最高裁はこのほど、親会社の取締役に、子会社の監督責任を問う判決を下した(平成24(受)1600)。今回の会社法改正では、「親会社の取締役は子会社業務の監督を職務とする」旨の規定を会社法に置くとの改正が見送られた経緯があるだけに、この最高裁判決は波紋を呼ぶ可能性がある。この最高裁判決を受け、親会社の取締役は、これまで以上に、子会社に対して適切な指導を行うことが求められそうだ。
本事案は、福岡魚市場の株主である被上告人(株主)が、同社の代表取締役だった上告人(取締役)らに対し、同社の100%子会社に対する不正融資等により同社が18億8,000万円の損害を被ったとして、旧商法267条3項に基づき、福岡魚市場への損害賠償の支払いを求めた株主代表訴訟である。
同社の子会社は不正な会計処理等により経営破たんしたが、最高裁は、親会社である福岡魚市場の取締役から見て、子会社の在庫状況や借入金の増加、帳簿上の商品単価、数量等を総合すると“非正常な取引”が行われていたことは経営判断上明らかであったなどと指摘。親会社の取締役の忠実義務ないし善管注意義務違反があったことは明らかであるとし、親会社の取締役らへの損害賠償請求を容認している。
従来、親会社取締役の子会社等に対する監督責任は「原則なし」というのがこれまでの判例の立場だった。例えば、大手証券会社の株主である原告らが、同社の米国における100%孫会社が米国証券取引委員会規則違反を理由に課徴金を課されたことについて、同社の取締役らの責任を追及した株主代表訴訟では、東京地裁は「親会社の取締役は、特段の事情がない限り、子会社の取締役の業務執行の結果、子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害が生じた場合でも直ちに任務懈怠の責任を負うわけではない」とし、親会社取締役に子会社を監督する責任は原則として存在しないと判示している(平成9年(ワ)9480号)。
この点については、現在国会に提出されている「会社法の一部を改正する法律案」の議論の中で、法務省の法制審議会会社法制部会が、親会社取締役による子会社業務の監督を職務とする旨の規定を会社法に置くかどうか検討を行ったが、企業側の反対により、最終的には改正を見送っている。今回の最高裁の判決は、会社法改正で見送られた内容を実質的に実現するものとなる可能性もあり、注目される。
会社法改正案では、親会社の株主がその子会社の取締役等の責任を追及する訴えを提起することができる「多重代表訴訟制度」が創設されるが、同制度は濫訴になるのではといった企業側の懸念に配慮し、提訴できるのは「親会社の発行済み株式を1%以上所有する株主」に限られるとともに、提訴される子会社も、「親会社が保有する株式の帳簿価格が親会社自身の総資産の5分の1を超える子会社」とされるなど、適用範囲はかなり限定されている。このため、多重代表訴訟の対象となる子会社はかなり少ないと予想される一方で、今回の判決は、多重代表訴訟制度の適用対象外の子会社についても、株主代表訴訟により親会社の取締役に対して監督責任を問うことができるという点、親会社の取締役としては留意しておくべき判決と言えるだろう。