昨年(2015年)10月5日に公表されたBEPS行動計画(*)の最終報告書を踏まえ、平成28年度税制改正により、日本企業に新たに「国別報告書」「マスターファイル」という文書の作成が義務付けられることになる。
「国別報告書」とは、会社や支社が存在する国ごとに収入額、税引前利益額、発生税額、納税額、有形資産、人員等の数値データを記載する文書を指す。一方、マスターファイルとは、多国籍企業グループの組織、財務、事業の概要、移転価格ポリシーなど、企業グループの基本情報を記載する文書である(このため、マスターファイルの作成に当たっては、税務対応している経理部門だけでなく、価格決定に関する意思決定機能を有する関連事業部門の参画が必須となる)。
移転価格 : 企業グループ内の取引価格のこと。例えば、日本企業が税率の低い国にある海外の販売子会社に、通常よりも低い金額で商品を卸すことにより、日本企業に生じるはずの利益を海外関連企業に移転させ、日本企業およびグループ全体の税負担を軽減することが可能になる。このため、移転価格には各国の税務当局が関心を持っている。
国別報告書とマスターファイルは自国の税務当局に提出することが求められ、提出後は「会社の意思とは無関係に」BEPS行動計画に参画している国家間で自動的に情報が相互に伝達され、各国の税務当局が保有することになる。これまで未開示であった国別の納税額の多寡が一覧で把握できるため、「自国の利益と税額が少ない」と感じた国が移転価格に関する税務調査を行い、追徴課税をしてくるリスクは高まる。上述のとおり、BEPSプロジェクトは「過度の租税回避行動」に対処するために立ちあがったものであり、真面目に納税してきた多くの日本企業からは「文書作成作業という事務負担が増えるうえに、移転価格に関する税務調査が多発し、日本企業にとっては良いことは何もない」という不満の声が上がっている。
もっとも、国別報告書、マスターファイルの作成が義務付けられるのは、「連結グループ収入1,000億円以上の多国籍企業グループ」に限られる。ところが、中国においては、連結グループ収入金額が1,000億円未満であっても、両文書の作成が求められるケースが出て来る可能性がある。・・・
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