公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)
「横領」という“古典的”ともいえる不正は、意外なことに、いまだに上場会社で発生する不正の半数超を占めている。横領の犯人は基本的に従業員(個人)であり、返済能力が十分であるとは言えないうえ、既に横領した金銭を使い込んでしまっているのが通常であるため、被害額全額の回収は困難な場合が多く(年月や回数を重ねてから発覚する事例も多く、その場合、被害額も大きくなる)また、「内部統制がきちんと構築されていない会社」というレッテルが貼られ、企業価値の毀損に繋がりかねない。会社としては何としても防ぎたいところであるが、いまだにその数が減らない最大の理由は、横領を未然に防ぐために「やるべきこと」ができていないということにある。
特に子会社や関係会社ではその傾向が強い。子会社や関連会社等での不正が目立つのには、会計監査の手法にも一因がある。監査法人は金額的・質的な重要度で監査資源を傾斜投入するため、一般的に規模の小さい子会社や関係会社には継続的・直接的なモニタリングが入りにくいのが実情だ。また、会社側の事情として、親会社では万全の内部統制を敷いているものの、子会社等では人手不足や業務の重要性を理由に、経理業務を一人で行っていたり、監査の目が行き届いていなかったりすることが多い。
こうした中、横領を防止するうえで重要な役割を果たすのが監査役等(監査等委員会設置会社における監査等委員、指名委員会等設置会社における監査委員を含む、以下同じ)である。内部統制の構築・運用責任は一義的には取締役にあるが、監査役等はその監視をすることが求められる(会社法第362条等、同381条1項等)。特に会計監査によるチェックが行き届かない子会社や関係会社に対しては、監査役等が目を光らせる必要がある。
一般に、不正は、「不正を起こしたい動機がある」「不正を実行できる機会がある」「不正を起こしたことを正当化できる素地がある」という3つの要素のうち2つ以上が揃うと起こると言われている(これを「不正のトライアングル理論」という)。横領事件では、犯人がプライベートで金銭問題を抱えている等、不正を起こす強い動機があるケースが多いため、会社側が出来る対応としては、いかに「機会」を減らし、「正当化」を防ぐかということになる。
監査役等としては、会社の内部統制が特に以下の点において問題ないか、また、内部監査部門が以下の視点をもって監査業務にあたっているかを中心に確認することが望ましい。・・・
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