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内部統制報告制度の改正で経営者に求められる「評価範囲の見直し」

我が国の内部統制報告制度(J-SOX)は、2008年4月1日以後に開始する事業年度から適用されて以来、14年余りが経過しているが、これまで大きな見直しは行われていない。こうした中、経営者による内部統制の評価範囲外において、「開示すべき重要な不備」が明らかになる事例が発生しており、「経営者が内部統制の評価範囲を検討するにあたって、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮していないのではないか」といった内部統制報告制度の実効性への懸念が指摘されていることは既報のとおり(2022年11月8日のニュース『内部統制の評価範囲外から認識された「開示すべき重要な不備」が多発』参照)。また、我が国の内部統制報告制度がベースとした米国COSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission=通称:トレッドウェイ委員会支援組織委員会)の「内部統制の基本的枠組みに関する報告書」(以下、COSO報告書)は、経済社会の構造変化やリスクの複雑化に伴う内部統制上の課題に対処するために2013年に改訂されたが(改訂の内容は2022年10月14日のニュース「サステナビリティ情報も内部統制報告の対象になる可能性」の中段参照)、我が国は未対応のままとなっている。このような内部統制報告制度を巡る状況を踏まえ、金融庁の企業会計審議会に設置された内部統制部会は2022年12月15日、内部統制の実効性向上を図るべく「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、基準)の改訂版の公開草案を公表している(金融庁のリリースはこちら)。改訂基準は「2024年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査」から適用される予定だ。

J-SOX : エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて頻発した不正会計問題に対処するため、コーポレートガバナンスのあり方と監査制度を抜本的に改革するとともに、投資家に対する企業経営者の責任と義務・罰則を定めた米国連邦法がSOX法であり、2002年7月に制定された(正式名称はサーベンス・オクスリー法)。日本におけるJ-SOX(内部統制報告制度)は、SOX法に基づく内部統制監査制度を参考に、2008年に導入されたものである。
開示すべき重要な不備 : 財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備のこと。ここでいう「重要」か否かの判断は、金額的重要性及び質的重要性により総合的に判断される。誤った財務報告は投資家の判断も狂わせることになるため、その原因となった内部統制の不備は「開示すべき」ということになる。
COSO : 企業の不正行為に対抗するための、米国公認会計士協会(AICPA)、米国会計学会(AAA)、財務管理者協会(FEI)、内部監査人協会(IIA)、管理会計士協会(IMA)の5つの組織が資金を提供して1985年に設立された共同イニシアチブで、企業や組織が自社の統制システムを評価できる共通の内部統制モデルを確立した。「トレッドウェイ委員会」という通称は、初代委員長である元証券取引委員会委員のジェームズ・C・トレッドウェイ・ジュニア氏に由来する。

今回の改訂は、・・・

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