2011年3月11日の東日本大震災から今日で3年が経過した。大震災の後、多くの企業はBCP(事業継続計画)を定め、大震災のような予期し得ない事態への準備を進めてきたが、BCPとともに企業が対応を迫られる可能性のあるのが、民法の改正により新設が見込まれる「事情変更の法理」だ。
「事情変更の法理」とは、契約締結の際に前提とした事情に著しく大きな変化があった場合に、契約の改訂や解除を認めるというもの。大震災だけでなく、急激な物価変動等も対象として想定される。今回の民法改正では、こうした事情の変化があった場合に、「契約の解除」を認める方向で議論が進められている。
事情変更の法理が存在すること自体は学界・実務界を問わず広く認められてきたが、最高裁判所で実際にこの法理が適用されて紛争の解決がなされた事例はない。本来、契約は守られるべきものであり、この法理は「想定し難い極めて例外的な場合」にのみ適用されると考えられているからである。このため、先の大震災に起因して契約解除を認める際には、被災者生活再建支援法といった震災立法や個別の交渉により対処がなされたようだ。
しかし、実際に適用される場合は限られるとしても、事情変更の法理が民法に明文化されることの意味は大きい。明文化により、BtoB、BtoCいずれの取引であるかを問わず、契約を解除したい側はたとえ些細な変化であっても「“著しい変更”があった」と主張することができるようになる。この結果、想定外の事態が生じた場合には安易にこの法理が持ちだされる可能性が高い。そうなれば、契約自体が不安定なものとなり、企業活動への影響は決して小さくないだろう。
今回の民法改正は110年ぶりの大改正であることから、時間をかけて議論が行われており、実際に「事情変更の法理」が民法に規定されるのはしばらく先になりそうだが、企業としては、改正を見越して、少なくとも今後締結する契約からは、安易な主張を回避するための手当てをしておきたいところだ。具体的には、予期し得ない事態が生じた場合への対処法を契約書に定めておくことが考えられる。例えば、「契約締結時に予見を締結していなかった事態が生じた場合には、双方で交渉するものとする」といった文言を契約書に設けることにより、不要な紛争を回避することが可能となる。既に締結している契約についても、必要に応じて契約条項の見直しを検討すべきだろう。
政府の中央防災会議によると、首都圏でM7級の直下型地震が起こった場合の経済的被害は95兆円に達するという。発生確率は今後30年で70%とも言われており、いつその時が来てもおかしくない。役員としては、いざという時に備え、担当部門に「事情変更の法理」を念頭に置いた契約書の作成を呼び掛けておきたい。