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役員への天下り調査を求める株主提案の顛末と功績

日本証券金融(東証プライム市場に上場。以下、日証金)が昨年(2022年)の定時株主総会で、著名な国内系アクティビストのストラテジックキャピタルより、同社役員に「日本銀行出身者」「財務省出身者」「東京証券取引所出身者」が“天下り”している件について、会社法316条2項に基づき、会社の業務及び財産の状況の調査者を選任することを議題とする臨時株主総会の開催を求められたことは既報のとおり(2023年2月8日のニュース「アクティビストが会計処理の誤りを指摘、業績連動報酬に影響も」参照)。アクティビストによるこのような行動を快く思わない企業も少なくないと思われるが、本件は日証金のガバナンスにポジティブな影響をもたらしている。

この点について具体的に説明する前に、まず会社法316条2項の内容を抑えておきたい。

会社法316条
1項 株主総会においては、その決議によって、取締役、会計参与、監査役、監査役会及び会計監査人が当該株主総会に提出し、又は提供した資料を調査する者を選任することができる。
2項 第297条の規定により招集された株主総会においては、その決議によって、株式会社の業務及び財産の状況を調査する者を選任することができる。

1項では、調査者の調査範囲が「取締役、会計参与、監査役、監査役会及び会計監査人が当該株主総会に提出し、又は提供した資料」に限定されているが、2項では「株式会社の業務及び財産の状況」に拡大されている。また、1項の「株主総会」はすべての株主総会を指すが、2項の「株主総会」は(会社法)「第297条の規定により招集された」という限定が付いており、株主が招集請求した臨時株主総会()を指す。要するに、1項と2項を比べると、2項では1項よりも調査対象者を選任する主体が限定される一方で調査範囲が拡大していると言える。ストラテジックキャピタルが求めたのは会社法316条2項に基づく調査者の選任である。

 正確には、株主が取締役に株主総会の招集を請求し、これに基づき取締役が株主総会を招集する場合(297条1項)と、株主が株主総会の招集を請求したものの取締役により招集がなされない場合に裁判所の許可に基づき当該株主により招集が為される場合(297条5項)の2つのケースが考えられる。

会社法316条2項の「調査者」は一見、裁判所が選任する「検査役」(会社法358条)に類似しているものの、会社法316条2項の「調査者」は、選任する主体が裁判所ではなく臨時株主総会という点が検査役とは異なる。

検査役 : ここでいう「検査役」とは、株主総会の招集手続および決議方法を調査するために裁判所によって選任される「総会検査役」を指す。総会検査役は、会社および総株主の議決権の1%以上の議決権を有する株主が、株主総会に先立ち、裁判所に選任を申し立てることにより選任される(会社法306条1項)。株主提案や委任状勧誘が行われている株主総会では、後日、株主総会決議取消訴訟や決議不存在確認訴訟等が提起され、決議の有効性が争われることがある。総会検査役はこうした事態に備え選任される。

会社法358条1項
株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、次に掲げる株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。
一 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主
二 発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主

つまり、検査役の場合、選任するかどうかに裁判所の判断が加わる(かつ「不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由」も必要となる)が、調査者は裁判所の判断を必要とせずに、株主総会の決議だけで選任が可能であるため、株主にとっての選任の自由度は高いと言える。

以上を前提として本題に入ろう。・・・

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