上場企業にとって、優れた技術を持った企業や斬新なビジネスモデルを持つ非上場企業は合併などの組織再編の対象として魅力的だ。ただし、あくまで経営上の必要から行った非上場企業との組織再編が、証券取引所の上場規程上「不適当な合併等」に該当してしまうことがあり得る点には注意する必要がある。
「不適当な合併等」は、通称“裏口上場”とも言われる。「裏口」というとまっ先に裏口入学という言葉が思い浮かぶが、実際両者は似ている。裏口上場で、裏口入学における入学試験に相当するのが、上場に先立ち行われる証券取引所による「上場審査」だ。
上場するためには、本来であればこの上場審査を通過しなければならないが、裏口上場では既に上場している企業を利用して実質的な上場を達成することになる。例えば非上場企業が上場企業に吸収合併してもらえば、非上場企業の株主に対して上場企業の株式が割り当てられる結果、非上場企業の株式が上場企業の株式に“化ける”ことになる。つまり、非上場企業は、上場審査を受けることなく、上場を果たしたのと似たような状態になる。これが“裏口上場”と言われるゆえんだ。裏口上場の手法には、合併のほか、「株式交換」や「株式移転」といった組織再編が用いられることもある。
裏口上場が起きる背景には、証券取引所の厳しい上場審査により上場を許されない企業が少なくないという事情がある。“表玄関”からは株式市場に入れない非上場企業が“裏口”に回るというわけだ。ただ、裏口上場が放置されれば、上場を目指す企業の多くが厳しい上場審査を避け、裏口上場を選択しかねない。そうなれば、株式市場に“不良品”が多数流通することになり、株式市場は信頼を失うだろう。
そこで証券取引所は、裏口上場を「不適当な合併等」と位置付け(東京証券取引所の場合、有価証券上場規程601条1項9号)、上場企業が「不適当な合併等」を行った場合には改めて上場審査に準じた審査を行い、これを通過しなければ、上場廃止にするというルールを設けている。
「不適当な合併等」とは、例えば自社よりも規模の大きな非上場企業を吸収合併した場合のように、上場企業が実質的な存続企業とは言えない合併などの組織再編を指す。この場合、規模の大きい企業が存続企業になるのが通常であることから(規模の小さい企業が存続企業になるのは不自然)、たとえ形式的には上場企業が存続企業であっても、非上場企業を実質的な存続企業として、上場審査に準じた審査を行うことになる。
実際、「不適当な合併等」を理由に、これまで10社以上の上場企業が上場廃止になっている。最近の事例では、上場企業の株式会社FXプライムbyGMOが非上場企業のGMOクリックホールディングス株式会社と平成27年4月1日に行う株式交換が「不適当な合併等」に当たると判断されている。
もっとも、証券取引所がこのような措置をとるのは、「不適当な合併等」として類型化されたものに該当した場合に限られる。すなわち、「不適当な合併等」に該当しないケースでは、たとえその真意が裏口上場にあったとしても、証券取引所の審査の対象にならない。外観からは通常の合併や株式交換等と区別が付かないからだ(「裏口上場します」と宣言して裏口上場する企業などない)。例えば、ある非上場企業が、自社よりも規模の大きな上場企業に吸収合併される場合などは、たとえその真意が裏口上場にあったとしても、証券取引所側としては審査する機会がないのである。
逆に言えば、上場企業があくまで経営上の必要から行った非上場企業との組織再編が、裏口上場の意図など全くないにもかかわらず、形式的に「不適当な合併等」に該当してしまう場合があり得ることになる。仮に「不適当な合併等」に当たると判断されれば、・・・
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