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“過失責任化”でも消えない有価証券報告書虚偽記載の損害賠償リスク

 有価証券報告書に虚偽の情報が記載されていた場合、この情報に基づき株式を取得した株主は会社に対して損害賠償請求を行うことが金商法で認められているが、現行法上、株主は「虚偽記載があること」さえ立証すれば、会社に故意又は過失があることを立証する必要はない(金商法21 条の2)。つまり、会社にとっては、たとえ「無過失」であっても損害賠償請求に応じなければならない点、大きなリスクがある。

 「無過失責任」の規定は、ライブドアによる有価証券報告書の虚偽記載事件等を受け平成16年に設けられたが、昨年6月から開始された金融庁の金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキンググループ」でこの規定のあり方が議論された結果、近く「過失責任」へと改正される。

 この改正は、経済界からの強い要望で議論の俎上に載せられたものであり、「過失責任」化は上場会社にとっての悲願と言える。というのも、ライブドア事件を受け「無過失責任」の規定が設けられた後、金商法などへの違反者に対し罰金を課す課徴金制度や内部統制制度が導入され、虚偽記載の防止のための各種制度はもう十分に整備されているからだ。しかも、米国やEUでは、虚偽記載の損害賠償責任は、会社に「疑罔(ぎもう=欺くこと)の意図」ないしは「故意または重過失」があった場合(例えば会社ぐるみで詐欺を行った場合)のみに責任を問うという考え方をとっている。

 このような国内外の状況からようやく我が国でも「過失責任」化の方向が打ち出されたわけだが、金融庁の示した法案を見ると、実際のところは、上場会社に引き続き重い責任を課すことには変わりないと言えそうだ。

 具体的には、「軽微な過失」も含めてあらゆる過失について責任を問うとしているうえ、立証責任を会社に転換し、さらに損害賠償責任の原告適格を株式の「取得者」のみならず「処分者(有価証券報告書が公衆縦覧に供されている間に、株式を売却した者)」にまで拡大しようとしており、上場会社からは、「ほとんど無過失責任と変わらない」との不満の声が聞こえる。また、損害賠償責任の原告適格(訴訟の原告となれる資格)を株式の「処分者」にまで広げたことで、訴訟が濫発される危険も拭えない。上場会社としては、これまで通り厳格な内部統制を働かせて、虚偽記載を事前に防止するほかないだろう。

 本改正をきっかけに、欧米並みの損害賠償責任制度となるよう一層の規制緩和が待たれるところだ。