不安の声が上がっていた。
しかし、12月末に取りまとめられた報告書を読むと、「速やかに法改正を行うべき内容」として挙げられた論点(報告書の4ページ~)の多くは、産業界も含めて大きな異論がなかった論点であり、意見が対立していた論点については、全て改正対象から外すか、あるいは、明らかに消費者の利益を害すると思われるような“極端な事例”に絞り込んで対象とする形で整理がなされている。例えば、企業側の批判が最も強かった「勧誘」要件の見直しは「現時点ではコンセンサスを得ることは困難」として改正の対象から外され(11ページの1(1))、また、契約取消しを認める場合として追加された行為類型(5ぺージの2)や、「不当条項」として追加された類型(8ページの6)も、明らかに不当性が高いと思われるごく少数の類型に限られている。
このように最終的な報告書がいわば“腰砕け”とも言えるような結論となった背景には、消費者契約法専門調査会に参加していた産業界代表の委員や同調査会のヒアリングに出席した各業界団体が、終始一貫して「中間取りまとめ」の内容の多くに反対していたことや、「中間取りまとめ」に対して提出された約2,500通の意見の中に、広範な規制が行われることに対する懸念を示す意見が多かったことがある。
元々産業界には、「私人間の契約の内容は、当事者の合意によって自由に決めることができるというのが我が国の契約ルールの大原則であり、たとえ事業者・消費者間の契約であっても、法による干渉は最小限のものにとどめられるべき」という考え方が根強い。こうした中で、消費者契約法の改正を巡る議論の過程では、消費者団体や弁護士会から「立法事実」として主張された事例の中に、一部の悪質業者の事例に過ぎないものや、実務上何ら問題が生じていないと思われるものが多かったことも、産業界の反発に火をつける格好となった。
報告書を受け、今後は消費者契約法改正の手続きが進められるが、改正が小幅なものにとどまるのが確実となったことで、企業の懸念は大方解消されたものと考えてよいだろう。契約の基本ルールを定めた民法「債権法」改正の議論(例えば2014年3月14日のニュース「民法改正で企業の契約実務は変わるか」参照)の頃からずっと続いていた「消費者保護強化」に向けた民事法のルール整備の議論についてはこれでひと段落したと言えそうだ。
ただし、報告書をよく読むと、・・・
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