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業績低迷時は要注意!繰延税金資産の回収可能性の判断基準見直しも

 民間の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が、税効果会計の見直しの検討を開始している。

 税効果会計の実務上の取扱いは、日本公認会計士協会が公表している実務指針や監査委員会報告で定められているが、これらの実務指針等は実質的に「会計基準」として機能しているため、ASBJは、策定の主体を日本公認会計士協会からASBJに移管するとともに、移管を機に「税効果会計専門委員会」を設置し、内容の見直しも行う模様だ。

 移管されるのは、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下、66号)。まず、繰延税金資産とは何かを説明しておこう。

 賞与引当金や減損損失など、会計と法人税法の計上基準の違い(例えば法人税法では、税収を減らさないために引当金の計上基準が厳しかったり、減損の損金計上が認められないなどの違いがある)により、会計上の資産・負債と、税法上の資産・負債に差異(一時差異)が生じる場合、この一時差異が解消される将来の時点、すなわち法人税法上、損金に算入することができる時点(例えば実際に貸倒れが発生した時点)において、当該損金算入額と相殺するだけの課税所得があるかどうか(=税金を減らすことができるかどうか)を判断のうえ、この将来の税金の減少効果を「資産」として計上したのが繰延税金資産である。そして、「回収可能性」のない繰延税金資産は計上することができないことから、繰延税金資産を計上する際の「判断」は「回収可能性の判断」と言われる。

 この「回収可能性の判断」の実質的な指針となってきたのが、上述した66号である。

 66号は、会社の業績等の状況により会社を5つのタイプに分類し、計上できる繰延税金資産の額を示している。例えば、「業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異(将来において課税所得を減らすことになる一時差異)を十分に上回るほどの課税所得がない会社」(第3区分)であれば、「過去の業績等により、長期にわたり安定的な課税所得の発生を予測することができない」として「将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度」として、回収可能性を判断することになる。一方、「重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社」(第4区分)では、「将来の課税所得の発生を合理的に見積ることは困難」であるため、「翌期」(つまり1年分)の課税所得の見積額のうち確実に見込まれる分が限度となるのが原則だ。いずれにしろ、会社区分に応じて見積可能期間が決められており、その期間内に見込まれる課税所得の範囲でしか、繰延税金資産の計上は認められない。

 66号の中で見直しの俎上に上っているのが、この見積可能期間の長さだ。これは、平成23年12月の税制改正により「平成20年4月1日以後に終了した事業年度で生じた欠損金」の繰越期間が従来の5年から9年に延長されたにもかかわらず、繰延税金資産の回収可能性を判断する見積可能期間は「おおむね5年」とされたままだからだ。法人税法上の繰越期間が延びたことにより、「9年」を前提とした見積可能期間に変更すべきとの要望が企業側から上がっている。

 66号が改正され、見積可能期間が延びれば、一般的には計上できる繰延税金資産の金額が増えることになる。しかし、計上できる繰延税金資産が増える分、積み増しした繰延税金資産は業績の悪化に伴い回収可能性が低下したときに、その取崩しを迫られ、結果として赤字幅が増幅する恐れがある。

 一般的な中期経営計画の期間は3~5年程度。仮に見積可能期間が9年となった場合、経営陣はタックスプランニングを含め、5年を超える経営計画を策定するかどうかの判断に迫られることになる。長期の経営計画はそれだけ不確実性も増すことになり、回収可能性を巡る監査人との攻防が今以上に激しくなる可能性がある。

 税効果会計専門委員会での議論はまだ始まっていないが、わざわざ専門委員会を設置する以上、見直しが行われる可能性は高い。同委員会の動きについては今後も続報する。