事業者が自己の販売価格に「比較対照価格」(販売価格よりも高い他の価格)を併記する表示方法は「二重価格表示」と呼ばれ、消費者に割安感を想起させることから広く使われている広告手法である。比較対照価格には、過去の価格を用いることもあれば、将来の価格(キャンペーン終了後の価格)を用いることもある。場合によっては希望小売価格や競合他社の販売価格を用いることもある。
「二重価格表示」を効果的に活用した宣伝が印象的なのが、通販大手のジャパネットたかた(非上場。以下、ジャパネット)だ。同社の広告中の二重価格の金額差に強い魅力を感じ、思わず購入に至ったという消費者も少なくないだろう。そのジャパネットが2025年9月12日、消費者庁より景品表示法(以下、景表法)7条1項違反の措置命令を受けた(消費者庁のリリースはこちら)。これはジャパネットが2024年に販売した「【2025】特大和洋おせち2段重」の二重価格表示が、消費者に対し取引条件が実際よりも有利であると誤認させる「有利誤認表示」(景表法5条2号)に該当すると認定されたもの。
措置命令 : 行政機関が、法令違反を行った事業者に対して、その行為の停止や再発防止など必要な措置をとるように命じる行政処分のこと。景表法の措置命令では、消費者庁長官(または都道府県知事)が、不当な表示を行った事業者に対し、違反行為の差止め(不当な表示を直ちにやめること)、一般消費者の誤認の排除(誤解を与えたことを一般消費者に周知する(新聞広告など)こと)、再発防止策の実施などを命じる。措置命令に従わない場合には、罰則(懲役や罰金)の対象となる。また、措置命令は公表されるため、企業の信用失墜にもつながる。
ジャパネットは2024年10月8日から11月23日にかけて「通常価格29,980円を1万円値引き、値引き後19,980円(税込)」などとし(以下、本件表示)、「大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」と宣伝していた(消費者庁のリリースはこちら)。消費者庁と公正取引委員会が問題視したのは、ジャパネットが「通常価格」と称する金額での「将来の合理的かつ確実な販売計画」が存在しないという点だ。消費者庁は「将来の合理的かつ確実な販売計画」が存在しない以上、ジャパネットの「通常価格」は実際には将来適用されることがない価格であり、ジャパネットはこの将来適用されることはない価格を二重価格表示に用いることで「割安感を演出」した(それによって消費者が騙された)というロジックで措置命令の発出に至った。
この措置命令に納得のいかないジャパネットは、・・・
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