野村総合研究所
上級研究員 三井千絵
企業活動がグローバル化する中、各国企業の財務諸表の「比較可能性」の確保という観点から〝世界共通の会計基準”としてIFRSは開発され、現在は日本でも任意適用が可能となっている。本来、IFRSの導入は投資家(特にグローバル投資家)にとって望ましいはずであり、そのことを前提に、投資家の目を意識してIFRSを採用、あるいは採用を検討している日本企業も少なくないだろう。しかし、投資家から見ると、「比較可能性の確保」と言うにはまだまだ課題がありそうだ。
「原則主義」の会計基準であるIFRSに基づく財務諸表の開示を巡っては、最近投資家やアナリストから様々な課題が指摘されるようになった。その中で「比較可能性」に関する課題としては次の2点が挙げられる。一つは、原則主義ゆえ基本的に細かい勘定科目が定められていないことが多いため、企業によって開示内容の定義がまちまちとなり比較可能性が損なわれているという点、もう一つは、企業のマネジメントの裁量の余地が大きくなり、投資家が求める開示内容と一致しない場合がある(企業にとって都合の良い開示となりがち)という点である。
原則主義 : 原理原則のみを定め、詳細なルールは規定しない規制方法のこと。IFRSを適用する企業は、各社の判断により会計処理を決定する必要がある。
IFRSに基づく損益計算書(PL)では、記載を求められる項目が非常に少ない。例えば、・・・
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