投資家は“見えないもの”に対して不信感を抱く傾向がある。会計監査も例外ではない。上場企業が提供する財務情報の正確性を担保し、資本市場を支える重要な機能を果たす会計監査に関する情報は、本来投資家にとって有用性が高いはずだが、監査法人が投資家に伝える情報は「財務諸表が適正かどうか」という意見だけであり、その伝達手段も定型的な文面の監査報告書のみに限られる。また、監査人には厳格な守秘義務が課されているため、投資家が監査人から投資に有用な情報を聞き出すのは不可能となっている。投資家からは「会計監査は“ブラックボックス”」との声も聞かれるが、それも分からないではない。
こうした中、世間を騒がせる会計不正が起きるたびに、投資家は企業と監査人との間に癒着が生じていないかを気にすることになる。確かに、監査が信頼されるには監査人の独立性が保たれていなければならない。そこで公認会計士法では、監査人の独立性を保つための策として、監査報告書にサインする公認会計士が監査クライアントに関与する期間について制限を課している。監査に関与した期間が長いほど監査クライアントとの慣れ合いが生じるリスクが高まるからだ。具体的には、監査報告書にサインする公認会計士が7会計期間業務を行った後は、2会計期間の監査禁止期間(インターバル)を置くことを求めている(さらに、大規模監査法人については、筆頭業務執行社員が5会計期間業務を行った後はインターバルを5会計期間置かなければならないことになっている)。もっとも、このインターバル制度はあくまで監査報告書にサインする公認会計士に適用されるものであり、「監査法人」自体には適用されない。したがって、監査禁止期間中は“同一監査法人の別の公認会計士”がサインすることになる。
筆頭業務執行社員 : 監査クライアントに対する監査の責任者(社員=パートナー)を指す。監査報告書の一番上にサインをすることになる。
このように、インターバル制度は「監査法人内」で公認会計士をローテーションさせる制度であり、監査法人自体のローテーションまでを求めるものではない。監査法人のローテーションが日本で法制化されないのは、・・・
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