監査法人は、監査日数や公認会計士の数に制約がある中で監査業務の効率化を図る観点から、監査対象を「重要性」によって絞り込んでいる。例えば金額的・質的に重要性の低い工場や支店はどうしても往査頻度が低くなる。債権債務についても少額であれば残高監査の対象から漏れる可能性が高い。また、監査法人の監査は「財務諸表の適正性の保証」を目的とするものであり、財務諸表の適正性とは無関係の問題(品質偽装や納期の遅れなど)については、損害賠償責任が発生する可能性が低い限り、会計監査で問題視されることはない。こういった絞り込みの結果、監査法人による監査の目が行き届かない金額的重要性の低い取引の中に、「財務諸表の適正性の保証」という会計監査の目的からは問題視されないものの取引自体の適切さを問われかねない問題(将来、損害賠償責任の発生の火種となりうる問題)が含まれていても見逃されてしまうことがある。
往査 : 公認会計士が監査対象会社の本社、営業所、工場などに会計監査の一環で赴くこと
ある上場企業(A社とする)で実際にあった事例を紹介しよう。A社の監査役が、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。