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副業先での労働時間を通算しない案が浮上

働き方改革の一環として副業・兼業の解禁に踏み出す企業が増えてきた。政府も「働き方改革実行計画」(2017年3月28日の働き方改革実現会議で決定)の中で、副業や兼業は、労働者にとってワークライフバランスの充実、所得の増加、起業や第2の人生への準備に資するばかりでなく、企業にとっても新たな技術の開発、オープン・イノベーションに資するものであるとして、副業・兼業の普及を後押しする姿勢を打ち出している。

オープン・イノベーション:自社のみならず、他社、大学、自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やサービス、アイデア・ノウハウ、情報・データなどを取り込み、革新的なビジネスモデルや製品・サービスなどを開発すること。

働き方改革実行計画を受け厚生労働省に設置された「柔軟な働き方に関する検討会」は2018年1月、副業・兼業について、企業や労働者が現行の法令の下でどのような事項に留意すべきかをまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表したが、同省はこれにあわせてモデル就業規則も改定、それまで労働者に「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」を遵守させることとしていた規定を削除し、新たに次のような規定を新設している。

新モデル就業規則(2018年1月改定)

(副業・兼業)
第68条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

 

副業についてのスタンスが「原則禁止」から「原則OK」へと180度転換した点は注目に値する。

もっとも、「モデル就業規則」は単なる“例”に過ぎず、これと同じでなければならないという縛りは一切ない。実務上は各社の実情に応じて就業規則が作成されており、モデル就業規則が改訂されたからといって、副業を原則OKとする企業が直ちに急増するということにはならないだろう。モデル就業規則が改定されたにもかかわらず、いまだ従業員の副業解禁を躊躇している企業が少なくないのは、副業を認めると、企業は以下のようなリスクにさらされるからだ(副業・兼業の促進に関するガイドラインの「1 副業・兼業の現状」の(2))。

① 自社での業務がおろそかになるリスク
② 情報漏洩のリスク
③ 競業・利益相反になるリスク
④ 副業に係る就業時間や健康管理の取扱いのルール違反を犯すリスク

このうち④は、そもそも労働基準法の現在の解釈によると「ルール違反をしないための管理が極めて困難」になる(その理由については後述)ということに端を発している。この点について詳しく説明しよう。まず、労働基準法は38条で次のように定めている。

労働基準法38条
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については 通算する。

同法38条について、厚生労働省が公表している昭和23年5月14日 基発第769号(局長通達)では『「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。』とされている。この解釈に基づき、従業員が複数の会社(事業主)で労働する場合は、労働基準法上、労働時間を通算(以下、「通算」とは各事業主における労働時間の通算を意味することとする)するという実務が行われている。

労働基準法では、労働時間が「原則として1日8時間or週40時間」を超えると残業代(法定割増賃金)の支払いが必要になるとしているが、「通算」が必要だとすると、事業主Aの下で雇用契約に基づき働いていた労働者が、その後、別の事業主Bとも雇用契約を締結した場合、割増賃金の支払い義務者は果たして誰になるのかという問題が生じる。例えばAの所定労働時間が1日5時間であり、Bの所定労働時間が1日4時間であったとしよう。両者の所定労働時間を足すと9時間となり、「1日8時間」という上限を1時間超えてしまうが、この場合、AとBのどちらが割増賃金を支払うのかが問題になる。

結論から言えば、・・・

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