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今やセクハラを上回るハラスメントに 「カスハラ」への対応策

セクハラ(セクシャルハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)など、ハラスメントの種類は多岐にわたるが、主に企業の顧客対応部門で起こるハラスメントが「カスハラ」(カスタマーハラスメント)だ。厚生労働省が2021年4月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、カスハラを一度以上経験した者の割合はセクハラを上回っており(16ページ参照)」、パワハラには及ばないものの、実はカスハラも主要なハラスメント類型であることが分かる。

パワハラやセクハラは、ハラスメントに対する社会的な問題意識の高まりとともに、ハラスメントを防止するための取り組みが功を奏し、以前に比べると生じにくい環境になってきているのに対し、カスハラ防止に向けた取り組みはまだまだ十分ではないのが現状だ。その背景には、①カスハラにおいては雇用関係にない外部の顧客が加害者となるため、未然防止策やハラスメント行為者に対する直接的な措置を行いづらいことに加え、②法律上、カスハラ対策の防止措置は、セクハラやパワハラの防止措置と異なり、事業主の義務ではない()ため、企業にとって対応の優先度が低いままとなっていること、③日本企業に多く見受けられる過度な顧客第一主義がカスハラを助長させている面があること、④カスハラは発生が特定の部署に偏りがちで、企業内でもカスハラへの問題意識に温度差があること、などがある。

 2020年6月より改正労働施策総合推進法が施行され、職場におけるパワハラ防止措置が事業主の義務になった(中小事業主は2022年4⽉1⽇から義務化)。パワハラ防止措置については、【2019年12月の課題】パワハラ防止策を参照。また、男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラの防止措置を講じることを同法11条で事業主に義務付けており、さらに同条の改正により、セクハラ防止対策について事業主に相談したこと等を理由とする不利益扱いの禁止や自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応の定めが追加された(施行は2020年6月)。一方、カスハラ防止措置は事業主の義務にはなっていない。

実際、上記厚生労働省の調査でも、顧客等からの著しい迷惑行為に対する取り組みとして実施していることは「特にない」と回答した企業が最も多く、57.3%にも上っている(11ページ参照)。業種別にみると、「医療、福祉」「金融業、保険業」「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」などで取り組みが進んでいるものの、「製造業」「建設業」「運輸業、郵便業」などでの取り組みが遅れていることが分かる(50ページ参照)。

カスハラは、店舗や顧客対応窓口の担当者のメンタルに悪影響を及ぼすとともに、モチベーションの低下、人材の流出につながりかねないため、カスハラを防止する仕組みの構築は企業に課せられた従業員の安全配慮義務の一つと言える。また、従業員の離職に伴う従業員の新規採用・教育コスト、顧客からの慰謝料要求への対応、代替品の提供等による経済的損失、来店する他の顧客にとっての利用環境・雰囲気の悪化、業務遅延を考慮すると、カスハラが企業に与える影響は決して小さくない。そこで厚生労働省は、2020年6月に厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を公表し、事業主は、雇用管理上の配慮として、労働者が他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取り組み(マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取り組み)を行うことを促している。

安全配慮義務 : 労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務(労働契約法5条)

現状ではカスハラへの取り組みが十分でないという企業にとって参考になるのが、・・・

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