IFRS(国際会計基準)を採用するべきかどうか迷っている経営者は少なくないが、IFRSに消極的な経営者が挙げるその理由の1つが、IFRSでは「のれん」の定期的な償却ができないということだ。
「のれん」とは、企業を買収したり合併した際における「支払対価-企業の時価純資産」(これがプラスの場合を「正ののれん」という。以下は「正ののれん」を前提とする)であり、「財務諸表には表れない企業の価値」と言える。つまり、のれんは投資原価の一部を構成しており、だとすれば「定期償却して費用認識するべき」との感覚を持つ経営者は意外と少なくない(もちろん、「これから先の数年の費用が少なければよい」という短期的な視野に立つ経営者は、定期償却に反対の意見を持つことだろう)。また、定期償却を行わずに、のれんの価値が下がった場合にのみ、価値の低下分を費用に計上する「減損」で対応した場合、業績が悪い時に多額の減損損失が一気に計上されて赤字幅が広がることになり、経営上不健全との指摘もある。
そこで日本の会計基準では、のれんについては「20年以内の期間」で償却し、のれんの価値が下がった場合には「減損」を行うことになっている。一方、IFRSおよび米国会計基準では、「のれん」の定期償却は認められていない(減損処理しか認められない)。そこには、利益の平準化を好む日本型経営と、業績好調時にはできるだけ利益を出し、逆に業績悪化時にはすべて“膿”を出すという欧米型経営の発想の違いがある。
こうした中、昨年より日本の企業会計基準委員会(ASBJ)で開発が始まったエンドースメントされたIFRS(=日本版IFRS。IFRSの一部を日本の会計基準に取り込んだもの)の議論では、「OCI(Other Comprehensive Income=その他の包括利益)の純利益へのノンリサイクリング(例えば、OCIに計上した持合株式の評価益は、その後持合株式を売却したことにより評価益が実現したとしても、これを当期純利益に振り替える(リサイクリング=組替調整)のは認めないということ)」と「のれんの非償却」は、修正または削除を行う項目の筆頭格として扱われており、何らかの見直しが行われるのは必須となっている。
また、「のれんは償却しない」というグローバル・スタンダード自体も見直されつつある。・・・
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