契約の基本ルールを定めた民法「債権法」の大改正作業が大詰めを迎えている。今回の改正では、消滅時効期間の統一・短期化によるシステム変更対応や(3月10日のニュース「短期消滅時効廃止で、債権管理システムの変更が必要に」参照)、民法404条で年5%と定められている法定利率の変動制への移行といったテクニカルな改正とともに、「契約当事者の意思の尊重」という民法の根本的な考え方を改めて明確にする規定も新設される。
もともと民法では「私的自治の原則」という考え方がとられており、信義誠実の原則(民法1条2項)や公序良俗(民法90条)に反しない限り、基本的に契約当事者が自由に契約内容を定めることができる。つまり、当事者が契約で定めたことが最大限尊重されるということであり、仮に債務が履行されなかった場合の損害賠償責任の負担は、当事者がどのように契約内容を定めていたかに左右される。
現行民法の下での損害賠償請求では、「債務者の責めに帰すべき事由(帰責性)」(民法第415条)が存在するかどうかが争われてきたように(債務者は帰責性があると認められれれば損害賠償責任を負い、逆に帰責性がなければ損害賠償責任も負わない)、「責めに帰すべき事由があったか否か」は「損害賠償責任があるか否か」を認定する際の重要な手がかりであり、それは結局のところ「契約」で債務者がどのような債務を負うと定めていたかによる。
今回の民法改正は、上述のようなこれまで行われてきた契約実務を明文化するものであり、具体的には、「債務不履行が『契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰することができない事由』である場合には、損害賠償の責任を負わない」との規定が新設される見込みとなっている。
この改正が企業の契約実務に与える影響だが、たとえ「これまで行われてきた契約実務」を明文化するだけとはいえ、現行民法にはなかった新たな規定ができることで、紛争が発生した局面においては「契約の当事者が何を定めたか」が一層問われることになるだろう。
「契約の趣旨に照らして」という文言のとおり、今回の改正は、当事者のリスク分担に関するあらゆる事項を契約書に記すことを意図するものではないと考えられているが、企業としては、紛争が生じた場合に備え、少なくとも契約で「何について合意したのか」を明確にするとともに、きちんと証拠として文書で残しておくことがこれまで以上に求められることになろう。