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一部新聞で誤報も・・・手形割引料を下請事業者に負担させることの是非

最近、安倍首相が「下請取引の条件改善に全力で取り組む」旨の発言をしている。下請事業者との取引を抱える上場企業の役員としては、自社への影響が気になるところだろう。

親事業者と下請事業者の取引に関するルールとして「下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)」があるが、今回論点の1つとなっているのが、「手形割引料」をどちら(親事業者or下請事業者)が負担するのかという点だ。

親事業者 : 親事業者の定義は取引内容や資本金の額によって異なる。例えば、資本金3億円超の会社が物品の製造を発注する場合、受注者が資本金3億円以下(個人も含む)であれば、発注者は親事業者として扱われる。また、資本金1千万円超3億円以下の会社が物品の製造を発注する場合、受注者が資本金1千万円以下(個人を含む)であれば、発注者は親事業者として扱われる。

下請法では、下請代金の支払期日は、「親事業者が下請事業者から給付を受領した日から起算して60日の期間内」において、かつ「出来る限り短い期間内」に定められなければならない、とされている(下請法2条の2)。代金を支払う手段は「現金」または「振込み」が原則だが、「割引を受けることが困難でない」という条件付きで「手形」による支払いも許容されている(下請法4条2項2号)。ここでいう「手形が割引困難かどうか」の基準として、公正取引委員会および中小企業庁は、当該手形のサイトが120日(繊維製品に係る下請取引の場合は90日。以下、同じ)超かどうか、ということを掲げている。手形のサイトが120日を超えると、一般の金融機関で割引を受けることは困難であるため、下請事業者が資金繰りに困ってしまうからだ。この手形サイトの“120日ルール”は、1966年に公正取引委員会と中小企業庁が定めた親事業者に指導を行う際の運用ルール「下請代金の支払手形のサイト短縮について」を根拠としている。古いルールではあるが、最近、支払手形に代わって増加している電子記録債権についても、それを下請代金の支払手段として認めるかどうかは、手形と同様に120日超のサイトかどうかがボーダーラインとなっている(公正取引委員会「電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針」参照)。

割引 : 手形を、支払期日までに売却して、現金化すること
手形のサイト : 手形の振出日から現金化されるまでの期間のこと。

もっとも、サイトが120日以内の手形を受け取ったとしても、資金繰りの観点から、手形を120日間保有し続けずに(途中で)金融機関で割引(手形の売却)を受ける下請事業者は少なくない。この場合、手形割引時に金融機関に支払う割引料は、下請事業者が負担するのが通常だ。ただ、これを親事業者側から見ると、代金の支払いは120日後であることには変わりはないため(手形割引時に下請事業者に(割引後の)代金を支払うのは金融機関)、実質的には、親事業者は下請事業者の割引料負担の下、120日間支払いを免れ、その間、代金相当額の資金を運用できている格好となる。こうした状況に対しては、当然ながら下請事業者から不満の声が上がっていたところ。特に下請事業者は原材料等の仕入れを現金で行うケースが多く、人件費などの支払いも代金の受領に先行することから、受け取った手形のサイトが長期であれば資金繰りに苦慮することになるため、割引料を負担してでも代金を早期に得なければならないという実態がある。

割引料 : 金利に相当するもの。ただし、会計上は、手形売却の対価と考え、手形売却損として扱われる。

こうした中、政府官邸は「下請等中小企業の取引条件改善に関する関係府省等連絡会議」を設置、この問題について調査・議論を進めてきた。そして2016年8月19日に「今後の取引条件の改善対策について」がまとめられ、「現金払いを基本とし、支払手段によって下請事業者が受け取る実質的な下請代金に差が生じないよう、現金化にかかるコスト(割引手数料等)の負担について、双方で十分に協議することを促す方策を検討する」との方針が示されている。その理由として、「一般に、親事業者の方が企業信用が高く、また取引先金融機関の資金調達コストが低いため、資金調達や現金化に係るコストが低くなる傾向にある。このため、現金化コストを親事業者負担とすることで、サプライチェーン全体のコスト低下につながる可能性がある」ことが挙げられている。

これを受け経済産業省は「未来志向型の取引慣行に向けて」と題する下請事業者への支払条件の改善方針を先月(2016年9月)打ち出している。これについて一部の新聞では、あたかも下請法を改正したうえで、上述した割引困難手形に関する運用ルールである“120日ルール”を「60日」に短縮し、さらに、親事業者に割引手数料の負担を求めるよう公正取引委員会が通達が改正するかのような報道がある。しかし、当フォーラムの取材によると、・・・

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