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休職期間満了時に病気が治癒しなかった従業員の解雇の是非

政府が推進する「働き方改革」の目的の一つには、長時間労働の抑制による健康被害の防止があるが、従業員数の多い上場企業では、どうしても一定割合は心身の不調に陥る者が出て来る。心身の不調に陥った従業員に企業がどのように向き合うのかは従業員の労働のモチベーションにも大きな影響を及ぼす。そこからは「従業員に優しい会社かどうか」という企業体質が透けて見えるからだ。近年は、伊藤忠商事のように、柔軟な勤務・休暇制度を整備することなどにより、がんと仕事の両立支援を打ち出している企業もある(伊藤忠商事の取り組みはこちら)。

とはいえ、役務を全く提供できない状態にある従業員を雇用し続けることも企業にとっては難しいという現実がある。労働契約は「労働者が労務を提供し、これに対し使用者が賃金を支払う」という“双務契約”であるため、契約当事者の一方がその債務を履行できないのであれば、他方の当事者はその契約を解除することができる(なお、現行民法543条ただし書きでは、履行不能による契約解除の要件として「債務者の責めに帰すことができない事由」がないことを求めており(=その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものである場合、債権者は契約を解除できない)、この点がしばしば紛争のきっかけとなってきたが、改正民法(2020年4月1日施行)542条第1項では、こうした事由の有無を問わずに履行不能を理由に契約解除ができる旨を明文化している)。したがって、労働者が労務を提供できない状態になった場合、使用者は労働契約を解除(=解雇)できると考えられている。

もっとも、労働者が一定期間を経過すれば再び働けるようになる可能性がある場合、その一定期間、解雇を“猶予”する「休職制度」を就業規則で設けている企業は多い(労働基準法や労働契約法には休職に関する規定は存在しないため、休職制度を設けることは法的な義務ではなく、あくまで使用者の任意)。ただし、休職制度を利用しても、所定の休職期間が満了した時点で病気等が治癒しなかった場合、その時にこそ労働契約が解除(この場合、一般的には「解雇」ではなく「自動退職」という位置付け)されることになる。そこで問題になるのが、「治癒」とは具体的にどういう状態を指すのかということだ。・・・

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