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取適法下での「協議に応じない一方的な代金の決定」の実務対応~パブコメ結果の解説③~

改正内容のインパクトの大きさから上場会社の間でも関心を呼んでいる改正下請法(新通称は取引適正化法(取適法:とりてきほう))の実務対応に極めて有益なパブコメ結果を解説するシリーズの第3弾では、「協議に応じない一方的な代金の決定」について取り扱う。

第1弾:2025年10月7日のニュース『改正下請法、従業員基準への批判的な意見相次ぐ~パブコメ結果の解説①~
第2弾:2025年10月17日のニュース『取適法下での特定運送委託に関する実務対応~パブコメ結果の解説②~ 』

今回の下請法改正の目玉の一つとして挙げられるのが、「協議に応じない一方的な代金の決定」が禁止事項に追加されたということだ。「協議に応じない一方的な代金の決定」は以下のとおり定義された。

取適法運用基準における「協議に応じない一方的な代金の決定」
協議に応じない一方的な代金決定(法第5条第2項第4号)とは、中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定することにより、中小受託事業者の利益を不当に害すること

さらに、公正取引委員会(以下、公取)は各赤字部分について以下のとおり解説している(公取の改正ポイント説明会資料53ページから抜粋)。

「協議に応じない一方的な代金の決定」が取適法の禁止事項として新たに追加された目的は、中小受託事業者がコスト上昇分を適切に価格に転嫁できる取引環境を整備することにある。

「協議に応じない一方的な代金の決定」は一見すると、従来の下請法でも禁止行為とされ取適法にも引き継がれた禁止行為である「買いたたき」に似ている。しかし、「協議に応じない一方的な代金の決定」と「買いたたき」では、問題となる行為の性質がまったく異なる。具体的には、「買いたたき」とは、類似品の価格または市価と比較して著しく低い下請代金を不当に定める行為を指し、実際に対価の引下げが生じているか、あるいはコスト上昇を取引価格に反映しないという点に特徴がある。このように「買いたたき」が“対価そのもの”に着目した行為であるのに対し、“交渉プロセス”に着目した行為が「協議に応じない一方的な代金の決定」だ。「協議に応じない一方的な代金の決定」では、コストが上昇し利益が圧迫されている中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明をしなかったりするなど、一方的に代金を決定するといった交渉プロセスの不適正さが問題となる(公取の改正ポイント説明会資料52ページの図参照。緑の「現行」が買いたたきを指している)。

「買いたたき」(緑)と「協議に応じない一方的な代金の決定」(ピンク)の違い
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取適法の運用基準では具体的に次のような違反事例が想定されている(「9-1」などの数字は運用基準におけるインデックス)。

運用基準において想定されている違反行為事例
違反行為事例 説明
9-1 拒否等により委託事業者が協議に応じない例 中小受託事業者が、量産期間が終了し、補給品として僅かに発注されるだけで発注数量が大幅に減少し、製造に要する費用が上昇していることを理由に、量産時の大量発注を前提とした単価の引上げに係る協議を求めたにもかかわらず、これを拒否し、無視し、又は回答を引き延ばす等して、従前の単価が適用された場合
9-2 詳細な情報提示要求により委託事業者が協議に応じない例 中小受託事業者がコスト上昇分につき経済の実態が反映されていると考えられる公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など。以下同じ。)に基づき具体的な引上げ額を提示して代金の額の引上げを求めたにもかかわらず、協議に先立ち、コスト上昇の根拠として具体的に算定することが容易でない詳細な情報の提示を求め、協議の実施を困難にさせ、結果として、僅かに引き上げた額を代金の額と定めた場合
9-3 中小受託事業者が協議を求めた事項について必要な説明又は情報を提供しない例 (1)中小受託事業者がコスト上昇分につき経済の実態が反映されていると考えられる公表資料に基づき具体的な引上げ額を提示して代金の額の引上げを求めたのに対し、コスト上昇の状況を踏まえた理由の説明や根拠資料の提供を一切することなく、従前の代金の額を据え置き、又は僅かに引き上げた額を代金の額と定めた場合
(2)中小受託事業者が委託事業者による原価低減要請に関し、その理由に関する説明を求めたのに対し、要請に応じない場合には取引を減らしたり打ち切ったりすることを示唆した上で、他に理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、従前の代金の額から引き下げた額を代金の額と定めた場合

中小受託事業者が求める協議の内容は、必ずしも「代金の引上げ」を求めるものに限られない。例えば、・・・

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