公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)
「会計不正」は、経営陣が主導した場合はもちろんのこと、たとえ経営陣が関与していなくても、それを防ぐことができなかったという点で経営陣の責任は免れないが、最近は会計監査人(監査法人)や監査役の責任も追及する声が以前より高まっている。
こうしたなか重要性が高まっているのが、監査役と会計監査人のコミュニケーションだ。会社法は、会計監査人に対し取締役の不正行為や法令違反を監査役に報告することを求めるとともに、監査役には会計監査人に対し監査に関する報告を求める権限を認めている(会社法397条)。また、日本公認会計士協会、日本監査役協会も、両者がどのようなコミュニケーションや連携を図るべきかなどについてそれぞれ指針を公表している(日本公認会計士協会の基準はこちら、日本監査役協会の基準はこちら)。
実際、両者が適切なコミュニケーションを図っていれば防げた、あるいは早期に発見できたという会計不正は少なくないと思われる。そもそも会計監査人を設置する理由は、監査役が負うべき監査の責任のうち「会計部分」を、その専門性を踏まえ、会計専門家(=会計監査人)に委嘱・分離するということにあるため、本来であれば両者は緊密に連携して監査を実施すべきである。しかし現実には、ごく形式的なコミュニケーション(例えば定例の報告会等で、監査法人が用意したアジェンダを読み進めて終わり――etc.)に留まっているケースが多いのではないだろうか。
監査役と会計監査人が適切なコミュニケーションを図るべき理由としてまず挙げられるのが、一般的に、会計監査人は書類上からは見えない「社内情勢」や「社内力学」などについては疎い場合が多いということだ。逆に、監査役は会計監査上発見されたエラーについては、重要性が高いとして報告があったもの以外知らない場合がほとんどである。つまり、両者にはそれぞれ“情報格差”が存在していることになる。この情報格差を埋めることで、両者ともより深い監査を実施することが可能になる。
また、監査の状況や入手した情報を共有することで、お互いの監査の効率化を図ることもできる。監査役が行う会計監査は「企業人」の視点から総括的・重点的な監査を行うものとされているが(日本監査役協会発行 監査役監査実施要領平成28年5月20日版、第5章1項Ⅰ-2)、実際に実施している監査の中には、会計監査人が既に行っている監査と類似した内容のものがあることも珍しくなく、また、監査役と会計監査人が同一の担当者に同じことをヒアリングしている場合もある。両者があえて別々に同じことを繰り返すことも監査上有効となり得る場合もあるが、こうした意図がない場合には単に非効率でしかない。そのような非効率が解消すれば、監査法人の工数削減に繋がり、監査報酬を削減しつつ、より深度のある監査が可能になるほか、例えば、削減された時間を利用した(独立性を阻害しない範囲での)コンサルティングなど、会社にとってプラスとなるサービス提供を受けられることもある。
では、監査役と会計監査人は具体的にどのようにコミュニケーションを図るべきだろうか。これは「量」と「質」の両面から考える必要がある。
まず「量」の面だが、・・・
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