2017年11月15日のニュース「監査報告書へのKAMの記載を巡る関係者の見方」でお伝えした「監査報告書へのKAMの記載」の実施まで、いよいよ秒読みとなってきた(監査報告書へのKAMの記載については【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響や新用語・難解用語の解説も参照)。
KAM : 監査人(監査法人)が、当期の会計監査において、特に重要と判断した事項のこと。KAMとは「Key Audit Matters」の略で、読み方は「カム」。
金融庁に設置されている企業会計審議会監査部会が5月8日に公表しパブコメ(2018年6月6日まで募集)に付している監査基準の改訂案(以下、パブコメ案)では、監査人(公認会計士)に対し、監査報告書に「主要な監査上の検討事項」を記載することを求めている。この「主要な監査上の検討事項」とは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項(※後述)のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項のこと」であり、KAMを指している。改訂案によると、監査人は、企業の財務諸表にKAMの対象となる開示項目がある場合には、読み手が当該開示項目を参照できるよう財務諸表における掲載箇所を明示したうえで、会計監査に関する下記の事項を監査報告書に記載する必要がある。
・主要な監査上の検討事項の内容
・監査人が主要な監査上の検討事項であると決定した理由
・監査における監査人の対応
KAMの記載が必要になるのは、下表のとおり企業が金融商品取引法監査(すなわち有価証券報告書で開示される連結財務諸表および単体の財務諸表に対する公認会計士の監査)の監査報告書に限られる(例外については下表の*1、*2参照)。一方、会社法監査(すなわち連結計算書類および計算書類に対する会計監査人の監査)の監査報告書には記載不要となっている。
連結 | 単体 | |
金商法監査(有価証券報告書に添付)*1 | 記載必要 | 記載必要 (*2) |
会社法監査(計算書類に添付) | 記載不要 |
*1 非上場企業でも1億円以上の公募をするなどして有価証券報告書を継続的に提出している企業があるが、これらの企業のうち、資本金5億円未満または売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く。
*2 連結財務諸表作成会社では、個別財務諸表、連結財務諸表の両方の監査報告書にKAMの記載が求められるものの、両方に同一内容の「主要な監査上の検討事項」が記載されている場合は、単体財務諸表の監査報告書への記載は省略可能。
企業にとって最も気になるのは、どのようなことがKAMとして記載されるのかという点だろう。日本公認会計士協会は昨年(2017年)11月、主に大手監査法人とその被監査会社26社(以下、試行企業)の協力を得てKAMの記載を試行した結果を取りまとめた「KAM試行の取りまとめ」を公表しているが、これによると、試行企業では主なKAMとして下記の項目が選定されていた。
・資産(のれん以外の固定資産)の減損 ・企業結合に関する会計処理、のれんの計上および評価 ・引当金・資産除去債務・偶発債務 |
企業結合に関する会計処理 : たとえば「取得」に該当する企業結合(合併)においては「取得原価の算定」「取得原価の配分」「のれんの計上と償却」「増加資本」といった会計処理が難しく、発生頻度が少ないことから企業内にノウハウが蓄積しづらいこともあり、誤謬が生じがちである。
資産除去債務 : 有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるもの。資産除去債務は原則として発生時に、当該有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)を算定して負債に計上しなければならない。資産除去債務は見積もり計算に基づいて算定される以上恣意性が入りやすい。
偶発債務 : 債務保証や手形の裏書のように、期末日より前に行った行為であり、現時点では確定債務ではないものの、将来一定の条件が成就する(例えば、保証債務であれば「保証債務の履行を求められる」)ことで確定債務になる可能性があるもの
また、試行企業について監査法人が選定したKAMの主な選定理由は次のとおり。
・財務数値の算定プロセス(例えば、評価や見積プロセス)が複雑である。
・財務数値の算定に、将来事象に係る経営者の意思や主観的判断の影響を大きく受ける要素が含まれている。
監査上問題となりそうな事項がKAMに選定されているのは、KAMの趣旨(監査プロセスの透明化)からして当然と言えよう。
これらがKAMとして監査法人の監査報告書に記載されることで、それを見た株主や投資家から質問が増えることは容易に想像できる。実際、上記試行の際には、「良くも悪くも、株主や投資家からの質問は増加すると考える」との感想を示す企業があった。企業としては、KAMに選定された項目については、投資家との対話や定時株主総会の前に想定問答集を整えておく必要がありそうだ。
実施時期についてパブコメ案では、東証1部上場企業にあっては、できるだけ2020年3月決算の監査から早期適用が行われるよう、東京証券取引所および日本公認会計士協会等の関係機関における早期適用の実施に向けた取組みを期待するとしている(資料3の2ページ目を参照)。金融庁の思惑どおりとなれば、3月決算企業の監査報告書には来期からKAMが記載されることになる。
ただし、3月決算の企業の株主が、来期の定時株主総会(2020年6月総会)からKAMを見ながら質問権を行使できるようになるのかと言うと、実はそうではない。有価証券報告書は株主総会開催後に提出されるのが通常であり、それを前提にすると2020年6月に提出した有価証券報告書に添付される監査報告書に記載されるKAMを見ながら株主・投資家が質問できるのは2021年6月総会からとなってしまう。そうなると、株主や投資家からすれば、「1年遅れの情報をもとに質問しても仕方がない」ということになりかねない。
それを解決する方法は2つある。
まず1つ目は、・・・
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