民法「債権法」の大規模な改正作業が進められている。改正項目の多くは蓄積した判例や学説を明文化するものであるが、企業に影響を与える項目も少なくない。その一つが「短期消滅時効」制度の廃止だ。
現行民法では、債権一般の消滅時効の期間を「10年間」と規定する一方、これとは別に、例えば医師の診療に関する債権は3年、弁護士の職務に関する債権は2年、飲食店の代金債権は1年といった“短期”の消滅時効を定めている。しかし、債権によって消滅時効の期間を分けることに合理性はなく、分かりにくいとの批判がある。そこで、これらの区分を廃止し、一般の消滅時効に統合する方向で、民法の見直しが検討されてきた。
また、一般の消滅時効についても10年間は長すぎるとの指摘から、5年に短縮される方向。つまり、民法上の消滅時効の期間を一律に5年にするということである。
この改正は日々反復継続して大量の取引を行う企業への影響が大きい。例えば小売店は、民法上「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権は2年間行使しないときは消滅する(民法第173条2号)」と規定されていることを前提に、商品の仕入先に対する買掛金の支払いにおいては「2年間」取引の記録を保存している。また、鉄道事業者は、「運送賃に係る債権は1年間行使しないときは消滅する(民法第174条3号)」ことを前提に、1年間の記録を保存するシステムを設けている。
改正法が施行された場合には、システムを変更するコストと手間が生じるとともに、消滅時効の期間が長くなることで、事務負担の増加を招くことは間違いない。消滅時効の改正は影響が大きいため、実際の施行はしばらく先となりそうだが、大量の債権・債務を扱う企業は、短期消滅時効の廃止を織り込んだ債権管理システムへの変更を視野に入れておくべきだろう。
なお、短期消滅時効は民法以外の法律で独自に定められているケースもあるが(例えば、保険料請求の消滅時効は、保険法95条2項により1年間とされている)、各法律ごとに民法と異なる期間が定められた理由が存在するため、民法改正はこうした特別法には影響しない可能性が高い。