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独禁法見直し案、「防御権」なきまま課徴金引上げと当局の権限強化も

市場規模の拡大が見込めない業種に属する企業が手を染めがちな経済犯罪の一つがカルテルだ。カルテルは自由競争を阻害するため、入札談合とともに独占禁止法上「不当な取引制限」として禁止されており、同法に違反した事業者には、公正取引委員会から「違反行為の拘束・効果が及んだ商品・役務の売上額(最長3年間)」に最大10%を乗じた課徴金が課される。この課徴金は違反事業者に対する経済的制裁であり、かつ、犯罪行為を抑止するという目的も有する。このため、その金額も決して低額ではなく、企業の利益に与える影響も小さくない。例えば今年(2017年)の2月にカルテル規制に違反したとして課徴金を課された消防救急デジタル無線機器の製造販売業者4社の事例では、課徴金は合計約63億円であった(詳細はこちらを参照)。ちなみに、これまでの課徴金納付命令の最高額は約270億円(2010年11月、対象社は5社)で、1社に対する最高額は約131億円である。

カルテル : 事業者または業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為

このように決して低額ではない独占禁止法違反の課徴金について、対象範囲を広げるとともに、金額を引き上げるための法改正を目指す動きがある。これは、現行の課徴金算定方式はいくつかの問題を抱えているからだ。

第一に、課徴金算定方式が硬直的であるという点が挙げられる。例えば、企業グループ単位で違反行為対象事業を行っていたとしても、違反行為に参加したのがカルテルの対象商品や役務の売上額のない「持株会社」のみである場合には、課徴金を課すことができない。また、カルテルの対象商品や役務の売上額が違反行為の終了後に生じる場合にもやはり課徴金を課すことができない。第二に、公正取引委員会の調査に協力するインセンティブが働きにくいということがある。現行の課徴金制度では、違反企業はその違反内容を公正取引委員会に自主的に報告すれば課徴金が減免されるが(新用語・難解用語辞典「リニエンシー」参照)、これには公正取引委員会の調査への協力態様は問われないことから、違反企業には公正取引委員会の調査に対して必要最低限以上の調査協力を行おうというインセンティブが働かない。一方、課徴金減免制度が適用されない違反企業は、公正取引委員会の調査に協力しても課徴金の額が減じられることはなく、逆に調査への協力を拒否したり妨害を行ったりしたとしても課徴金の額が増額されることもない。こういった公正取引委員会の調査に対する協力へのインセンティブや調査妨害へのディスインセンティブがないことがカルテル規制の実効性を弱めていると言える。

ディスインセンティブ : インセンティブの対語で、「やる気を阻害させる要因」を指す。

こうした中、公正取引委員会の独占禁止法研究会(座長:岸井大太郎 法政大学法学部教授)は現行の課徴金制度が抱える問題点を解決するため、法改正に向けた検討を進めてきたが、本日(2017年4月25日)、・・・

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