監査法人および公認会計士(以下、監査法人等)は“資本市場の番人”としての機能を有する以上、その運営は適正に行なわれなければならない。運営が著しく不当な監査法人等は、資本市場からの撤退を求められても当然と言える。監査法人等に撤退の引導を渡すのは金融庁の役目となる。具体的には、金融庁が監査法人等に「業務改善命令」「業務停止」「登録抹消」等の行政処分を下すことになる。「登録抹消」は資格のはく奪であり、資本市場から即退場という強烈な処分であるが、「(監査の)業務停止」も、停止期間中は監査クライアントへの監査業務の提供ができなくなり、四半期決算や本決算の時期と重なれば監査意見やレビューの結論の表明が事実上不可能となるため、十分に強力な処分と言える。そして、上場会社側も、業務停止処分を受けたような監査法人を会計監査人(以下、監査人)に選任し続ける積極的な理由がない限り、監査役や社外取締役、株主から監査人交代のプレッシャーを受けることになる。
実例として、2019年に発覚したすてきナイスグループ(当時)の粉飾事件に端を発し、当時の監査人であった監査法人原会計事務所が、2021年8月6日に金融庁から業務停止1か月(2021年9月1日から9月30日まで)の行政処分を受けた(監査法人原会計事務所の受けた行政処分については2021年3月10日のニュース「「対価性」のない支出に潜むリスク」を参照)ところ、同監査法人の監査クライアントである上場会社2社(大崎電気工業、信越ポリマー)は行政処分が出る前の2021年6月開催の定時株主総会で監査人を他の監査法人へ交代する決議を行っている。審査会による勧告(*)が、事実上資本市場からの撤退勧告として機能していると言えよう。
監査法人原会計事務所の行政処分から半年も経たないうちに、審査会は新たに別の監査法人に対する行政処分の勧告に踏み切った。その対象になった監査法人が・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。