資本金が1億円以下の企業は、税務上は「中小企業」として扱われ、軽減税率や中小企業向けの特別償却など法人税法等における様々な中小企業向け特例措置の適用を受けることができる(ただし、資本金が1億円以下であっても「資本金5億円以上の会社の100%子会社等」であれば、こうした中小企業向け特例措置の適用を受けることはできない。一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用については国税庁のサイトを参照)。なかでも、税務上の「中小企業」にとってメリットが大きいのが、「法人事業税の外形標準課税」(以下、「外形標準課税」)が適用されないということだ。
100%子会社等 : 株式会社を前提にすると、資本金の額が5億円以上の法人による完全支配関係がある普通法人を指す。完全支配関係とは、一の者が、法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係または一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係を指す。100パーセント子法人は当然のこと、例えば親会社が50パーセントしか持っていなくても残りを別の100%子会社を通じて支配していれば完全支配関係があることになる。
外形標準課税は法人税法ではなく地方税法上の制度であり、上記で説明した法人税法のように「法人税法上の資本金が1億円以下であっても資本金5億円以上の会社の100%子会社等であれば中小企業のメリットを受けられない」という制限は設けられていない。すなわち、純粋に資本金が1億円以下か・1億円を超えるかが、課税・非課税の境界線となる。
外形標準課税が適用されない企業にも法人事業税は適用されるが、法人事業税は通常「所得」のみをベースに計算される(これを「所得割」という)ため、赤字で法人税が課税されない企業であれば事業税も課税されない。これに対し外形標準課税は、社員への給与や事務所の家賃などの「付加価値」や「資本金等」も課税ベースに含まれるため(前者を「付加価値割」、後者を「資本割」という)、赤字企業にも容赦なく課税される。典型的には資本金・社員数が多く、事業所面積が広い赤字企業にとって、外形標準課税は重い負担となる。
こうした中、近年、減資により資本金を1億円以下にして外形標準課税の適用を逃れる企業が相次いでいる。シャープは1,218億円あった資本金を1億円にしようとして社会的批判を浴び、方針を撤回したが、コロナ禍による旅行需要の低迷に苦しんだJTBは2021年に23億円あった資本金を1億円に減らし、また、同業界のHISも2022年に247億円あった資本金を1億円に減らしている。HISのリリースを見ると、減資の目的の一つに「税負担の軽減を図ること」が堂々と掲げられているのが目を引く。また、持株会社化や分社化の際に、中小企業としての税制上の恩恵を受けるため資本金を1億円以下に設定する事例も多い。「付加価値割」と「資本割」に基づく外形標準課税によって計算された法人事業税は、損益計算書の「販売費及び一般管理費」に計上されるが、減資により外形標準課税が不適用になれば法人事業税(所得割)は損益計算書の「税引前当期純利益」の下の「法人税、住民税及び事業税」に計上されることから、外形標準課税の対象会社でなくなれば営業利益が改善する効果も期待できる。
減資 : 資本金を減らして資本剰余金を増やすこと。単なる係数上の振替に過ぎないが、会社法上は株主総会の特別決議や債権者保護手続きなどを経る必要がある。
上記のような大企業による外形標準課税回避による地方税収の低下を懸念した総務省は・・・
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