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独禁法上の秘匿特権、「法定」の要否巡り導入賛成派の中でも意見割れる

導入から約40年間が経過した独占禁止法の課徴金制度の強化に向けた議論が進む中(2017年4月25日のニュース『独禁法見直し案、「防御権」なきまま課徴金引上げと当局の権限強化も』参照)、「弁護士・依頼者間秘匿特権」の導入を巡り、賛成派の間でも意見が割れている実態が明らかになった。

弁護士・依頼者秘匿特権(以下、秘匿特権)とは、事業者が「弁護士と事業者の間のやりとりの内容」を公正取引委員会に開示することを拒む権利のこと。産業界からは、課徴金制度の強化と引き換えに、いわば事業者にとっての「防御権」と言える秘匿特権を認めるべきとの声がかねてから聞かれたところだ。

この点について、2016年2月から独禁法違反に対する課徴金制度のあり方について検討してきた公正取引委員会の「独占禁止法研究会」が2017年4月25日に公表した「独占禁止法研究会報告書」では、「我が国の現行法体系上秘匿特権を認める規定はなく、判例上もこれを認めたものがない」ことを理由に、秘匿特権を法律上規定することについて「現時点では適当ではない」としつつも、下記のように「“運用”において秘匿特権に配慮することが適当」という煮え切らない意見が示されていた(2017年4月25日のニュース『独禁法見直し案、「防御権」なきまま課徴金引上げと当局の権限強化も』参照)。

弁護士とその依頼者との間における一定のコミュニケーションについて、当該依頼者が調査当局に対する開示を拒むこと等ができるという、いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権(以下「秘匿特権」という。)が認められていないことにより、事業者に現実に不利益が発生しているという具体的事実は確認できなかった
一方、今回の見直しにより、課徴金減免制度が拡充された場合には、課徴金減免申請を行うために弁護士に相談するニーズがより高まると考えられるため、新たな課徴金減免制度をより機能させる観点から、公正取引委員会は、運用において、新たな課徴金減免制度の利用に係る弁護士とその依頼者(事業者)との間のコミュニケーションに限定して、実態解明機能を損なわない範囲において、証拠隠滅等の弊害防止措置を併せて整備することを前提に、秘匿特権に配慮することが適当である。

上記報告書では6月30日までパブリックコメントを求めていたが、このほど(2017年8月8日)パブリックコメントとして寄せられた意見の詳細をまとめた「課徴金制度の見直し等に係る意見募集に対して寄せられた意見について」が公正取引委員会から公表されている。これによると、消費者団体や主婦連合会などは秘匿特権に対し、下記のように「企業に秘匿特権などの防御権を認めると行政機関の調査が不十分となり、消費者利益が害されかねない」として反対の立場を表明している。

事業者団体等から「企業の防御権を強化すべき」との主張がありますが、これによって実態解明に支障が出ることが強く懸念されます。調査権限の強さとのバランスを考慮せずに、違反企業の手続保障を強化すれば、行政機関はしっかりと調査を行えなくなる可能性があり、そのことにより市場の回復が遅れたり不十分であることは消費者利益の侵害です。「防御権」のような制度の導入には慎重であるべきであり、法定化することに反対です。【主婦連合会】

一方、日本経済団体連合会、日本弁護士連合会、日本商工会議所、東京商工会議所等は防御権の導入に賛成の意見を表明している。

秘匿特権を巡り、消費者側の意見と企業側の意見が真っ向から対立するのは予想どおりと言えるが、企業を含む秘匿特権の導入賛成派も“一枚岩”ではない。・・・

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