自民党政権時代の2009年6月、「2015年にもIFRS(国際会計基準)を上場企業等に強制適用する」との方針を金融庁が打ち出したことで、一時、多くのIFRS解説本が出版され、セミナーも頻繁に開催されるなど“IFRSブーム”が起こったが、このブームも最近はすっかり下火になった感がある。その背景には、2011年6月に当時の自見金融大臣が「2015年3月期の強制適用は考えていない」と発言し、それまでのIFRS強制適用の方針が事実上撤回されたことがある。
しかし、そのIFRSに再び注目が集まりつつある。これは、IFRSの適用基準を定めた内閣府令が昨年(2013年)10月28日付で改正され、「上場していること」「国際的な財務活動又は事業活動を行っていること」という任意適用の要件が撤廃されたからだ。つまり、上場を目指している未上場企業や、国内向けビジネスを展開している企業であっても、IFRSの適用が可能となった。
IFRS任意適用の要件としては、「IFRSによる連結財務諸表の適正性確保への取組み・体制整備をしていること」のみが残ったが、これは要するに「適正な財務諸表を作成するための内部統制が社内に備わっている」ということであり、これまで粉飾決算を行っていない普通の企業であれば、問題なくクリアできるだろう。すなわち、任意適用にあたって大きな障害にはならない。この結果、IFRSを任意適用できる企業数は飛躍的に増えることとなった。
金融庁の思惑は、「企業からの批判が根強いIFRSの強制適用を回避しつつ、国際的には、IFRSに対する日本のプレゼンスを維持・向上させたい。そこで、とりあえずは任意適用を増やし、既成事実を積み上げていきたい」というもの。この点は、企業会計審議会の最新の報告書である「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(2013年6月19日公表)で「我が国におけるIFRSの強制適用の是非については、…未だその判断をすべき状況には無い」としたうえで、まずは「IFRSの任意適用の積上げを図ることが重要」との認識が示されていることからも明らかだ。
さて、金融庁の思惑通り、IFRSを適用する企業数は増えるのだろうか。まず予想されるのが、上場を目指す未上場企業での導入だ。いずれIFRSの適用が必要になるのであれば、最初からIFRSを適用してしまった方が、日本基準で上場してからIFRSに変更(IFRSと日本基準は未だに差異があるため、この場合、手間とともにシステム変更コストも生じる)するよりも負担が少なくて済む。特に、将来的に海外でビジネスを展開したい企業にとっては、IFRSの任意適用は一考に値するだろう。また、買収により正ののれん(いわゆる営業権)が発生した企業は、日本基準では正ののれんの定期的な償却負担を余儀なくされ、利益を圧迫することから、のれんの定期的な償却が必要とされないIFRSに乗り換えるインセンティブ(誘因)があることが指摘されている。
では、上場企業ではどうだろうか?
現在、企業会計基準委員会で「エンドースメントIFRS(エンドースメントとはIFRSの一部を自国会計基準に取り込むこと。いわゆる日本版IFRS)」が開発中のため、各社様子見の状況であり、IFRS適用を巡る目立った動きはない。もっとも、グローバル企業を中心に、IFRSの任意適用に踏み切る企業も散見されるようになってきた。そうでない企業でも、IFRS適用の検討は継続されており、「同業他社が適用すれば、すぐにでも適用できるように準備している」と話す企業が少なくない。経営トップのGOサイン待ちという企業も多い。有力企業がIFRSを適用することになれば、IFRSの適用が業界横並びで増えていく可能性が高い。また、東証マザーズに上場するバイオベンチャー「そーせいグループ株式会社」が2014 年3月期からIFRSを適用することを発表して話題になった。同社の場合、のれんの償却費が大きく、日本基準を適用した場合純利益が赤字になるのに、IFRSを適用することで黒字に転換する点が背景にあるものと思われる。加えて、上場準備企業のIFRSの適用が進めば、これらが呼び水となり、国内ビジネス中心の上場企業にも影響が及ぶことも十分考えられる。
担当役員としては、同業他社の適用状況をウォッチするとともに、今のうちから適用の準備はしておくべきだろう。