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関西スーパーの臨時株主総会で改めて注目される総会検査役の役割

新聞等でも報じられているとおり、関西スーパーマーケット(以下、関西スーパー)を巡ってエイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2O)グループとオーケー(非上場)が争奪戦を繰り広げていたが、2021年10月29日に開催された関西スーパーの臨時株主総会で、同社とH2Oグループの経営統合が僅差で可決された。これにより、関西スーパーの争奪戦には幕が下りたように見えたが、同総会での議決権行使は実は「僅差で否決」であったのではないかとの疑義が生じていることが判明した。

11月8日にオーケーが公表した「関西スーパー様の臨時株主総会における議決権行使の集計に係る疑義の判明について」とのリリースによると、本件の経緯は以下のとおり。

関西スーパーがH2Oグループとの経営統合を諮った臨時株主総会では、オーケーが事前に総会検査役の選任を裁判所に申し立てていた。当該臨時株主総会前の議決権行使および関西スーパーが勧誘した委任状による議決権行使によっては結果が判断できないほどの僅差の状況の中、オーケーが選任を申し立てた総会検査役の立会いのもと開催された臨時株主総会では、議案に係る質疑応答が終了した後、午後1時40分頃から議場を閉鎖のうえ、マークシートによる投票が行われることとなった。マークシートには「賛成・反対・棄権のいずれにもご記入がない場合は、棄権として集計いたします。」と明記されており、臨時株主総会の議長も再三にわたり「マークのご記入のない投票用紙をご提出いただいた場合は、棄権としてお取り扱いいたします。」と注意を呼び掛けていた。午後1時55分頃、マークシートの回収が完了したため議長は議場閉鎖を解除するとともに、午後3時まで休憩に入ると宣言した。午後2時頃より、臨時株主総会の会場横の集計作業室では株式事務を取り扱う証券代行会社等の担当者によりマークシートの集計作業が行われ、午後2時50分頃()に集計作業が完了した。結果は、本経営統合に係る議案が僅差で「否決」となっており、その集計結果は総会検査役も午後2時57分頃に確認した。

総会検査役 : 公正中立の立場で株主総会の招集の手続および決議の方法を調査する役目を担う会社法上の機関。

 総会検査役は関西スーパーの指摘を受け、集計作業完了時を午後3時10分に修正した報告書を神戸地方裁判所に再提出している。

議場では午後3時頃に議長から「集計が間に合わないこと、非常に僅差であり慎重を期すため休憩時間を午後4時まで延長する」旨がアナウンスされた。そして午後4時10分頃に臨時株主総会が再開され、議長より、本経営統合に係る議案が僅差で「可決」されたものと報告があり、臨時株主総会は終了となった。

ここで、総会検査役も確認したはずの「僅差で否決」がなぜ「僅差で可決」に変更されたのかという疑問が当然生じる。実は、午後3時45分頃になり、議場に戻っていた総会検査役は関西スーパーの代理人弁護士から「棄権した株主の議決権を賛成として取り扱うこととした」との説明を受けていた。関西スーパーの代理人弁護士によると、「ある株主様が本来『賛成』する意図だったにもかかわらずマークシートを白紙で提出してしまった()ため、自身の議決権行使がどのように扱われるのか確認したい旨の申し出が午後3時30分頃にあったとの説明を受け」たことがその理由だという。しかし、マークシートには「賛成・反対・棄権のいずれにもご記入がない場合は、棄権として集計いたします。」と明記されており、臨時株主総会の議長も再三にわたり「マークのご記入のない投票用紙をご提出いただいた場合は、棄権としてお取り扱いいたします。」と注意を呼び掛けていた。白紙で提出されたマークシートのうち一部を「棄権」から「賛成」に集計し直したことにより投票結果が「僅差で否決」から「僅差で可決」に変わったことについては、議場にいる出席株主に対して一切説明されないまま、臨時株主総会は閉会となった。

 報道によると、当該株主は事前に行った賛成の意思表示を維持するためにはマークシートを「白紙で提出」(棄権)するのが適切と判断した模様。これは当該株主が株主総会の場における「棄権」の効果を誤解したものと言える。実際は、議決権の事前行使をしていても、株主総会の場における投票結果により上書きされる。

これに対してオーケーは2021年11月9日、次のように主張し、関西スーパーとH2Oグループのイズミヤおよび阪急オアシスとの間の各株式交換の差止めを求めて仮処分の申立てを神戸地方裁判所に行った(オーケーのリリースはこちら)。

① 上場企業における公正な株主総会の運営の在り方として、投票を締め切った後に特定の株主の投票内容のみを自社に有利に変更させること自体決してあってはならないこと
② 関西スーパー様による総会検査役に対する説明の真偽は確かめようがない上に、仮にその説明のとおりに、ある株主の方が本来は「賛成」する意図を有していたにもかかわらず本来の意図と異なる投票を行ったものだったとしても、投票を締め切った以上は、議長自身が議場で説明したとおり「棄権」として取り扱われるべきであること
③ 仮に何らかの理由により例外的に当該投票が無効であり「棄権」として扱うべきでないと考えたとしても、その議決権の行使については「賛成」として扱われるべきではなく、「無効(不行使)」として扱われるべきであること

オーケーの主張はもっともと言えるが、気になるのは、総会検査役がいながら何故このような総会運営になったのかという点だ。総会検査役が関西スーパーの代理人弁護士から白紙で提出されたマークシートのうち一部を「棄権」から「賛成」に集計し直す旨報告を受けた際に、仮に「それは公正ではない」と反論していれば、「僅差で否決」という結果になったのであろうか。実は、・・・

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