ここ最近、原油をはじめとするエネルギーコストや原材料価格、輸送費の上昇、円安の進行、賃金の上昇などにより、仕入全般にわたる価格上昇が懸念される中、内閣官房に設置された「新しい資本主義実現本部事務局」が中心となり、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(以下、転嫁円滑化施策パッケージ)と題する政策パッケージが取りまとめられ、昨年(2021年)12月27日に公表された。これは、「成長と分配」の好循環を生む新資本主義の実現を目指す岸田政権のもと、仕入価格の上昇分を得意先に適正に転嫁させるための環境整備を狙いとしている。
円滑な転嫁を担保するうえで重要な役割を担っているのが「下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)」だ。下請法では「買いたたき」、すなわち親事業者が「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」が禁止されている(下請法4条1項5号。下請法上の親事業者と下請事業者の定義についてはこちらを参照)。親事業者が下請事業者と下請代金の額を決定する際に買いたたきを行うということは、親事業者がその地位を利用して限度を超えた低価格を下請事業者に押し付けるということであり、その結果、下請事業者は利益を損ない、経営を圧迫されることになるからだ。
下請代金支払遅延等防止法 : 下請取引の公正化・下請事業者の利益保護のため、下請代金の支払い遅延禁止、下請け代金の減額の禁止、買いたたきの禁止など、親事業者と下請事業者の取引に関するルールを定めた法律
下請法におけるこの「買いたたき」禁止の規定は、政府が目指す円滑な転嫁の実現にも資するものと言える。なぜなら、価格上昇分を下請代金の額に転嫁しようとした下請事業者の要請を拒否する行為が下請法上の「買いたたき」に該当するとなれば、親事業者へ下請法上の制裁(公正取引委員会による報告徴収・立入検査、勧告)を科すことが可能になるからだ。そこで転嫁円滑化施策パッケージでは、「労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引」は下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることを、公正取引委員会の見解として明確にしている。
報告徴収 : 事業者に対して報告を求めること
ここで、何をもって「労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引」というのかが問題となるが、・・・
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