企業経営においては時に訴訟を提起されることも十分あり得る。仮に敗訴となった場合には、損害賠償金額の全額が会社の「損失」として確定することになるが、判決が出る前でも、敗訴の可能性が高い場合には「引当金」を計上し、その分利益を減じることになる。逆に、敗訴する可能性が高くなければ、引当金を計上する必要はない。
ところが、国際財務報告基準(IFRS)の設定主体である国際会計基準審議会(IASB)が現在検討しているIFRSの「概念フレームワーク」の改正により、たとえ勝訴の確率が高い場合であっても引当金の計上を求められる可能性が出て来た。
概念フレームワークとは、IFRSの制定・改廃・解釈のベースとなる根本規定のこと。IFRSが“法律”だとすれば、概念フレームワークは“憲法”に相当する。そのような重要規定である概念フレームワークの内容を改めるため、IASBでは5月に公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」(以下、概念フレームワーク公開草案)を公表し、2015年10月26日までコメントを募集している。概念フレームワーク公開草案の中で注目されるのが、資産・負債の「認識要件」の1つである「将来の経済的便益が流入(流出)する可能性が高い」(蓋然性要件)という記述が削除されている点だ。概念フレームワークが改正されればその改正内容に整合させるようIFRSも改正される。したがって、概念フレームワークから「蓋然性要件」が削除されれば、IFRSの「引当金の認識要件」も変更される可能性が高い。
現行のIFRSでは、引当金を認識する要件として「発生の可能性が高い」ことを求めている。逆に言うと、「発生の可能性が高くない」場合には引当金を認識する必要はない。これは日本の会計基準(以下、日本基準)でも同様だ。しかし、「蓋然性要件」が削除されるとなると話は変わってくる。具体的には、「発生の可能性が高くない」場合であっても、発生可能性に応じた引当金の計上(これを「期待値法」という)が求められる可能性が高い。「当社はIFRSを採用していないから関係ない」という認識は適当ではない。IFRSで引当金の認識基準が改正されれば、コンバージェンス(収斂)を通じて日本基準も改正される可能性がある。「IFRSの任意適用企業だけの問題」とは言い切れないわけだ。
期待値法による引当金の計算方法を、損害補償損失引当金を例に具体的な数字を用いて見てみよう。・・・
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