過労で自殺した肥後銀行(熊本市)の男性行員の妻が同社の「株主」となり、同行を相手取り熊本地裁に株主代表訴訟を起こした(2016年9月7日付、熊本地裁)というニュースに衝撃を覚えた役員も少なくないだろう。この一件は、過労死の責任を株主代表訴訟で追及する時代に入ったことを意味するからだ。しかも本件を巡っては、妻を含む遺族側が2014年6月に「肥後銀行」に対して損害賠償を求めて提訴し同行が敗訴(同年10月判決)、同行は慰謝料など1億2,886万円を遺族側に支払っていた。訴訟の対象が「会社」か「役員」かという違いはあるとはいえ、既に1億を超える賠償金を支払ったにもかかわらず株主代表訴訟が提起されたということに疑問を抱く向きもあろう(妻側は、株主代表訴訟を提起した理由として、「役員が過労死を防ぐ体制作りを怠ったことが原因で、会社が賠償金を支出することになり、会社への信用にも傷をつけた」ことを挙げている)。
本件では、妻は男性が保有していた株式を「相続」により取得しているが、会社法上は6か月以上株式を保有している株主であれば誰でも株主代表訴訟を提起することができる(公開会社の場合。非公開会社の場合、保有期間の要件はなく、単に株主であればよい)。今後、遺族が株式市場で株式を購入し、6か月経つのを待って株主代表訴訟を提起してくることもあり得る。
公開会社: (定款で)株式に譲渡制限を付していない会社のこと(会社法2条5号)。発行する株式のうち1株でも譲渡制限を付していなければ、公開会社となる。
では、役員としてはこうしたリスクに対しいかに備えるべきだろうか?
株主代表訴訟というとまず思い浮かぶのがD&O保険だが、当フォーラムの調査によると、過労死が原因で遺族(かつ株主)から提起された株主代表訴訟を保険金の支払い対象とするD&O保険を販売している保険会社は2社しかない。しかも、・・・
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