2016年11月10日のニュース「フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言」でお伝えしたとおり、金融庁が開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は11月8日に「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書案を公表したが、近く「案」がとれた正式な意見書が公表される。この意見書を受けてスチュワードシップ・コードも改訂され、機関投資家は「個別投資先ごと」かつ「議案ごと」に議決権の行使結果を公表することが原則(*)とされる見込みだ。
現行のスチュワードシップ・コードでは、機関投資家は議決権の行使結果を「議案の主な種類ごとに整理・集計して公表」するのが原則とされており(下記参照)、当該コードをコンプライしている機関投資家は、例えば「当社は、役員選任議案を決議した投資先500社のうち450社の議案に賛成票を投じ、50社の議案に反対票を投じた」といった開示を行っている。
スチュワードシップ・コード5-3 機関投資家は、議決権の行使結果を、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである。 |
もっとも、スチュワードシップ・コードは「個別投資先ごと」の議決権行使結果の公表までは求めていないため、例えば「A社の取締役B氏の選任議案に反対した」といった情報は、機関投資家(アセット・マネージャー)が年金基金などのアセット・オーナーの求めに応じて説明することはあっても、一般には開示されていないのが通常だ。
アセット・オーナー : 年金基金、投資信託、保険会社等
現行スチュワードシップ・コードが求める「議案の主な種類ごとに整理・集計した結果」は、当該機関投資家に資金の運用を委託しているアセット・オーナーや最終受益者が、当該機関投資家の議決権行使に関する“総合的な”スタンスを知るためには必要な情報の1つとは言えるだろう。しかし、それだけでは、特定の企業の役員選任議案や剰余金処分議案などについて当該機関投資家がどのように議決権を行使したのかが分からず、最終受益者への説明責任を果たせていないとの批判があった。そこでフォローアップ会議で出てきたのが、上述した「スチュワードシップ・コードを改訂し、機関投資家に個別投資先ごと、かつ議案ごとの議決権行使結果の公表を求める」という案だ。フォローアップ会議では、「個別具体的な開示はアセット・マネージャーがアセット・オーナーに対して行えば十分」との意見も出たものの、インベストメント・チェーンを通じたフィデューシャリー・デューティーの履行のためには最終受益者への情報開示が欠かせないことから、結局この案は退けられている。
最終受益者 : アセット・オーナーに資金を拠出している者
インベストメント・チェーン : 資金の拠出者(最終受益者)から、資金を事業活動に使う企業に至るまでの経路および各機能(アセット・オーナー(受益者) 、アセット・マネージャー(運用会社)、企業など)のつながり。
また、機関投資家に対し個別投資先ごとの議決権行使結果の公表を求めることには、「最終受益者への説明責任の確保」のみならず、アセット・マネージャーにかけられた「利益相反の疑念の払拭」という狙いもある(利益相反の具体例はこちらを参照)。多くのアセット・マネージャーは、利益相反を回避するための「利益相反防止に関する方針」を策定済だが、国内系アセット・マネージャーの多くが金融機関の系列下にあるため、アセット・オーナーや最終受益者としては、アセット・マネージャーとしての独立性が十分ではないのではないかという疑念を抱いているのが実情。そこで、機関投資家に個別投資先ごとの議決権行使結果の公表を求めることで透明性を高め、議決権行使の独立性をサポートしようというわけだ。
今回のスチュワードシップ・コードの改訂が上場企業に与える影響としては、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。