現行会社法では開催できない「場所の定めのない株主総会」、いわゆるバーチャルオンリー株主総会を開催することを上場会社に認める「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」(以下、改正産競法)案の審議が遅れている。改正産競法案は2021年2月5日に閣議決定され、衆議院に提出されたものの、ようやく5月20日に衆議院の本会議で可決され、参議院に送付された(改正産競法については2021年2月8日のニュース「バーチャルオンリー総会が事実上恒久化へ 企業はどう運営する?」を参照)。審議の途中で新旧対照表等の一部に誤りがあったことが発覚、正誤表で対応することになったものの、審議の遅れの一因となったようだ。今後、参議院の本会議での可決を経て成立することとなる。
バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされている。
産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。
バーチャルオンリー株主総会を開催するためには、それが経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けることが条件となるが、法律が成立していない以上、両大臣の確認の前提となる要件が示されている経済産業省令・法務省令も当然ながら公表されていない。東証に上場する3月決算会社の定時株主総会は最も早いケースでは2021年5月28日に開催される。このように定時株主総会を早期に開催する上場会社では既に「株主総会の場所を定めた」株主総会招集通知(以下、招集通知)の発送が始まっている(招集通知は株主総会の日の2週間前までに発送しなければならず(会社法299条1項)、2021年3月1日より東証上場会社は株主総会の日の3週間前までに招集通知等株主総会資料をウェブ開示するよう努める必要がある(努力義務))。また、早期に開催しない場合でも招集通知の差し替えはほぼ間に合わない時期に入っているため、3月決算の上場会社が今定時株主総会をバーチャルオンリー株主総会とするのはスケジュール的に相当困難になったと言わざるを得ない。実際、東証の調査によると、3月決算の上場会社で定時株主総会をバーチャルオンリー株主総会として開催する予定としているのはガーラ(2021年6月26日開催予定)の1社のみに過ぎない(2021年5月16日時点の調査結果であり、今後の更新により社数が変動する可能性がある)。
もっとも、3月決算上場会社の中には、①株主総会までに改正産競法が成立し、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能にする改正産競法(第三章第四節)が施行されることと、②自社が開催しようとしているバーチャルオンリー株主総会が経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて経済産業大臣および法務大臣の確認を受けることを条件として、今定時株主総会で定款変更を行うことを議案に掲げるところも出てきている(下表参照)。・・・
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